第649話「承・動乱の前に」
夢と現の微睡みの狭間の中。
3人神様は左右の目をなるべく微調整しながら幻視する。
――まずは、どの世界に風移動しても逃がしません! 文法型の心気! 春夏秋冬斬! 決着はこの場所で必ずつけます!
――今のウチ1人じゃ勝てない! だから力を貸してくれ! オーバーリミッツ!
――お前は立派な神様だ! だけどウチは! 天上院咲を超えて行く!
――妖精精霊の分際で! 言葉足らずなんですよ! その力強さ!
――大昔の自分を見るようで! それがとっても! お腹が減るんです!
――長期戦になると思う? 短期戦になると思う?
――咲の気持ちを考えると、長く遊んで欲しいなぁー。
――立派なラスボスを育てたわね。
――そんなつもりなかったんだけどな。でも立派にラスボスを受け継いでくれた気がする、今ではそう思う。
――咲ー! 諦めるなあー!
神3人は正しい未来を正確に幻視した。
紆余曲折あるかもしれないが、どうやら3人が見た未来は、ほぼ確定事項のようである。
「……、ちょっと先の未来が見えたね」
天上院咲が目を白黒させながら、2人を見て声色のトーンを真面目にして言う。
「そうですね、その未来になる前に、先に温泉入っちゃって下さい、私の願いでもあるので……」
桜愛夜鈴も見たのか、その上で思考を温泉へとスズ達が誘導する。彼女達は結構優秀だった。戦場で場数を踏んだらしく、その見た目の身長差からすると考えられないほど優秀だった。
「……、そうじゃな。このタイミングしか無いな、温泉入る時間」
2人の成長と慎重な冷静さ具合に感心する現在の創造神、天上院姫は温泉卵を食べながら言う。
ということで、司祭は問答をする前に〈許され〉元の場所に帰された。
(普通の人間が居ない!?)
赤スズゴーレムが心の中で熱烈なツッコミを入れる。
(ついでに読者視点も居ない!?)
青スズ機械が心の中で豪快なツッコミを入れる。
(桃花先生という名の普通の人間が恋しい……!)
桃スズ人形が心の中で自然なツッコミを入れる。
宿屋の中を徒歩で移動中、咲は夜鈴に疑問を投げかける。それは幻視した未来の出来事へのツッコミだった。未来視した上に千里眼まで使ったみたいである。
「何で皆あんなに必死に急いでるんです? ゆっくりでいいでしょ?」
「アレじゃない? 締切とか期間とかの制限時間、私達には基本無いからさ」
「あーあと、時間事態が〈走ってる〉のかもしれないよ?」
まるで皆、時間を翔けるのではなく、時間に追われているように見えたそうな。
創造神と共に、遠い昔、遠い過去に〈時間の使者〉でもあると法螺を吹いていた、創造神になる前の記憶が蘇る、それを自覚し、現実のものとなっていた事に驚きを隠せない現在の神の巫女、姫の体がテキトウに言う。
「あー……それだけはワシのせいじゃな、ったく生卵は……」
同時に人間をとても広い意味で〈生卵〉と表現した事にも、別の人間からから見れば違和感が残る。ここには人間は居ないが……。
◇
咲と姫は、露天風呂場で自分達の衣服を脱ぎ、鈴の湯温泉にゆっくりと浸かる……。スズ達はお客様がちゃんとお風呂に入ってくれた事に、自分達の使命を果たせたと、心から安堵していた。たったこれだけの事なのにそれが出来なかった、そういう意味でもリベンジだった。
別に仮想世界、電脳ゲーム内だから衣服を着たままでも温泉の中には入れるが、それだと現実味がないので服を脱ぐことに。決して彼女らにとってはサービスシーンのつもりはない。
なので、色気とか魅惑とか雰囲気やムードは欠片も無かった。
温泉の中でゆっくり咲は暖かく座り、泉の温もりを感じながら、隣並んで腰掛ける姫へと呟く……。
「結局私は、言葉だけで。ちゃんと信じていなかった、って事か……」
「まあそうなるが、今は信じられるじゃろ? なら未来を向いて歩けるさ」
「……だね」
自分が過去ばかり、昔の思い出の中ばかり見ていたことに、今更ながらに気付かされる。近未来に生きる未来人なのにだ。
ゲーム内では真っ昼間の露天風呂、これが夜ならもう少し雰囲気が出たかなとも思ったが、彼女らは夜に生き過ぎた……。だから昼を生きる。
沈んだ太陽は何も導けない、だけど彼女達は例え光が無くとも導ける、そんな力を持っていた。
お風呂から上がった後に待っていたのは豪華な和食料理だった。
「お待ちしておりました、ゆっくり食べていって下さい~」
ゴーレム・機械・人形、スズ達無機物が心の籠もった料理をおもてなししてくれる。色とりどりの料理の品々は華やかさで溢れていた。
お橋を取り、料理を口に運び、品々をお腹の中へと流し、幸福感で満たされる……。
姉妹2人はその料理を「美味しい……」と舌鼓を打ちながら、もうすぐ幻視した未来に備えて一歩づつ、着実に心を休ませるのであった。
速歩きしたり、走ったり、一歩先を考えて行動したりもしない、ただ歩幅を合わせて進む。そこには遅れも乱れもなかった。
人間の咲は神様になってしまっていた姫の為に、自らも神様になって共に歩く選択を、決断をした。その事に後悔はない、同じ苦しみをや喜びを分かち合いたい、そのために人間として、神様として、ともに歩む……。それが家族なのだからと咲は思ったからだ。




