第679話「承・リターントゥライト開幕!」
姫は咲に新イベントの行き先を聞く。時間移動は勿論だが、重要なのは場所だ。
ちなみにイベント名は〈リターントゥライト〉。
個人で好き勝手時間移動する分には良いのだが、ここはVRMMOの世界、基本集団行動だ。時間移動できるのはプレイヤーだけでNPCは基本できない。
本当は皆で集団行動も良いのだが、ちょっと不自由さが目立つし、サーバー移動さえ出来れば良いので。皆好きな暦に移動は可能だ、ただ、移動するさいの必要記入事項はある。
まずサーバー名。〈最古来歴〉〈今現在歴〉〈最未来歴〉のどのサーバーに移動するのか。
次に年代。現在〈今現在歴〉には歴が2つあって、まず〈創造歴〉が1000年間あり地続きで、次に〈今現在歴〉には1037年間ある。
ここは西暦を基盤にしているからどうとでもなる。約1年から2037年まで時空移動可能で開放状態である。あんまり測定してなかったから詳しい情報がまちまちだ。
で、〈最古来歴〉と〈最未来歴〉は1年から5年間が現在開放状態である。それより前後の年代はゲームシステム上ロック状態、こういうのは年代が広がれば広がるほど難易度が上がってゆく。
最後に場所。〈今現在歴〉は第一の街から第六の街周辺まで開放状態。〈最古来歴〉と〈最未来歴〉は第一の街周辺までしかロックが解除されていない。これは全プレイヤー共通事項だ。遊ぶ空間が広すぎても危なっかしいからである、自由すぎてもいけないのだ。次第にロックは解除され、行ける場所は広げるつもりである。
と言う訳で。イベント名〈リターントゥライト〉、ゲームプレイング開幕である。
全プレイヤーに広めるために、遠目から聞いても解る軽い花火がパンパンと鳴った。
咲と姫達のイベントスタート地点は〈今現在歴〉年代は不明、とりあえず中世ヨーロッパ風。第六の街周辺からスタート。
場所は、とりあえず最初なので。第一の街『始まりの街ライデン』で良いのだが。
「で、どっちから行く? 最古来か最未来サーバーか」
各プレイヤーが続々と今現在歴から、最古来歴か最未来歴サーバーに移動し始めた、そこら辺は皆自由に好き勝手である。
流石に第一の街周辺の、1年から5年間の最古来歴か最未来歴の時空間しか遊べないという制限はあるものの。
それでも新天地? へ行く理由としては心踊るものがあった。
咲は姫にウキウキ混じりに真剣に言う。
「未来人が更に未来に行くイカレ具合も捨てがたいが、まずは地盤固めで最古来かな」
「ふむ、まあ行くのは良いんじゃが最古来歴1年目は厳しいぞ、先客が居るから、行くなら5年目だな」
「解ってる、最果ての軍勢でしょ?」
姫の理解者である咲は、何故か当たり前のようにギルドランキング1位常連『最果ての軍勢』の名前があがってくる。
「うぬ、その時間軸に割り込んでぶち込む事も出来るんじゃが、あれは物語が完成してるからな。狙うは最果ての軍勢が暴れまわった後の空白期間だ。全ての始まりの歴史はもう埋まってる」
「だから安全を考慮して〈最古来歴の始まりから5年後〉なわけね」
別に2年後でも問題ないのだが、念には念を入れて、陰陽五行論風に5年間は欲しい。これくらいあれば変な被弾は防げるだろう。
「まあ、プログレッシブる時空で第二の街『雲の王国ピュリア』の最古来歴も良いが、ちょっとまだ経験値が足りないな。咲は今何やりたい?」
姫は言って咲は答える、ここからはもう何をやったって良いのだ。
「最古来歴で情報を残して、今現在歴に情報を伝達出来るか調べたい。つまり約1億年後まで情報を残せるか」
なるほどと姫は感心する。一応、情報伝達出来ないように無茶苦茶な年代幅を広げたが、地続きなので全くの別世界ではないからだ、頑張れば情報伝達出来そうである。ただし1億年という壁は普通の人間にとってはあまりに分厚く重い……。
というわけで、一旦サーバー移動ができる〈大転移門〉まで戻って移動する。サーバー移動用の大転移門は、主要都市にしか無く、今現在歴でも第一から第六の街の合計6箇所からしか転移出来ない。
普通の転移門ではサーバー移動までは出来ないのだ。
というわけで大転移門前、軽くステータスボタンを押して新しい項目を選択してサーバー転移した。
◇
現実世界、西暦2037年10月7日、学校の授業が終わった後の放課後。
仮想世界、EW世界線018A・最古来サーバー。
最古来歴5年、季節は夏、第一の街『始まりの街ライデン』。
最古来歴に入ってすぐ始まるチュートリアルを、自分達がGMとサブGMなので知ってることを二度見する羽目になるので全力スキップし。
姉妹2人は早速1億年間情報を残せるか探求の旅に出かける。
本なら100年、PC系記憶デバイスなら10年が限界だ、それが1億年記憶保出来る媒体を探す未知の旅……はっきり言って最高に面白い!
