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第5話



「あたしは行ったことないのよね。ルクスはどうなのよ?」

「……私も行ったことはない。けど、母さんの故郷だって聞いたことはある」

「お母さんの? それなら、巻き込まれてないといいわね」

「うん」


 ……本当にそうだ。

 ラースベドの街に行ってお母さんやティーナ姉さんに会えたらうれしいけど、それはつまり今回の事件に巻き込まれているっていうわけでもあるから……素直には喜べない。


 そんなことを話しているときだった。

 入口のほうから歓声が上がった。


 そちらを見ると、ガルスがいた。ガルスは厳しい表情とともにすたすたと歩いていき、その両脇に合流するようにナーサと知らない男性が並んだ。


「……あの人も、師団長ですよ」


 私が首を傾げたのに合わせ、アレアがそっと耳打ちしてくれた。

 道理で、歩く姿に一切の隙がないと思った。

 あの三人は、歩く姿だけでもかなりの実力者だとわかる。

 いつか、手合わせをお願いしよう。


 あの三人は皆かなり人気者のようで、まるで有名な演者のような扱いだ。

 確かに、三人ともみな美形揃いだ。

 そういえば魔力が多い人は美形になりやすいとも聞いたことあったっけ。


 彼ら三人が用意された仮設の檀上へと向かっていくと、皆の好奇の視線が追従していく。

 その視線はまるで有名な劇団員を見るかのような、どこか娯楽としての側面が強い。


 ガルスやナーサ、そしてもう一人の師団長は彼らにとっては手の届かない存在なんだろう。

 だから、こうして見られただけで舞い上がっているんだと思う。


 ガルスたちはゆっくりと歩いていき、たどりついた壇上へと昇っていく。

 私たちを一瞥できる位置にガルスたちが立つと、より一層歓声は大きく響く。


 ガルスたちの元へ、一人の騎士がやってきた。

 彼は、片手で握れるほどの魔石を持ってきて、それをガルスへと渡した。


 マイク、と呼ばれる魔道具だ。

 設置した魔石に音を送信する機能があり、確かにこの訓練場の四方には魔石が設置されているのが見える。


 私も冒険者時代に何度か連携を取るために使ったことがあったから知っていた。

 それなりのお値段であるため、ギルドで管理している貴重品だ。

 私が使ったのも、ギルド主導の大掛かりな依頼の時くらい。


『あー』


 ガルスが調子を整えるために声を上げる。美しい声が響くと、女性たちの声が強くなった気がした。


 ただ、それに合わせガルスの表情に力がこもった。

 ……変わった。

 その変化に気付いた人は、きっと少ないと思う。


『今おまえたちはなぜここにいる?』


 ガルスが発した声は驚くほどに冷たい。

 しかし、それ以上に……彼の表情は温度の低いものとなっている。


『この任務に対して、真剣な気持ちのないものは今すぐに立ち去れ!』


 怒声が四方から体を殴りつけてくる。

 ガルスは顔を真っ赤に激昂し、その豹変ともいえる変わり様に多くの人がびくりと体を跳ねていた。

 一瞬でこの場から会話はなくなり、静寂が辺りを包む。

 それを破るように、ガルスはゆっくりと口を開いた。


『今回の依頼はルエコムンドの北端に位置するラースベドの街での支援だ。回復魔法が使えるもの、ポーションの製作に長けているものを選抜している。この意味が分かるか?』


 誰かが答えるわけでもない問いかけ。

 でも、みんな分かっているだろう。

 ガルスは自身の問いかけに対して答えるように口を開く。


『多くの人々が傷を負っている。魔物との戦いで、腕や足を失った人たちもいる。今なお、回復が間に合わず、命を失っていく者たちがいる』


 その光景を想像したのだろうか。

 何名かはえづき、そこまでいかなくとも顔が青ざめている人もいる。

 ガルスは私にも確認していた。今、ラースベドの街は大変な状況なんだろう。

 慣れていない人からすれば、本当に吐いてしまうような現状のはずだ。


 私も脳内に、いくつか光景が浮かんだ。

 冒険者時代に、凄惨な姿の村や町を見たことがあったからだ。

 それらを思い浮かべても、吐いたり、体調を崩したりすることはなくなっていた。

 

 私が慣れてしまったからだ。

 それが良いことだとは思わない。

 他人の怪我を見て、悲しめるというのは才能だ。

 ただ、私たちに求められているのは感受性じゃない。

 一人でも多くの命を救うことだから……たぶん、今の私は仕事をする上では適しているんだと思う。


『気楽な考えとともに参加するというのならやめたほうがいい。まずは先にそれだけは伝えておく』


 ガルスが真剣な目とともにそう言った。

 ……私ももしかしたら気楽に映ってしまっているだろうか?

 私は母を探すという別の目的も持っている。

 もちろん、仕事がすべて片付いた後、時間があれば……くらいの認識だけど。


 一度そこでガルスは深呼吸をした後、淡々とした様子で話し始めた。

 

『さて、本題と行こう。まずはここに集まってくれてありがとう。先ほど話したが、我々の主な仕事は足りていない治療班の支援だ。だが、まだ街の付近では多くの魔物がいる。街に近づけば戦闘を行う機会も増えるだろう。覚悟しておいてくれ』


 魔物、かぁ。

 南の国にしかいない魔物というのもたくさんいると聞いている。

 ……それらと戦えるというのは、少し楽しみでもある。


『再確認だが、目指す街は南の国ルエコムンドの北端にあるラースベドという街だ』


 そういえば、お母さんの故郷ってどこだったんだろう?

 私、そういう話はまったくしたことなかったんだよね。

 この旅で、何かお母さんや姉さんの居場所のきっかけくらいは掴めたらいいな。


『これから先は危険な旅となるだろう。また皆でここに戻ってこれるよう、全力で戦おう。オレからは以上だ』


 ガルスがそう言って話をしめたが、皆が浮足立つということはない。

 さすがに、始まる前と比べて空気は大きく変化した。

 もう皆からふざけた様子は完全に消えていた。


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