夏休みの思い出
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
明日加と購買に行き、彼女がお菓子を買うのを眺め、また教室に戻ろうとすると明日加は「お手洗いに行きたい」と言い、先に教室に戻ることになった。女子同士は一緒トイレに行き、置いていこうものなら翌日からひどい目に遭う、なんて恐ろしい慣習があるらしいけど、僕が明日加の手洗いを待とうものなら捕まる。よほど正当な理由があっても──駄目だ。
明日加が、保護者から責められる事件。あれがあっても、許されないだろう。
異性を狙う犯罪があるように、同性を狙う犯罪もある。だからといって、異性がトイレのそばで待っていい理由にならない。
同性同士の犯罪はどうやって防いでいけばいいのだろう。
だんだん、今いる場から離れ、答えの出ない思考に移りそうになり、慌てて目の前の景色に集中すると、社会科準備室に入っていく黒辺誠と姫ヶ崎の姿が見えた。
漫画では無かったように思う、二人の関係。
僕は気配を悟られないよう注意しながら、教室の傍に向かっていくと、しばらくして姫ヶ崎が教室から飛び出すようにして出てきた。顔面蒼白となり、すれ違った一瞬だけで何か恐ろしいものを目の当たりにしたのだと分かった。何が起きたのか。自分だって早く逃げたほうがいいだろうに、足が動かない。
「ああ、田中」
黒辺誠が出てきた。
目が、合った。
黒辺誠は「なんか、久しぶりだね」と、柔らかな振る舞いでこちらに近づいてくる。しかしその眼差しは機械じみていて、ロボットが無理やり人間のふりをしているようだった。
殺される。
僕は息を呑む。明らかに今の黒辺誠は殺意を抱えているし、それを隠そうとしてない。いや、これでも隠しているのかもしれない。どうしてと疑問が浮かぶ。
だって黒辺誠はもっと殺意を隠すのが、人間に擬態をするのが上手かった。
完璧な黒辺誠という人間の皮を被った、化け物。それが黒辺誠と名付けられた『なにか』のはずなのに、目の前の化け物は皮が剝がれた状態で僕を見ている。
「でもどうして、こんなところにいるの」
「え……?」
「田中、社会資料室に用なんてないはずでしょう?」
「あ……まぁ」
探られている。いや、悟られているのかもしれない。悪手だった。黒辺誠と姫ヶ崎ゆりあの密会に近づいたのは。失敗だった。気配を殺すといえど相手は黒辺誠だったのに。
「なんで来たの?」
黒辺誠が僕を見据える。
殺される。
繰り返し思う。
殺される。
何度でも思う。
「……姫ヶ崎のことが、気になってて……」
僕は苦し紛れに言った。誤魔化しきれるはずがない。これで終わりだ。
「へぇ」
黒辺誠は目を細めた。
「いいんじゃない。協力しようか」
黒辺誠は優等生の笑みを浮かべる。
「えっ……」
「田中、さっきからそればっかりだね」
驚いていることを言ってるのだろう。
「いや……」
「っていうか田中、姫ヶ崎のこと気になってるんだったら言ってくれれば良かったのに。驚いたな」
言いながら、彼は社会科室の扉を閉じた。重苦しく、牢を施錠するような音が響く。
「田中、徳川のことが好きだと思ってたけど」
「いや、全然、ただの幼馴染……」
僕は素早く返した。今この状態の黒辺誠が、明日加に関心を抱くなんてことはあってはならない。明日加が殺される。
「そ、それよりひ、姫ヶ崎……大丈夫なの? な、なにかあったとか」
「ああ……学校生活とか、将来のこととか不安みたいで、取り乱しててさ。助けてあげたいとは思うけど、姫ヶ崎の人生は俺じゃどうしようもできないし、助けられないからあたりさわりなく接してたら……傷ついたみたい」
「そ……そうなんだ」
「うん。申し訳ないとは思うんだけど……俺は妹のこともあるから」
「妹さん、身体……丈夫じゃないんだっけ」
延々と言葉を選びながら話をするのはいつものことだ。でも、一言でも間違えれば、殺される気がした。
いや、僕が殺されるだけで済むならいいだろう。でもデスゲームが開かれるのが明日になるかもしれないし、そもそも明日誰かが黒辺誠により殺されるかもしれない。
明日加が殺されるかもしれない。
怖い。
生きていることより、殺されることよりずっと怖い。明日加が殺されることだけは避けたい。
「……うん。元々身体が強くなくて……過保護だとは思うんだけど、交通事故に遭ったんだ。大きな車に撥ねられてさ、身体が吹き飛ばされて、ゴミ捨て場に落ちて」
楽しくない話。しかし黒辺誠にとっては愉快この上ない話。
なのに隣にいる彼から発された声音は、不愉快を煮詰め落とし込んだとしか思えない声音だった。
「無事だったけど、そんな状態で無事なはずないし、突然死とかも考えるとさ、姫ヶ崎というか、誰かを助ける余力はなくて……冷たいけど、でも……俺には、妹のこと助けながらほかの誰かを……なんて無理だから」
「確かに、優先順位は、あるよね」
家族だから、という単語は意図的に避けた。家族だからで理解し合えるような思考を彼は持ってないし、家族だからという単語に、僕は幾度となく打ちのめされてきた。
「うん。だから……色々選んでいかなきゃいけなくて、あはは、こんなこと言っても、意味なんてないけど」
それはたぶん、俺に言っても意味がないというより、自分以外の存在に助力を求めたところで意味がないという話だろう。
黒辺誠を助けようとする存在はいるだろうが、彼を助けられる存在は、いない。
長谷が一人と孤独は違うといっていたが、おそらく、こういうことだ。
黒辺誠は、孤独だ。
それについてどう思っているかは分からない。いや、気にもしてないのだろう。理解者も理解も彼に必要ない。
「そういえば、田中は夏休みどうするの?」
「中学と変わらずに過ごす……かな」
「へぇ」
黒辺は?
クラスメイトならば、そう問いかける。
でも僕は黒辺誠の夏を知ってる。
迂闊な返事はできない。
「まぁ……キラキラした、青春みたいなのは、無理だな……って」
「あははは。なにそれ」
黒辺誠は笑う。絶対に面白いはずがないのに。
「ば、映えみたいな……」
「あぁ……でも俺もかも。あんまり写真興味ないんだよね。綺麗な景色とかも、正直……誰と見るかかな……って」
模範解答だ。人間らしい。でも黒辺誠に綺麗な景色を誰かと共有しあう感覚なんてない。
かといって僕も、綺麗な景色に興味がない。
ただ、水族館で明日加が楽しそうにしている姿を見て、明日加を通して、なんだかとても満たされた気がした。
「写真は結局、データだし、記憶も消えるけど、だからこそ、今を大切にしたいなって」
「うん」
「だから田中も、無理なんて思わず、思い出いっぱい作ったほうがいいよ」
そう言って、黒辺誠は優等生のような笑みを浮かべて続けた。
「今年の夏は一回しか来ないんだから」
ああ、デスゲームは絶対に開かれる。
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




