第298話「フェニックス・ゴールド」
ゲームマスター、農林水サンはスキルカードの販売価格欄を咲と一緒に眺めていたが。ふと、知らない単語を目にした。最初姫は、コレが価格だと解らなかった。
「ん? おい店主、このFGって単語は何じゃ? Gの下にあるって事は通貨か?」
店主は物珍しそうに冒険者を観るが、優しく説明してくれる。
「何だ知らないのかい? それはフェニックス・ゴールドって言う通貨だ!」
FG、何だか嫌な空気が漂い始める。
「難易度が、上がってる……?」
「?」
疑問文を浮かべる咲だが、農林水サンは、冷や汗を垂らした。
「おっちゃん! この通貨いつから出回ってる!?」
「西暦2035年07月06日だったかなー? すまねえな嬢ちゃん、メタな話しちまって! がーっははは!」
それはちょうどヤエザキが引退試合をした後の話だった。
店主がFGのことをきっちりかっちり説明してくれる。
「誰がどう見たって上級者向け。このFGって通貨は【必ず乱高低することを目的とした通貨だ】、そしてそれはプレイヤー全員の平均的通貨の値段じゃない。1個人。【ゲームマスター農林水サンのテンションで乱高低するように出来ている】。サンのテンションが上がればFGはプラスに上がり、サンのテンションが下がればFGはマイナスに下がる」
衝撃の事実に驚きを隠せない農林水サン、二代目世界樹クロニクルが勝手に追加したプログラムの一つだろうことは。まあまあ解った。
今は、西暦2035年07月16日放課後。
10日前に出来上がったシステム通貨だ。姉妹は、店主からFGという通貨について詳しく説明を聞く。
FG
ゲームマスターのテンションで乱高低することを目的に作られた通貨。ゲーム上のGは基本物価の高低が無い、だがこの通貨は必ず高低する。どうみたって改悪だ、だが。システムクロニクルはどうやらこの改悪をワザと作ったらしい。ゲームマスター姫のテンションが上がればFGは上がって通貨の価値が上がる。姫のテンションが低くなるとFGは下がって通貨の価値は下がる。この通貨、金は長い歴史を観ても1番安定していることを逆手にとった。1番安定しない通貨として、世界樹が、EXレベルに入ったことで生まれた難易度の高い通貨だ。
通貨の変動はほぼリアルタイム式、ネットワークを更新したら価格はほぼ変わる。全く安定しない通貨なのだ。ちなみに、そんな通貨は危険すぎて現実世界の通貨とは交換不可らしい。円もドルもダメ。あくまでも仮想通過のゴールドのみとしか交換できない。G=FG、円・ドル≠FGなのだ。テンションはゲームマスターの喜怒哀楽で判定され、喜と楽はプラスに上昇、怒と哀はマイナスに下降する。
紙幣には農林水サンの顔と神道社のロゴマーク、そして不死鳥が描かれている。この紙幣はデジタル通貨なので100FG持っていたと思ったらいつの間にか目を離した隙に、数値が333FGに更新されていたりする。
更新頻度は10秒間で1回分更新。100FGだと思っていた紙1枚が、500・3000・0.02・45FGと目まぐるしく変わってゆく。
FGは初心者でも買うことが出来る。どこの商店でも売っているので買うのは簡単だが。ある程度の熟練度が無い冒険者は100FG以上と交換することは出来ない。
ゲームマスターのテンションの乱高低と言ったが、具体的にどこまで落差が出るのか。それは10日前、1G=100000000FGからレートがスタートしている。つまりFGの価格は高がプラス1億FG、低がマイナス1億FGまで乱高低するように設定されているようにも予想は出来る。もっともこの天井知らずの乱高低がどこで打ち止めになるのかは、誰にも分らないのだ。
これの元ネタとなったデータ、ジンバブエドルは300兆ジンバブエドル=1円の価格らしいから、現実は小説よりも奇なり。である。
ちなみに、『原初のスキルツリーカード』は10000ゴールドで売られている。これはいくらネットを更新しても変わることは無い。のに対して、FGは現在9000・8000・5000FGと下がっている。これは今、天上院姫のテンションが下がっていることを意味する。
「これってつまり、今FGで買った方がお買い得ってこと?」
「数字だけ見ればそうだな! がっはっはっは!」
ヤエザキと店主は会話するが、農林水サンは笑えない。
「サンちゃんよ、そう気にする事じゃない。FGが下がれば皆が買ってくれる、買ってくれれば景気が良くなる。皆が良くなれば全体論でサンちゃんが笑顔になる。逆の感情もしかり、そういう代物だ」
「あ、そいうことか」
ハッと表情が明るくなるサン。お金の流れがやっとわかった農林水サンは気を持ち直した。ヤエザキは価格をじっと直視する。
「あ、11000FGに価格が上がった」
「元気を取り戻したって事だ、良かったな!」
ゲームマスターは察した。安定こそしないものの、昔。円の課金数値の物価が定まらない! と四苦八苦していたゲームマスターの想いを逆手にとった。不安定通貨をゲームとしてシステムが打ち込んだ代物という事だ。
「つまり、気にしたら負けってことじゃな」
「そういうことだ! お前さんの気分でゴミにもお宝にもなるってことよ!」
基準となる『原初のスキルツリーカード』の価格は、20000FGにまで跳ね上がった。流石の精神力である。
「じゃあゲームマスターとして。そのFGを買おう。今いくらじゃ?」
「100G=200FGだ!」
「10000Gを20000FGに変えて所持していよう。私が持ってた場合、テンション下がってた時に売ればプラスになる」
流石に頭の回転が速いゲームマスター。
というわけで、何とか。20000FGを手に入れた農林水サン。
「ヤエザキはやめとけ、どうせろくな結果にならないから」
「そうする。元々賭けに出るほどお金持ってないし。レベル1だし」
ヤエザキのいう事はもっともだった。
というわけで、ギルド本部には新しい通貨が出回ってたよ。という報告書を書いてギルドに提出。世界観学者としての初仕事。今日の冒険は終わった。
《クエストクリア! 50000Gと50000FGを手に入れました!》
「おろ?」
「いやくれるんかい!?」
ギルドからのクエスト報酬にしたいして、姉妹はノリツッコミした。
別件でギルドの受付嬢をしていた湘南桃花は、遠くから2人の成長にニッコリ微笑んでいた。
《ログアウトします。ヤエザキさま、農林水サンさま、お疲れさまでした。》
ヤエザキ 所持金50000G 50000FG
農林水サン 所持金50000G 70000FG
10秒後、ウッキウキで姉妹達はフェニックスゴールド今いくらだろう? と、興味本位で更新ボタンをポチイ! してみたら。どうやらよほど天上院姫さまは上機嫌だったらしく。
ヤエザキ 所持金50000G 50000000FG
農林水サン 所持金50000G 70000000FG
と、桁が3つ増えていた。姫のテンションは現在桁が3つ増える勢いらしい。
「……危なっかしいね、このお金」
「じゃな……危なっかしいおもちゃだな」
さらに10秒後にはFGの桁が5つ減っていた。
Q、もしFGという仮想通過を現実通貨と交換した場合どうなりますか?
A、現実世界の警察に職質されます。それだけ危なっかしいけど夢のあるゲーム仮想通貨ってことです。




