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 心底嫌ですという顔をしてソラリスが肯定する。


「私は嫌だったの。断りたかったの。だけどあの馬鹿グウェインのやつ、先に私の父に『私がエスコートします』って言いにいったのよ。当たり前だけどお父様は大喜び。あいつは次男だけど侯爵家出身だし、何より魔法師団の副団長という地位を持っている。男爵家のうちにはちょうど良いってはしゃいでいるわよ。何がちょうど良いんだか、嫌になるわ」

「……わあ」


 囲っている。思いっきりソラリスの周辺を囲い始めている。

 少し前にも思ったが、ティーダ先生は本格的にソラリスを手に入れるべく動き出しているようだ。


「ソラリス……大丈夫?」

「これが大丈夫に見える? もう最悪よ。お父様が喜んでいる以上断れないし……あのね、これ、ここだけの話なんだけど、第一王子の誕生日パーティーってゲームのイベントにもあるの。ちなみにそこでヒロインをエスコートしてくれるのは、その時点で一番好感度の高いキャラなんだけど……」

「つまりティーダ先生ってことよね」

「なんでこうなったの!?」


 信じられないと嘆くソラリスだったが、私はなるようになったとしか思えなかった。

 だって、どう見てもティーダ先生はソラリスのことが好きだったから。

 これで他の人がエスコート……なんて話になったらそちらの方が怖いと思う。

 あのティーダ先生以上の執着と愛をソラリスに向けているということなのだから。


「ええと、その……頑張ってね」


 それ以上どう言えばいいのか分からずそう告げると、ソラリスはリュカを抱きしめながら言った。


「最悪……いっそ休んでしまいたい……」

「え、それは駄目よ」


 王族の招待を無視するなど、相当な理由がなければ許されない。顔色を変えて首を横に振ると、ソラリスも「分かってる。言ってみただけ」と萎れながら言った。


「それくらい嫌だってこと。はああ……それでなくとも最近やたらグウェインと接触機会が多くて嫌だっていうのに」

「接触機会……ああ、ダイフクの話?」


 ソラリスがティーダ先生と接触する機会と考え、すぐに思い至ったのは彼が連れ帰ったダイフクという名前の猫のことだ。

 名前を出すと、彼女は大きく頷いた。


「そう! ……って、え? どうしてスピカがダイフクの名前を知っているの?」

「え、ティーダ先生に聞いたからだけど」


 不思議そうにするソラリスに、城に行った時のことを話す。

 ティーダ先生がアステール様に子猫やソラリスの話をしていたと告げると、彼女は嫌そうに顔を歪めた。


「は? なんで私の名前を出すわけ?」

「ソラリスにお世話になってる、みたいな話の内容だったから、じゃないかしら。不自然ではなかったわよ。ただ、一緒にいた部下の魔法師たちは驚いていたけど。あの副団長に親しい女性が!? みたいな反応だったわ」

「最悪! 何してんのよ、あの馬鹿」


 吐き捨てるように言い、ソラリスは苦虫を噛み潰したような顔をして口を開いた。


「私がグウェインの家に行っているのは、あいつが子猫の世話が分からないというからだし、名前を付けたのはどうしても私に付けて欲しいって頼まれたから。それだけ! 他意はない!」

「私は分かっているけど、周囲はそうは思わないんじゃないかしら。ソラリスもそんなに嫌なら、行かなければいいのに」


 正直な気持ちだったが、ソラリスは首を横に振った。


「それはできないわ。だってグウェインは腹立たしいけど、あの子に罪はないもの。せっかく貰われてきたのなら、幸せになって欲しいじゃない。その協力が私にしかできないっていうのならやるわよ。当然でしょ」

「ソラリス……」

「あの子も懐いてくれているし、頼ってくれているのが分かるもの。そんなの見せられたら無視できない。元々猫は好きだし……」


 リュカを撫でながら、しょぼくれるソラリスを見て、それは仕方ないと思いつつ、ティーダ先生は全部分かってやっているのではないかなと思ってしまった。

 ソラリスがどういう反応をするかまで見通して、結果、自分の意思で先生の家に来るように仕向けている。そんな気がするのだ。


「これで、グウェインがダイフクを可愛がっていないようなら絶対に許さなかったんだけど、あいつ、ちゃんとダイフクのことは可愛がっているのよ。愛情を持って接しているのは見ていれば分かる。だから余計に見捨てられないというか……ある程度は様子を見てやらないと駄目かなって思っちゃうのよね」

「……あー」


 ドツボにハマっているソラリスを何とも言えない目で見る。

 計画通りだと笑うティーダ先生の姿が見えた気がした。

 ソラリスは分かりやすい子だと私も思うので、ティーダ先生にとってはそれこそ赤子の手をひねるより簡単に操れるだろう。

 ティーダ先生に捕まってしまう未来が確実に近づいているなと思いつつも、私にはどうすることもできないので、「大変ね」と彼女を慰めることしかできなかった。



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