以下ちょっと駆け足気味に説明省略する……。
本やPCデバイスで残せないなら骨や岩やダイヤモンドはどうだ? 量産できるのは? 自然災害は? 本当に1億年後に情報を伝達出来るのか? 残せるのか? と試行錯誤し遊んでいた姉妹。
前情報として〈心氣〉は紙やPCデバイじゃなくても、岩石に直接情報を打ち込める、1億年保存が効く。だがしかし、どんなに優れた大魔法使いだろうと、1億年間〈魔法〉で情報を保存することは不可能なようだ。
それがこの世界のルール――。
中でも〈文法型の心氣〉が特に優れているらしい。
あと、原住民には言葉が通じなかったので仕方なく応急処置として、エスパー能力を使い、直接脳にテレパシーで会話した。最初だからしょうがない。
記憶媒体は物理的・物質的に〈存続〉していないといけない。何も無い所からいきなり1億年前の情報を読み取るのはルール違反――。
ここらへんはファンタジーだが、現実問題1億年間の保存は可能なのだろうか?
調べてみたところ、一番やりたいことと類似していたのが。
〈洞窟壁画〉で1万年以上前の情報が残っている例もある、ただし風化や損傷の可能性を考慮しないといけないとの事だった。
何度か失敗と成功を繰り返し、とりあえず前情報として、まとめる。
適切な洞窟を選び、岩石の箱と、箱の中身を文法型の心氣を打ち込んだ記憶媒体としての〈手のひらサイズの岩石〉ならば、1億年間保存することは出来る。そして1億年後に再び解読が可能だったら、〈手のひらサイズの岩石〉は存続し、文法型の心氣で再び読み込むことが出来る。
つまり、地震0の洞窟内で、雨風・人・虫などが寄り付かない岩石の箱で、多言語で記録した記憶媒体の岩石、なら1億年存続できる可能性はだいぶ上がると解った。
姉妹は、地震0の洞窟内を何とか見つけ出し。
現地人に魔法が使える人が居たので、雨風・人・虫などが寄り付かない岩石の箱に魔法の結界を貼り。
あとは〈手のひらサイズの岩石〉を〈文法系の心氣〉を使って情報を打ち込み、岩石の箱の中に入れようとしていた。だがしかし。
咲は素っ頓狂な声で、手のひらサイズの岩石に文法型の心氣を打ち込もうとしたが。姉に止められた。
「え? 今の普通の日本語だけ打ち込んで置いとけばいいんじゃないの?」
姫はやれやれといった表情で、言語の壁がどれだけあるのか説明する。
「まあ、わしら姉妹2人だけが読むなら。時空間移動……サーバー移動するのでそんな手間いらないが。1億年間誰にも読まれず、継承されないってのも、それはそれで困るんだよな……。最古来サーバーは一応、1億年前を想定しているが、現実世界の1億年前なんて恐竜の時代だからそもそも人類が居ない。そして現実問題、今は西暦2037年だから世界最古の文字は約5537年前、日本で確実に文字の存在が確認できる最古のものは、約2037年前。勿論日本人なら解るが中国の漢字だ。文字は時代によって変化するんだ、解るわけが無いだろ……。最古来サーバーの住人、NPCが読めるわけないだろ……」
と、一歩先んじて頭の良いお姉ちゃんに当たり前のように言われた……。
つまりこのまま、現代っ子チートの咲が最古来サーバーで普通の日本語を最古来に記録を残しても、例え心氣を使えたとしても、原住民は読めないし理解出来ないし、継承も出来ないわけである。
咲はチートかもしれないが、原住民NPCはチートじゃない……。これが人間1人の限界なのだろう。
妹には、あれ……? コレ詰んでね? と頭の中を過った。
「えっと……対策は?」
「最古来サーバーの言語が違うのは当たり前。可能な限りここの言語で記録する、日本語も記憶する、つまり言語調査が必要だ」
姉は次の目標を指し示した。




