第273話「ヤエザキ杯:咲VS姫2」
「よし、じゃあ初手はこれじゃ」
姫はパチン。と軽く指パッチンをした。
「!?」
咲は最初は何事かと身構えたが、その違和感はすぐに聴覚の情報遮断という形で気づかされた。
《スキル『絶集中』を発動しました》
五感を1対1の動作音のみに研ぎ澄ませた集中力。その視野・聴覚・感覚はノイズというノイズを削ぎ。ネットを介して他者の共感覚を感じる行為の全く逆。今までの培ってきた、心域とは全く逆。
自分という名の精神エネルギーを動物的野生の感で、『気配を自らの意志で消し』動く。故に絶無状態の相手の気配を察知することは困難である。だから、ネットの世界でありながら。マウスボタンを軽く1クリックしたら情報がずらりと並んで判断に迷う……。どころではなく、サイトの情報欄どころか。ネットを〈断絶〉されてしまったかのような何も得られない虚無感に襲われる。
さながら忍者。
元々、天上院姫は職業は忍者。姿形も変わっていない。
天上院咲は戦慄する。目ではそこに〈イる〉のに、視覚以外の感覚が遮断されているのだ。観客の声も、自然の音も。鳥の呟きも、不自然なくらい〈無音〉。いや、実際にそこに居るのだ。咲は自身の身体を手で確かめるが、しっかり感触はある。つまりしっかりとイる。
解っていることと言えば。何千万人という人とネットで繋がっている、というのにも関わらず。その繋がりが途端に感じ取れない〈絶状態〉になっている。
どころか、百花繚乱だった観客や豪華な闘技場すら黒色に塗りつぶされ。何も情報が入ってこない。
「何これ? どういうこと?」
自分の声は骨伝導でしか、耳に聞き届かない。……息は出来る。ということは……。
(明らかに状態異常系統の技! デバフをかけられたんだ!!)
デバフをかけられたことすら感じられない。と、その時。暗闇から苦無と手裏剣が目の前から飛んできた。
風きり音も、自身が剣を握る感覚も、鉄の凶器を咲自身の力で弾き返した皮膚感覚も無かった。
ゲームマスター姫は言う。
「ふむ、合格じゃ。では元に戻してやろう」
姫はパチン。と軽く指パッチンをした。
「!?」
《スキル『練集中』を発動しました》
咲は通常以上のオーラを【出させられる】。
途端に歓声や騒音が再び戻ってくる、イヤ。通常の10倍返しで帰って来た!
『わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
「つうッ……!?」
五感が強烈に体に響く……! ドンドン! パフパフ! ガンバレー! 負けるなー! イケー! などなどなどそれこそ通常以上に色々な感覚が体を通して伝わってくる。
「あっはっは、今度は逆にバフをかけてやったぞ。喜べ我が最愛の妹よ!」
「これが、今のお姉ちゃん……!」
姫は3本の苦無をクルンクルン乱廻転させ、お手玉をして遊ぶ。
「おいおい、まだ私のターンでカードを1枚攻撃表示でセットしただけじゃぞ? これからこれから」
つまり最初の1枚目の効果モンスターカードを攻撃表示でフィールドに召喚しただけだ。と、言いたいらしい。それだけでビビるか普通? と言いたいらしい。二度言ってみた。
「上等! なら見せてあげるわ! 私の成長を!! 私の進化を!!!!」
今度は妹、咲のターンらしい。相変わらず妹に甘い姉、良くも悪くも脇が甘いらしい。
「溢れ出る魔力よ! 限界を超える! はあー!! エボリューション・極!!!!」
ギュインギュインギュインギュイン!!
ステータスオールMAXとなった状態で。咲は足と地面に力を込めて、全速全身で姫姉目がけて前へダッシュした。
祭りは、まだ始まったばかりだ。




