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「それは……」


 その通りだ。

 ソラリスの言い分には納得しかなくて、私は思わず頷いてしまった。


「それをあいつは、『エスコートするんですから、ドレスを贈るのは当然でしょう。それとも私はそんな甲斐性もない男だと思いましたか? 心外ですね』ってイヤミを……」

「で、喧嘩したの?」

「喧嘩なんてするわけないわ。するだけ無駄だもの。ただ、このドレスが気に入らないなら、ひとりでパーティーに行くって言ってやっただけ」

「……ティーダ先生が折れたのね」


 恋愛は惚れた方が負けとはよく言うが、ティーダ先生もそれは同じらしい。

 ソラリスをエスコートできない方が嫌だと思い、自分の贈ったドレスを身につけて貰えないことを我慢することを選んだのだ。


「ソラリス……強いわね」


 いくら幼馴染みとはいえ、魔法師団の副団長を務める男を言い負かすとは、私には真似できない。


 ――でも、だからこそティーダ先生はソラリスが好きなんだろうなあ。


 なんとなくだけれど、今回の件でますますティーダ先生はソラリスのことが好きになったのではないかと、そんな気がする。

 自分に対し、堂々と意見を述べてくるどころか、言い負かしてくるソラリスをきっと彼は悪くないと思ったはずだ。

 ふふんとどこか自慢げな顔をするソラリスを見る。

 思ったことを口にした。


「ソラリス、どんどんティーダ先生に好かれてるわね。捕まるのも時間の問題かしら」

「ちょっと!? 今の話でどうしてそうなるわけ!?」

「えっ、だって自分で墓穴を掘っていっているようにしか見えないから」

「どこがよ」

「……私の勝手な推察だけど、ティーダ先生って自分の思い通りにならない女が好きってそんな感じするから。言い返してきたり、予想外な行動を取る子が好きなのかなってなんとなく思ったの」

「……」


 私の言葉に、何故かソラリスが絶句する。

 わなわなとその身体が震えだした。


「ソラリス?」

「本当だわ……」

「え?」

「どうして今まで思い出さなかったのかしら。確かにグウェインってスピカの言う通りな感じだったと思う。……しまった。あれが攻略キャラって感覚がなかったから、すっかりやりたい放題してしまったわ」

「……」


 舌打ちをするソラリスを見る。どうやら本当に今まで気がついていなかったらしい。

 私から見れば、相当ティーダ先生はソラリスのことが好きなように見えたけど、当人には全然伝わっていなかったとか……いや、これ以上言うのは止めておこう。

 なんとなくだけど、ブーメランな気がするから。

 アステール様の愛を長年勘違いしていた私が言って良いことではないなと気づき、そこには触れないことにした。

 ふるふると震えていたソラリスが、「まあでも」と気を取り直したように言う。


「大丈夫よね、きっと。あいつが私を好きとかあり得ないと思うし。言い返していたのも昔からだから今更それが切っ掛けにとか……ないない」


 昔からずっと好きだった、は選択肢に入らないのかと思いつつ、これ以上突くのもなんだか可哀想な気がしたので言わないことにする。

 ただ、ソラリスは大事な友達なので、彼女が助けを求めてきたりした時は、できることはしてあげたいと思う。

 ソラリスには私もたくさん助けられた。その分くらいは返したい。

 友人同士だからか、ソラリスと話すのは気が楽で楽しい。そのうちアステール様の休憩時間が終わりに近づいてきた。

 アステール様がため息を吐きながら言う。


「第二回、行ってくるよ。あ、そうだ。その前に、スピカ」

「はい」


 アステール様に名前を呼ばれて返事をする。彼はにこりと笑って私に言った。


「さっき父上が、久しぶりにスピカと話したいって言っていたんだ。だから一緒に来てくれないかな」

「陛下が? 分かりました。参ります」


 アステール様の父親にしてディオン王国の国王。彼とはもちろん面識がある。

 小さい時から何度もお会いしているし、息子の婚約者ということで可愛がって貰っているのだ。

 ソラリスたちに、国王の下へ行くことを告げる。彼女は笑って私に言った。


「行ってらっしゃい。しばらくここにいると思うから、用事が終わったら戻ってくればいいわよ。どうせアステール殿下がプレゼントを貰い終わるまで暇でしょ?」

「本当? ありがとう」


 誘いが有り難かった。

 待つのは苦ではないが、気心の知れた友人と一緒にいる方が楽しいに決まっている。

 ソラリスにあとで戻ってくることを告げる。

 国王に会うのは久しぶりだ。

 以前、会ってから半年くらいは経っているだろうか。

 気に掛けてもらえるのは嬉しいことだと思いながら、私はアステール様とこちらに気づいた国王の下へ向かった。



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