28 女神
いつからか覚えてないんだけどさー、アタシこの世界で女神なんてやってんのー。
最初はそんなつもりなくて適当にやってたら、バカな原住民が勝手に女神とか呼んでやんの、バッカみたーい。
でもほら、アタシって優しいじゃなーい? 頼りになるいいオンナって言うかー、お願いされると断れないない訳よー。アタシってマジ女神サマ。
だってカッコいい男の子とか居たら頑張っちゃおーとか思うでしょ?
女神って結構めんどくさーい。
太ったおっさんが、普段はめっちゃ適当なお祈りしかしないくせにさー、台風とか来たら助けてとか言うんだよ、めっちゃウザー。
だから面倒なんで放っておいたらさー、台風が勝手に通り過ぎちゃってそれがアタシのおかげだーって感謝してやんの。マヌケー。
でも供物とか、人間の食べ物なんか供えられても困るのよねー。もっと若い男の子とか神官増やしてよー。
アタシ一応女神サマだからさー、他の世界のことも見れたりするのよねー。
音声とか時間とかチャンネル合わせるの大変なんだけど、ある時、変な世界で変なもの見つけたんだー。なんか“乙女ゲーム”とかって言うの。
あ、アタシの話し方や外見もそこで見たものにしてるんだー。アタシってイケてる。
そんで乙女ゲームなんだけど、すっごく嵌っちゃった。
あのヒロインって、可愛くて健気で頑張り屋なんてアタシみたいじゃなーい? すっごく共感出来るのよー。
見るだけでなくて直にやりたいんだけどさー、こっちの世界にはゲーム機なんてないから出来ないのよねー。でもすっごくやりたかったから、召喚魔法を人間に開発させたんだよ。私の発想ってマジ天才。
でもそこで、すっごくいいこと思い付いたの。
乙女ゲームみたいに、人間の女の子を召喚して、実際にゲームのようにヒロインを操ってやれば、乙女ゲームが出来るって気が付いたのー。凄くない?
でもさー、アタシの世界って王子様とかいないのよねー。
みんな石とか木とか適当に組んだ家に住んでるしさー。あの変な世界は綺麗で大きな建物があったのに、こんな世界、綺麗なアタシに相応しくないと思うのよねー。
まぁ、それはいいんだけど、アタシはまた良いこと思いついたのよー。王子様がいなければ、王国を作ればいいじゃなーい?
見た目のいい神官と巫女を結婚させて、生まれた子を王子様にするんだー。
その王子様と召喚したヒロインで新しい王国を作れば、私に相応しい綺麗な国になるに違いなんだから。
そんな感じでシナリオ作ったんだけど、ほら、アタシって謙虚じゃなーい? ヒロインが上手く動いてくれるか心配になってさ。だから最初にそのシナリオを使って、あの変な世界でゲームを作らせることにしたのー。
他の世界だからあんまり干渉出来なくて面倒だったけど、アタシ頑張った。お金持ちっぽい人を十数年掛けて洗脳して、ゲームを作らせたんだよー。
【光と闇と恋のライン】って言うの。すっごいでしょ。
そのゲームをやらせて、一番こっちに来たがっている女の子を召喚してあげたら、頑張って王妃様になっちゃった。
加護と神託だけ与えて操作するのって難しいけど面白いわー。
調子に乗って2と3もゲームで売り出したけど、召喚したヒロインの女の子達は、聖女になったり王妃になったり、みんな喜んでくれたわ。
最初のゲームからこの世界の時間で千年くらい経ったけど、文明は中世くらいにしてあるの。ヒロインの子達が便利なものとか考案していたけど、なんか異界の乙女ゲームって中世が舞台じゃない? そっちのほうが雰囲気が出ると思って、文明を発展させようとした人間には神罰を与えちゃった。
それで最新作のゲーム出したから、今回は16人も呼んだわけ。
……ん? なんか変な感じがしたな。変な動物も一緒に召喚しちゃったかな? まぁいいや。今回は人数が多いから、全員の行動まで見ていられないしー。
今回のメインヒロインはこの世界の子にしたんだけど、上手く動いてくれなーい。
慎重というか何というか、せっかくこのアタシが神託をあげているのに、積極的に行動しないのよー。むかつくー。
その点、召喚したヒロイン達はさすがよねー。加護をあげただけでどんどん自分から動いてくれちゃうの。
あとはちょこちょこ干渉してやれば、攻略は上手く行くんだから愉しい。
ヒロインの一人が失敗した。……なんで? 魅了とかあるし、失敗するはずないのに、どこかで間違ったかなー。今回は悪役令嬢が三人もいるから、そっちが予定通り動かなかったのかも。ウザー。
干渉だけでどこまでゲーム出来るか試してたんだけど、遊びすぎたかなー? 残りのヒロインには神託とか出さないと拙いかも?
おっと、聖女ヒロイン候補の子が動いたわ。本当なら隠しキャラなんだけどエリアスにも会わせてあげちゃう。あの子は見た目が良くてアタシのお気に入り。子供の時から綺麗で可愛いアタシの姿を見せていたから、エリアスの難易度は高いのよ。うふふ。
……やっぱりなんかおかしい。アタシの国で予定外の行動をしている奴が居る。
アタシはこの世界をゲームの舞台にする為に、この国と周辺国を含めたエリアをアタシの結界で囲んで、そこを【スキル】が使える地域にした。
本当は世界中をそうしたかったんだけど、広すぎて無理だったわー。むかつくー。
でもこの地域のみに限定したからこそ、この地域は完璧なゲームの世界となり、アタシの影響力は絶大になる。うふふ。私の世界! この王国が世界の中心になるのよっ。
スキルの影響下にある生き物は、多かれ少なかれアタシの影響を受けるんだ。
ヒロインはなんとなく好かれやすくなったり、悪役令嬢は嫌われやすくなって性格が歪んだりもするの。
なのに、どうして聖女ヒロインちゃんが断罪されているのっ?
