第407話「ネットが無い世界」
現実世界、西暦2036年4月19日。
――まどろみの中から天上院咲は眼を覚ます。
VR機器『テンジョウ』を頭からすっぽりと外して、夢の国から退場する。
――この日、世界中のインターネットが使えなくなった。
だが、何も出来ないワケでは無い。世界樹クロニクルにはアクセス出来なくても。目の前にVR機はある。
世界樹にプレイヤーがアクセス出来なくなっただけで、VR機『テンジョウ』を起動して、ネットには繋がってない世界樹ホームでキャラクターメイキングぐらいは出来る。
出来なくなったことは、そう。
――繋がらなくなった。
それに尽きるのだ。ネットの皆と、名前も知らない不特定多数の大勢と。繋がらなくなった。部屋には自分1人しか居ない、そう、【元に戻った】と言っても良い……。だから送信も受信も出来ない。
ただし、7日間という限定的。システム障害でもないし、運営によるメンテナンスと事前に告知しているので。運営に無理を通せば繋がることは出来るのだ。メンテ中だけど。
旧時代には戻るが、携帯電話は使える。そういうガス抜きとしては……。気分転換としては良いのかもしれないのかな? と……、天上院咲は思った。
「夢から覚めたか?」
「……、なんで開幕最初の言葉がソレなのよ? 皮肉?」
姫は隣で横になっている咲に対して、開幕一番でそう囁いた。
「ま、ちょっとしたお遊びじゃ」
「ん~、現実世界かあ~……」
仮想世界に居すぎたせいもあり、重力に対して不信感がある。
「さて、まずは何をやるか……」
「まずは情報収集、現状確認かな」
2人は体をもぞもぞと動かして、筋肉を伸び縮みさせる。
現実世界の体が重い……節々が痛む咲……。
おそらく姫も同様だろう……。
2人は両隣のベッドから体を起こして、座りながら語り始める。
「まず現実世界で出来る特殊能力って何だっけ?」
「見聞色・武装色・覇王色の覇気?」
色々とツッコミどころがある返答に困る咲。
「そういう意味で聞いたんじゃ無いけど、まあそうなるよね……使えるのか知らないけど」
仮想世界でオーラの修行をした身としては、今さら現実世界で覇気が使えたとしても。動揺こそはするが驚きはしない。
「あと、こっちの事情で言うと。眼に見えないアストラル体がどっかに居て。……マルチバース017、西暦2027年1月で、日本の元総理大臣が銃で死亡した。そのタイミングでゲームをしたら、詳しくは忘れたけど。16番とバトルした。……かな、覚えてる現状は……。その後、M○Uがマ○チバースサーガを発表した。……、まあザックリ言うとそんな感じだ」
本当に、覚えている範囲だが。そういう時系列らしい……。
「017が8年前で、016が更に8年前って計算?」
「2027年の更に8年前だから、2019年に元総理が殺されたのかもな……。ま、本当に知らないけど……」
GMである姫も本当に知らないらしい。
「んじゃ、まずは今の年代を確認じゃな。新聞を視ようぜ」
「ここまで来て西暦2036年じゃない、は無いでしょ?」
「いや解らんぞ~? 探偵権限みたいに、ちゃんと確認しとかないと。あとで確認してませんでした、だと〈竜騎士さん〉に揚げ足取られるぞw」
「そんな世界観イヤなんだけど……」
そして、1階に降りてきた姉妹は。新聞を確認する……。
――西暦2036年4月19日。
朝刊の新聞にはそう書かれていた。
「ちなみに、どっちが〈探偵権限〉持ってるの?」
「……、2人で良いんじゃね? こんな所でミスリードされても困る」
「確かに」
しっかりリードしたいという意味なのだろう。
この時点で、天上院姉妹の確認することは。全て現実世界の真実と言うことが確定した。
ほかの小細工は一切通用しない。念のためにもう一度確認。
〈鑑定――。現在は現実世界の朝。新聞を確認すると西暦2036年4月19日と書かれていた。〉
……と、咲と姫はスマホにメモを残した。が……。
「紙で書いた方が良いかな?」
