黄色の人~1(店主の実話)
『変わった人がいてね。』
『誰?お客さん?』
『そう。』
オレは25年前、駅前のテナントの二階で輸入雑貨と洋品の店を開いていた。
インドネシアや南米、はたまたアフリカからの物。
店は店主の私一人。
以前勤めていた会社の、仲の良かった営業がわざわざ会いに来るというので、
【一時間ほどで戻ります。】
と店の入り口に張り紙をして、階下の喫茶店に降りて行った。
少し仕入れの話をして、雑談に入った。
『朝10時開店とともに一人の男のお客さんが入ってきてね。』
『ほら、うちの店はナウでヤングな店でだろ?』
『ナウ?ヤング?』
『そのお客さん、ヤングだけどナウじゃなかった。』
『意味がわからん。』
『格好は工事現場で働いている様な灰色のツナギ。腰にはポシェット。そこから飛び出してるのは携帯。』
『ナウじゃないか。』
『いや、携帯用の懐中電灯。』
『ふむ。』
『髪は数日洗ってないようなボサボサ。髭はボツボツ、口は半開き。』
『確かにナウではないな、、』
『来店するやいなや、ブラジル産の水晶ケースに直行。ネックレスとかピアスが並んでるとこ。そこから一歩も動かず5分以上、ジーと。』
『お前の店で5分ジーとはきついな。』
『長い。オレがきつい。声をかけようにも、あまりに真剣に固まってるから。』
『で?』
『で、突然声かけてきた。』
『なんて?』
『これって効きます?』
『効く?』
『水晶のアクセサリーには一つひとつ説明がついてて、、このアメジストは恋愛運に効くとか、これは金運に効果ありとか。』
『その彼は何を?』
『家内安全』
『ナウじゃないな。』
『で聞くだけ聞いたら、今度は商品のかかってない店の壁をジーと、、また5分。』
『壁?トータル10分経過だな。ハハッ』
『して、今度は赤や青の原色のジャンパーのコーナーに。またしばらく、』
『ジーと?』
『そしたらまた聞いてきた。『これの黄色ないですか?』』
『黄色?』
『黄色なんか元々なかったんだけど、オレが答える前に『売り切れました?』って言ってきやがった。
オレも店主の意地、『あー、売り切れちゃった。』って言ってやった。』
『ハハッ、それ意地?ハハッ』
『で今度はさッ』
『まだあんの?』
『ブーツってありますか?ときた。』
『ありとあらゆる物を探ってんな。』
『革じゃなくて合成樹脂とかで出来てるやつだって言ってきた。』
『合成樹脂?安いブーツって事?』
『それがさ、あったのよ。レジの後ろのストック置き場に。黒の。サイズもピッタリ26。』
『良かったじゃないか!売れた?』
『売れない。』
『なんで?』
『これの黄色ないですか?だって。』
『はっ、また黄色? 合成樹脂で黄色じゃ子供の長靴じゃないか!ハハッ』
『で、まだその先があってさ、、『特注で作ってもらうと高いですか?』って聞いてきた。』
『はあ?』
『ちゃんと説明してやった。一から原料調達して型を起こして、染色して、、何万円もかかるよと』
『まっ正解だわな。で、いらないって言われたろ?』
『言われた。けど答えが奮ってた。』
『答え?』
『その男こう言った。『そう思って、ホームセンターにゴムの木を買いに行った』と。』
『【絶句】』
『今度奴が来る前に、全部黄色の店にしてやろうかと思ったよ。』
『それも店主の意地かい?』
『ナウでヤングな意地だ!』
今もって彼の黄色の理由がわからない。
この黄色の人という作品は、
パート2、パート3とございますので、宜しかったら是非ご覧下さい。
黄色の人のその後であります!