エリアスはどうして断罪する側にいるの!?
シャロンは魔法のスキルを与えないようにして、あれだけ苛められるようにしたのに、どうして性格が歪んでいないの!?
あ、聖女ヒロインちゃんからヘルプ来たッ!
***
魔物が大発生した第三ダンジョン――所謂“お塩ダンジョン”近くまで来ております。
「……侍女さん」
「何でございましょうか、商人様」
とりあえずは行きつけの商店に買い物に参りました。ところが商人様はせっかくの商売だというのに、旅支度のような格好をしたままどこか落ち着きがありません。
「今、魔物が出てきてることは分かってるよなっ!?」
「当然でございます」
「なのに、なんで普通に買い物をしようとしてんだよ!?」
「不可思議なことをお言いですね。ここは商店でございましょう」
「確かに商店だけど、こんな状況で客なんて来る訳ないだろっ!」
「異な事を仰いますね。そこのお砂糖と香辛料を少々戴けますか」
「だから、普通に買い物しようとするなよっ!? ここもいつ魔物が襲ってくるか分からねぇんだぞっ!」
随分と感情が高ぶられておられますね。カルシウムとミネラルが足りないのでしょうか。頭皮の防御力がさらに低下してしまいますよ。
おや、他のお客様でしょうか。
『ブモォッ!!!』
「お、オークだっ!」
「ナイスショット」
ブタのようなお客様ではなくて、お客様を装ったブタでございました。私が愛棍である【オークキラーEX】の血糊を拭いながら向き直ると、商人様は脚の間を両手で押さえて青い顔で腰を引いていらっしゃいました。
お可哀想に。このブタのような暴力的なお客様は初めてでいらっしゃるのですね。
「商人様。狩りたてほかほかのオーク一匹、おいくらで買い取っていただけますか?」
「侍女さんっ、この状況で言うことはそれだけかっ!?」
ふむ。確かにそうでございますね。
「確かに、強壮剤の素材になる○丸の部分は潰れてしまいましたね。お値段は皮とお肉の分と言うことで。もちろん、解体費用はお引き下さって結構です」
「だから、そう言うこっちゃねぇよっ!?」
「あと、店頭にある小麦の袋は少々オークに踏まれてしましたね。買い取りますので値引きしていただけますか」
「俺は避難してぇんだよっ!」
ああ、なるほど。そう言うことでございましたか。お急ぎのところをお呼び止めしてしまったのですね。私はそう言うところが察しが悪いのです。(反省なし)
お詫びとして私自らお茶を煎れて、お茶請けに乾燥ワカメを出しましょう。
その後、商人様と値引き交渉をしながら何度か襲ってきた魔物をトゲ棍棒で叩き潰していると、商人様は幼い頃に戻ったかのような瞳でどこか遠くを見つめて、避難用の荷物を片付けて椅子に座り直しました。
避難をするのは止めたようでございますね。
「それと、そこのメイプルシロップと氷砂糖をおまけしていただけますか」
「好きなだけ持ってけ、こんちくしょうっ」
「なにもタダで……とは申しません」
私が懐から乾燥ワカメの袋をもう一つ取り出しテーブルの上に乗せると、商人様は中身を確認してそっと懐にしまい込まれました。
発生源に近いとは言え、街中まで魔物が出てくるとはかなり深刻ですね。
本来、民を護るべき兵士達の姿が見えないのは、魔物が出てくる第三ダンジョン入り口である程度食い止めてくれているからでしょう。
難しいところですね。全員で食い止めなければ街に魔物が溢れる。全員でそちらに向かえば、漏れた魔物に街が襲われる。
とりあえず第三ダンジョンに向かいながら目に付いた魔物を潰していると、小さな人影が近づいて来るのが見えた。
「「「おねーちゃん、こんにちわー」」」
「こんにちは、子供達。随分と良いものを得られましたね」
「えへへ」
いつも鼻水垂らして駆けずり廻っている街の子供達です。
手には血塗れの包丁や鉈を持ち、買い取って貰える魔物の討伐部位を大事そうに握りしめていました。
「戦況は?」
「この地域の騎士隊長が重傷で離脱。今は副隊長が指揮を執ってる」
「第三騎士隊がほぼ半壊。第二王子の近衛騎士隊が魔物を押しとどめているけど、後数刻保つか難しい」
「王都の騎士隊到着にはまだ時間が掛かる」
「他に怪しい動きは?」
「特になし。他国の間者は関与していない」
なるほど。
「ありがとうございます。ご褒美です」
「「「おねーちゃん、ありがとう」」」
私がいつものように氷砂糖を与えると、子供達は満面の笑みでお礼を言ってくれました。無垢な子供達の笑顔は癒されますね。
特に怪しい行動をしている人物はいない。――と言うことは、今回の件に何かしらの“意思”のようなものを感じるのは、おそらくこの世界の【管理者】でしょうか。
厄介ですね。もう少しだけ目立たないように行動しますか。
女神はアレなひとです。
次回、攻防戦。




