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6


 ノヴァ王子が私を見て言った。


「先ほどぶり。義姉上」

「はい、ノヴァ殿下。お勤めお疲れ様です」

「本当だよ。早くあいつらの元に戻りたい」


 あいつらというのは、ミミとトトのことだろう。分かります、と頷き、次にシリウス先輩を見た。


「シリウス先輩も、お疲れ様です」

「ああ」


 シリウス先輩は少し疲れた顔をしていた。おそらくたくさんの人たちに話かけられたあとなのだろう。それを口にすると先輩は肯定した。


「ああ。ここぞとばかりに声を掛けてくる。オレにはなんの力もないのに、暇なことだ」


 うんざりという顔をするシリウス先輩を見て、ノヴァ王子が苦笑する。


「で、それをオレが助けてやったってこと。感謝しろよな、シリウス」

「本当に助かりました。お礼に今度、キャットタワーの取り付けを手伝います」

「お、助かる!」


 シリウス先輩の言葉に、ノヴァ王子が嬉しそうに頷く。その様子はとても仲が良い友人のようだった。以前よりも確実に友人度が上がっている。

 シリウス先輩は、ノヴァ王子の子猫たちの世話を手伝っているから、それを通して親しさが増したのかもしれない。

 子猫が繋いだ友情。これだから猫はいいなと思うのだ。

 猫を通して、今まで親しくなかった人たちが繋がっていく。それはとても素晴らしいことだと思う。

 ふたりのやり取りは聞いているだけでも楽しい。アステール様もふたりが仲良くなるのは賛成のようで、笑顔で話を聞いていた。ときおり混ざって三人で話している。

 そんな様子をニコニコとしながら見ていると、会話に入っていなかったソラリスがこちらを見た。


「スピカ」


 ちょいちょいと手招きをしてくる。なんだろうと思いながらも、彼女の近くにいった。

 そうするとソラリスの格好が目に行く。


「ソラリス、そのドレス可愛いわね」


 彼女が着ていたのは綺麗な空色のドレスだった。彼女の柔らかい雰囲気によく似合っている。ドレスを褒めると、ソラリスは嬉しそうに笑った。


「ありがとう。これ、お父様が用意して下さったの。お城に呼ばれているのだからって」

「男爵様が? そうなんだ。すごく似合っているわ」


 新しく父親となった男爵はソラリスを可愛がっているようだ。

 こうしてパーティーに着ていってもおかしくないドレスを用意していることからも窺い知れる。

 ソラリスは少し前に育ての親を亡くし、本当の親である男爵に引き取られた。

 大事にしてもらっているようだというのは、ソラリスの話を聞いて分かっていたけれども、こうしてドレスを見ると、本当なのだなと納得できる。

 ソラリスもドレスを気にいっているようで、自慢げに言った。


「いいでしょう? このドレスを着られるだけで、今日のパーティーに来た甲斐があったって思ってるのよ!」


 笑顔で言ったソラリスは、「でも」とすっと表情を曇らせた。

 その様子が尋常ではなく、気になった私は彼女に聞いた。


「でも? どうしたの、何かあったの?」

「……このドレスを着るまでにひと悶着あったことを思い出したのよ」

「?」


 何かもめ事があったのか。首を傾げると、ソラリスはきょろきょろと辺りを見回した。そうして私の耳元に顔を近づけ、小声で言う。


「あのね……私のエスコート役、グウェインだって話はしたでしょう?」

「え、ええ。ん? そういえば先生は?」

「部下に呼ばれているとかでさっき出て行ったわよ。側についてあげられなくて申し訳ないとか言ってたけど、要らないっつーの。もうこのままひとりで帰ってやろうかしら」

「ソラリス……それは……」


 エスコート役を置いて帰ると息巻くソラリスを宥める。彼女もさすがに本気ではなかったのか、「ま、無理だけどね」と悔しそうに言った。

 更に小声になる。


「それでね、そのグウェインなんだけど、あいつ、三日前にドレスを一式送りつけてきたの。私になんの相談もなしに!」

「え……」


 声に力が籠もったせいで、せっかく小声にしたのが台無しになった。だがソラリスは気づいた様子もなく、怒りに震えながら語り続ける。


「私にはお父様が用意して下さったドレスがあるのに。当然私は無視したわ。だって何も聞いていないもの。それで今日、迎えに来たあいつが私を見てなんて言ったと思う?」

「さ、さあ……」


 碌なことじゃないなと察したが、今更聞かないというわけにも行かず、続きを促した。


「な、なんて言ったの?」

「どうしてそんな見窄らしいドレスを着ているのですか? あなたには私が贈った最高級のドレスがあるはずです。今すぐ着替えて下さい。そう言ったのよ」

「うわあああ……」


 さすがにそれはない。

 私の目から見てもソラリスは可愛い格好をしている。それはティーダ先生だって分かっていただろうに何故そんなことを言ったのか……と思ったところで気がついた。


「もしかしなくてもティーダ先生、自分の贈ったものを身につけて貰えなかったことに腹を立てて暴言を吐いたんじゃないの?」

「当たり。あいつの予定では、自分が贈ったドレスを着た私が待っているはずだったのよ。それが全然違うドレスを着ていたものだから、キレたのよね。でも、私にだって言い分はあるわ」


 忌々しいという顔を隠しもせず、ソラリスは言った。


「ドレスを贈りたいのなら、せめて一言言ってこい! 用意したあとに勝手に送りつけられても迷惑なのよ!!」




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