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悪魔のメイドさん。  作者: 春の日びより


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41/64

41 森中

 今回は多少のヘイトがございます。多少の下ネタもございますので、ご食事中はご注意ください。





 さてメンバーが揃ったところで魔の森へ出発になります。

 メンバーは森を癒す為の“緑の聖女”であるエナ嬢と、そのお付きとして王宮侍女が三名、近衛騎士が五名。雇われたらしい荷物持ちが数人。

 魔術学院側からは有志としてお嬢様と同じ最上級生が十名。その中にはエナ嬢にお願いされたセイ君とハオ君がいますね。

 彼らの引率としてマルソー先生とご高齢の先生が付いてきてくださるそうです。

 それと我らがデンジャラスボディ、シャロンお嬢様でございます。

「……レティ、また奇妙な事を考えていますわね?」

「お嬢様のお姿は本当に癒しでいらっしゃいますね」

「な、何を言っていますのっ」

 突然褒められてお顔を真っ赤にするお嬢様は本当にお可愛らしいのです。

 男子生徒達の目の癒しだけでなく、枯れ果てたようなお爺ちゃん先生まで、お嬢様が現れただけで色々とお元気になられてました。

 揺れていますので。


 とりあえずお嬢様を不埒な視線を向ける輩には毒蛾の粉を撒いておきましたので、私達も馬車に乗り込みましょう。

 ニール君の馬車を使えれば良かったのですが、森の入り口までしか馬車を使えないので、どちらにしろ置いていくしかなくなります。その場に放置するとニール君が魔の森の魔物を食い散らかして、大変なことになりそうですから。

 ニール君は大好きなお嬢様と一緒にお出掛け出来ないので寂しそうです。

『グルル』

 お土産に、あの火鳥のような大きなモノが居たら狩ってきますね。


 馬車は何台もありますが、貴族用の馬車は二台です。

 一台はエナ嬢とセイ君ハオ君が一緒に乗り込むそうです。お盛んですね。こちらの馬車にはお嬢様とメイドの私、そしてマルソー先生がご一緒です。

「しかし、突然、目を痛める者がこんなに出るとは、どうしたのでしょう……」

「不思議ですね、先生」

 何故か、出発間際に目を痛める方がいらっしゃいまして、数名の男子生徒とお爺ちゃん先生が保健室送りとなりました。

「これもそうですが、今回の件には不思議なことが多すぎます。どうして突然、聖獣が消えてしまったのか。あの聖獣は建国期よりこの国を守護していたというのに。それに参加しようとしてくれていたエリアスが、場末の喫茶店で飲んだ珈琲で食あたりをするなんて……。シャロン君は思い当たることはありませんか?」

「いえ、私にもさっぱり……」

「何か邪悪な意志が働いているように感じます」


 まあっ、それは怖いですね。不思議なこともあるものです。

 それはともかく、数時間後、私達は魔の森へ到着いたしました。


「少々人数は減りましたが……森の奥へ向かいましょう」

「「「はい、聖女様」」」


 森はいつも通り穏やかです。多少魔物が多いような気もしますが、強い魔物はあらかじめ絞めておきましたので、遠くから顔なじみのグリフォンが小さくお辞儀してくる程度でした。

「キャッ」

「ナイスショット」

 身の程知らずにもお嬢様に襲いかかったオークの下半身を吹き飛ばす。

「あ、ありがとう、レティ」

「お怪我がなくて何よりです」

 襲ってくるのは二線級の魔物ばかりです。おかしいですね……。強い魔物は出てきませんが、ここら辺ならもう少しだけ厄介な、石化や毒を使う魔物もいるはずなのに現れません。

 丁度都合良く、ここにいる騎士や学生でも対処出来るレベルのモノが出てきます。


「さすがセイ様ですわ。聖属性をお使いになるなんて、聖騎士も務まるのではありませんか?」

「ハオ様も素晴らしいですわ。見事な風魔法と遠隔攻撃で三体のオークを同時に倒しましたのよ」

「それにひきかえ……どこぞのご令嬢は、魔力ばかり強くても役立たずで困りますわ」


 お昼の休憩となりましたが、あの三人の王宮侍女達から聞くに堪えない言葉が聞こえて参ります。

 そんな心ない言葉にお嬢様のお顔が下を向く。侯爵家ご令嬢であるお嬢様に侍女如きが……と思いますが、お嬢様の話では、あの三人は伯爵家や子爵家の三女や四女で、特にお嬢様を見下す言葉を使っていた侍女は、とある侯爵家の三女で、お嬢様でも諫められない方だそうです。ぶっちゃけお局様ですが。

