第26話
ティルガは優しいから私に気を遣ってくれたんだと思うけど、私だってみんなを助けたい。
魔人を素早く討伐するためにも、ここでティルガのことを話すのも一つの手だとも思った。
「ルーエン、おまえ何を言っているんだ? さすがにこのワンちゃんが霊獣のわけがないだろ?」
「ルクス! 前言撤回だ! こいつらに我が誇り高き霊獣である白虎だと宣言しろ!」
ガルスが笑いながらルーエンの肩を叩いている。
「霊獣ティルガ」
「……うん?」
ぴたり、とガルスの表情が固まる。
続いて、ルーエンもこちらを見てくる。
彼らの視線を集めたところで、私は次の言葉を口にした。
「彼は、霊獣ティルガだって。この時代に復活した霊獣なんだって。……なんでも、私が伝説の精霊術師に似た魔力だっていうから、契約したの」
一瞬の静寂の後、
「……な、なんだとぉぉぉ!?」
ガルスが声を荒らげ、同時にルーエンもこちらを見てきた。
「あ、あなた様が霊獣なのか?」
ルーエンは羨望のまなざしとともに、ティルガの前で膝をついている。
急な態度の変化に驚く私だけど、ティルガはドヤ顔である。
さっき私のことを心配してくれていたのに、そのティルガはどこに行ってしまったのだろうか。
「い、いやだが……美しい白い虎と聞いてたぞ? どうみても、かわいいワンちゃんじゃないか?」
ガルスはまだ信じられないといった様子だ。
しかし、ガルスの発言がどうやらティルガの怒りを買ったようだ。
彼は憤怒にまみれた表情とともに、低い声を上げる。
「ルクス、少し魔力を借りる」
「何に使うの?」
「こいつらに直接声を届けようと思ってな」
「そんなことできるの?」
「うむ。だから魔力を借りるぞ」
ティルガが苛立った様子で声を荒らげる。
それはたぶん、一番手っ取り早く説得できるはずだ。
私の体内から魔力が抜け出る感覚。続いて、次の瞬間、
「我はティルガ。こちらにいるルクスが言っていたように、霊獣であり、白虎のティルガだ」
「……しゃ、しゃべりやがった!」
ガルスが本気で驚き、続いてティルガが睨みつける。
「我は、ワンちゃんではない。虎の、ティルガだ」
「……え、あっ……も、申し訳ございません!」
ガルスが慌てた様子で頭を下げている。
霊獣というのは、もしや第六王子よりも立場が上なのだろうか?
すっかりビクビクしてしまっているガルスとは、別の意味でおかしくなった人もいた。
それは、ルーエンだ。
彼はまるで信仰する神にでも遭遇した信者のような顔とともにティルガを見ていた。
そして彼は、深く頭を下げる。
「て、ティルガ様……! こうして出会えて光栄でございます!」
「……ルーエン、そこまで別に頭を下げなくても」
ルーエンは床に額をこすりつけそうな勢いで頭を下げていたので、そうつぶやくように言う。
しかし、ルーエンはくわっと目をひんむいた。
「いえ! 私は霊獣様にあこがれております! というよりも、従魔を持つ我々にとって、霊獣様はまさにその頂点! そんな霊獣様をお従えするルクス様にも、当然敬意を払っております! ルクス様!」
「……」
うるさい。
さっきまでいい人だと思っていたけど、私の評価は百八十度変わった。
……やっぱり、霊獣とか言わなければよかった。
ティルガにじとりとみられ顔を青ざめるガルスと、私を神のように扱ってくるルーエン。
誰かこの場を収められる人はいないだろうか?
助けを求めるように扉のほうへと視線を向けたとき。
こんこんとノックがされた。
誰だろうか? そう思っていると、ルーエンが私を見てきた。
「も、もう一人呼びつけていたのですが……お通ししてもよろしいでしょうか?」
「別にいいし、その態度……やめてほしい」
「それでは、呼んできます!!」
ルーエン、話聞いてる?
顔は非常に整っているのに、なんだか残念なルーエンは私の後半のセリフを一切無視して入口へと向かう。
そして、ゆっくりと扉を開ける。そこには、シャーサの姿があった。
ルーエンは私の前に戻ってくると、再び深く頭を下げる。
「ルクス様も……えっと、どういう状況でしょうか?」
ガルスやルーエンをちらちらとみて、彼女は困惑した様子で声を上げた。





