御嬢瑞希と櫻木姫華の過去
コツコツコツと足音が響いてくる。来ないと思っていたがどうやら来てくれたらしい。
「呼び出したのは貴女の方でしょう。なのになんでそんなに驚いているんですか」
「来ないと思っていたので」
「最初はそうするつもりでしたけど、まぁ話くらい聞いてあげてもいいなと思いまして」
櫻木姫華は私の後ろを気にしている。
ホテルからずっと黒服の人間が後をつけてきている事には気付いていた。
「後ろは何もしない限り手出ししないと思うので無視してください」
「まぁいいでしょう、それでこんな所に呼び出してどういうつもりですか? もう私達には無関係と思いますが」
「覚えてますか? 私と貴女はここで初めて会って話友達になった事を」
「ええ覚えてます。貴女の方から声をかけてきたのを」
「貴女が他の友人と話している時に話題にでていた方が気になったもので」
「まさか御嬢財閥の御嬢瑞希が私に話かけてくるなんてって最初は驚きましたが」
多分人が聞けば普通の会話だと思う。だが二人はお互いの頭に拳銃を突き合わせていた。
「貴女が彰人様を好きになっていなければもっと仲良くなれたでしょうね」
「そっくり同じ言葉を返します」
後ろで様子を伺っていた黒服の人間が数人止めに入ろうとするが二人とも引き金を引く。
「それでですね、こうババババと人がどんどん倒れていくんですよ、その後大丈夫かって声をかけてくれて」
櫻木姫華は楽しそうに身振り手振りをしながら私に説明してくれた。
「迎えが来るまでその人は隣にずっといてくれたんです。名前こそ聞き忘れましたが次に会った時には私の気持ちを伝えたいそう思ってるんです。御嬢瑞希さん聞いてます?」
「聞いてますよ、どうやらその人は私が探している方ではないようです。あの方はそんな喧嘩なんかする野蛮な人ではありませんから」
「もしや御嬢瑞希さんにも想い人が?」
それを聞かれて私は櫻木姫華に小さい頃の話を始めた。
「はい、昔家族と行ったテーマパークで迷子になっていた私を助けてくれたんです。その時に私はその方にIf you meet again Please marry meそう伝えたんです」
「また会ったら結婚してくださいですか……素敵ですね」
「その時はOKと答えてくれたのですが何分小さかったので多分その方は意味も知らずに答えてくれたんでしょうね」
「でも御嬢財閥の御嬢瑞希さんに想い人がいるなんてその人が羨ましいですね」
最初は二人ともまさか好きな人が同じなんて思っていなかった。お互いに頑張ろうと意気投合してそのまま友達になった。
それから櫻木姫華とはたまに学校で話していたが彼女は年上だったので先に卒業してしまった。
私が櫻木姫華と同じ花菜葛女子に入学する日の朝の事櫻木姫華から車で迎えに行くと言われていたが私は断り一人で向かうと櫻木姫華と使用人達に伝えた。
そして念願であったあの方に会う事ができたのだがあちらの方は私の事を忘れていた。
けど会うことができただけでも私にとっては幸せであった。
また会いたいなと思いながら伝えられた道に沿って歩いている時だった不意に見慣れたリムジンが横に止まって扉が開く。
「御嬢瑞希さん……どうも……」
「あれ? 姫華さんどうしたんですか車は必要ないってそれになんでフルネームで呼ぶんですか?」
友達ならフルネームとか苗字よりも名前呼びの方がしっくりくると言われずっとそう呼びあっていた。
「あの……さっき一緒に話されていた方は」
「そう聞いてくださいよ姫華さん、前に私が話した事覚えてますか? 私がずっと探していたあの人に会えたんです。でも私の事忘れているようで姫華さん……?」
いつも私が話す時は微笑んで聞いているのが櫻木姫華であった、だが今の彼女にはそんな微笑んでいないのだがずっと私に目線を合わせ笑っていた。
「そういう事だったんですか、やっと理解しました」
櫻木姫華はその言葉を口にした後私に言った。
「御嬢瑞希さん、どうやら私達はもう友達じゃないみたいです」
櫻木姫華はすぐにリムジンに乗り込んで私はリムジンがそのまま走り去っていくのを見ているだけだった。この後に気付いてしまった私と櫻木姫華は同じ人を好きになっていたのだと。
「あれ……?」
お互い拳銃の引き金は引いた。だが二人とも無事であったシリンダーで銃弾を確認するが拳銃には銃弾が一発も詰め込まれていなかった。目の前に立つ櫻木姫華も確認して驚いていた。
「なんで……」
「お嬢様」
そして私の前に軍服姿のサラとサラの隣に立っているのは櫻木奏多が現れた。
「奏多兄様……? なんでここに」
「サラさんから連絡があって姫華が家から出ていった時に後をつけていたんだよ。あと拳銃の弾は姫華の部屋で見つけた時に抜いておいたぞ、全くいつ誰からそんなの買っていたのか」
櫻木奏多はやれやれといった感じで頭を横に振る。
「サラには見抜かれていたのね」
「まぁお嬢様の事はよく見ているのでそれとお嬢様どうやらお嬢様の狙い通り御嬢財閥と櫻木グループの合併は阻止されたようですよ」
サラにタブレットを手渡されタブレットに目線を送るとニュースサイトのトップに御嬢財閥の総帥と櫻木グループの会長が誘拐されると大々的に流れていた。
「誘拐犯から要求は御嬢財閥と櫻木グループの合併を無しにする事らしいです。そうすれば二人とも解放すると既に黒蝶様と櫻木グループ会長の奥様が動いて合併の話は無しになりました今頃総帥も櫻木グループの会長も解放されているでしょう」
「まぁあの人なら上手くやってくれると思ってましたがまさかこんな行動を起こすなんて」
「これで瑞希さんとの婚約も無しになってしまったのは僕としても少し残念ですがね」
「私としてはあなたとの婚約なんて望んでいなかったのでせいせいしますよ」
櫻木奏多は微笑んだ表情を私に向けてくるが淡々と返答する。そして先程から櫻木姫華はずっと押し黙っていたが急に口を開く。
「帰る」
櫻木姫華は私に振り返りもせず中庭から校門まで歩いていく、櫻木奏多も櫻木姫華の後を追うように校門から出ていく。
「私達も行きましょうかサラ」
「あのお嬢様行く前にこちらに城田彰人は来ていないのですか……?」
「彰人様……? なんでサラがそんな事を聞くのですか」
「いえ、それがお嬢様から受け取った便箋を渡した後にホテルの部屋から急いで出ていったのでてっきりお嬢様の所だと思っていたので」
「便箋……? そんなの渡していないでしょう」
「ホテルの支配人にからお嬢様からだと手渡されたのですが……本当にお嬢様ではないのですか?」
そしてすぐにホテルの支配人に連絡をとるが支配人も私の名で封筒が届きそれを開けて便箋とサラに手渡すようメモが同封されそのままサラに手渡したのだと聞いた。
誰かが私の名を語ってその便箋を彰人様に手渡すように仕組んだのだろう。今こんな行動を起こせるのはあの人しか考えられない。