「………」

 静かに立ち上がりかけた私の手をお嬢様が掴む。

「ダメですわ、レティ」

「……かしこまりました」

 確かにここで騒ぎを起こせばお嬢様の立場が悪くなりますね。……ですが、言われっぱなしも性に合いません。どうしましょうか……。


「あなた達、そんなことを言ってはいけませんよ。此処に居る方々は国の大事にお手伝いくださる方なのですから」

「「「申し訳ございません、聖女様」」」


 それを諫めたのはエナ嬢でした。それだけならいいのですが、エナ嬢はわざわざシャロンお嬢様の近くまで来ると、申し訳なさそうに微笑んだ。

「シャロン様、お許しくださいますか? あの者達も悪気はないのです」

「え、……ええ」

 エナ嬢の言葉に、お嬢様も戸惑い気味に返す。

 彼女の言っていることは間違ってはいません。ですが、やっていることは間違っています。

 侍女達が“誰を”貶していたのか、わざわざ気付いていなかった他の人達にも教えてしまったのです。

 そのせいで他の人達からの視線がお嬢様に注がれる。

 正論を言っているように見えて、やっている事は“自分上げ”の“お嬢様下げ”です。 ……本気で魔物の餌にしましょうか。そんな物騒なことをチラリと考えたその時、私の思考を読んだのか、お嬢様がそっと立ち上がられた。


「ありがとうございます、エナ様。私は貴族として責務を果たしているだけです。あなたがお心を砕く必要はございませんわ」


 お嬢様はエナ嬢の瞳を真っ直ぐに見つめて、毅然とした態度でそう仰った。

 その気高くも美しい姿に、胡乱な目で見ていた近衛騎士達からも感嘆の声が微かに漏れていた。

 そもそもエナ嬢の笠を着て文句を言うばかりで、貴族としての務めをまったく果たしていない侍女達が、お嬢様の言葉に顔を赤黒く染める。

 学生達の見る目も変わり、お嬢様と言葉を交わしたことがあるセイ君はともかく、ハオ君などは真っ赤に染まった顔で、憧れの瞳をお嬢様に向けていた。


「……ご理解いただいて、ありがとうございます」


 そんな彼らの様子に、エナ嬢が暗い表情で頭を下げた。

 そんな彼女にお嬢様は少しだけ微笑むと、私の所までお戻りになり、微かに震える手で私の袖を掴んだ。

「レティ……」

「お嬢様、ご立派でいらっしゃいました」

 怖かったんですね。お嬢様はボッチ気質の人見知りですから、あの場であのようなことを言うのは、とても勇気が入り用でしたでしょう。

 私は間違っておりました。お嬢様がご立派なのは存じていましたが、それでも過小評価だったと言わざるを得ません。

「お嬢様は、(その)巨大なメロンよりもご立派でございますっ!」

「どういう意味ですのっ!?」



 昼食休憩が終わり、午前とはまた違った雰囲気で出発になりました。

 変わった事と言えば、シャロンお嬢様に好意的な視線が多くなったことでしょうか。それともう一つ、あの三人の王宮侍女達の姿が見える場所から居なくなりました。

 どうしたのでございましょうねぇ……。

 ちなみに何の関係もないとは存じますが、私ったら、ついうっかり、どなたかのお食事に、秘蔵の特殊下剤をこぼしてしまったようなのでございます。

 どこらへんが秘蔵で特殊なのかと申しますと、お腹がユルユルになるのはもちろんなのですが、下半身の筋肉が弛緩して、オート排出状態になってしまうのです。

 きっちり三人分もこぼしてしまいましたが、どなたも犠牲が出ていないことをお祈りいたしましょう。

 その後、何の問題もなく森の奥へと辿り着き、


「緑の精霊よ、私の願いを聞いて……」


『『『おおぉぉ………』』』

 エナ嬢が緑の精霊とやらに声を掛けると、枯れていた植物たちが一斉に生命力を復活させ、緑が生い茂る。

「レティ……素晴らしいお力ですね」

「……そうでございますね」

 おや? おかしいですね。エナ嬢は精霊と言っていましたが、精霊が動いた気配は感じられませんでした。

 そもそも私が居るところには、何故か精霊達が寄ってこないのです。

 感じた力は……教会の女神像から感じる力と似ていたような気がします。


 そんな感じで、大袈裟にした割りには簡単に事が済みました。

 聖獣が居ないので数年ごと定期的に癒さないといけないそうですが、次回があっても今度はご遠慮させていただきましょう。

 それに見たところ、結界とやらは随分と不安定なように感じられました。破壊するのは簡単ではありませんが、……ふむ。少々面白いことが出来そうです。


 それから順調に王都まで戻り、解散となったところでお嬢様が私の袖を小さく引っ張った。

「レティ、セイさんとハオさんが私達に手を振ってますわ」

 言われて振り返ると、赤い顔のハオ君を引っ張ったセイ君が、少し愉しげな顔をして挨拶をしてくれているようでした。

 そして……そんな二人を、離れた場所からエナ嬢が暗い瞳で見つめていた。




 

次回、お嬢様とメイドさんに迫る脅威。大丈夫デス、メイドさんが付いています。

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― 新着の感想 ―
揺れていますので < ティナ「もぎますか? それとももぎ取りますか?」 オート排出状態 > そいつはヤバいぜ! 三人とも食事は一緒にしてるだろうから、ほぼ一斉にドバッ!? もう社交界には戻れないよ……
[一言] メイドさんの居る圧倒的安心感
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