「ん~電撃使いじゃ世界は取れない事は、もう解ってるから。紙の方が良いかもな」
「……だね。紙に残そう」
再び同様の探偵権限で鑑定内容を紙にメモ書きした。
「……、こんなゲームだったっけ?」
「ゲームじゃ無い、現実だぞ?」
「……そうだった……!」
ゲーム脳から抜け出すにはまだ時間がかかりそうだった。
咲は、再び自室に戻って。ミステリー本を手に取った。
その本の中で出てくる作中の文章を姫に言う。内容はノックスの十戒のルールだ。
ノックスの十戒
2◇探偵方法に、超自然能力を用いてはならない。
6◇探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。
8◇探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
姫は、確認するように咲の方へ顔を向けた。
「別に、本格ミステリーじゃ無いからこんくらいで良いよね?」
「ん、良いと思います~のじゃ。本当に必要なのは〈提示していない手がかりによって解決してはならない〉だと思う」
「本当だったら探偵が観測観たものは全部真実。だと良かったんだけどね、謎解きじゃそういうわけにもいかないか」
「たぶん参考文書が間違ってる。一応言っておくが、ここミステリーじゃなくてSFだからな? 少しファンタジー」
「……、そうだった」
話が本筋から少し逸れる2人だった。
◆
「お姉ちゃんとは、ほぼノータイムで会えるけど。他のプレイヤー達とは距離が遠すぎるのが問題ね……」
「まー、現実世界はワープで移動出来ないからなぁ~~~~……」
現状、この神奈川県平塚市に居るのは。天上院咲、天上院姫、近衛遊歩。それとこの前、世界一位である真城和季が3年3組に居て射程範囲内だという事が解る。
ギルド『四重奏』も、かなり昔に。北海道に居る、なんて噂を耳にしたような記憶があるものの。その真偽は解っていない。
あと、可能性として湘南桃花が湘南地域の何処かに居ること。……それ以外は何にも解ってない。移動可能な方法は、自転車か電車。
電話もあるから連絡はつく。だが、直接は会えない……。
それはそれとして……。
「げ、ゲームしたい……」
と呟く咲だったが。
「何もネットを禁止しただけで、別にゲーム自体はオフラインで出来るぞ?」
そうだった、と頭を切り替えるのに時間がかかる咲。ネットで繋がってるのが当たり前だった咲にとっては、不便極まりないわけである。
「テーマ。……ていうか、咲は現実世界でやりたいこととか目標は無いのか?」
「目標、……やりたいこと。……う~ん、無いから昼寝して良い?」
どうやら精神世界でずっと頭を使っていたから、電源を切ってお休み僕ちゃんをしたいらしい。
「……、ま。いんじゃね、じゃあ現実世界でやりたいことが見つかったら声をかけてくれ。コッチ、運営陣は本当にメンテで忙しいんだ」
「うん、わかった……」
と言うことで、咲はVR機を付けず。深呼吸をしながらゆっくりと横になった……。
◆
……と、ところが。そんなことをしていたら。「あ!」っという間に1週間が過ぎてしまった。
どうやら咲自身は。現実世界でやりたいことは無かったらしい。
よく目的も無いままナーナーに生活していたがためか。彼女は現実世界での壮大な目標。……海賊王になるとか。の長期的目標を持たない・持てない人物のようだった。
だから勉強も、宿題も、ゲームもそつなくこなし。目の前に与えられたモノだけを一生懸命頑張る。しか能が無いようだった。
そんな現実世界での咲の行動に対して、姫は……。
「……そっか。まぁ、現実世界での目標は別に無くても良いが。〈将来の夢〉ぐらいは、この3年生の内に決めてくれよ」
と、言われて。超大型メンテという名の〈息抜き〉は終わってしまった。
「んじゃ、休憩も終わったし。ログインするぞ」
「うん」
《ログインします。~以下省略~。ようこそエレメンタルワールド・オンライン3へ!》




