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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

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第5話

 幽霊が出る?

 アリシアの顔を見ると、彼女は本気で怯えているようだった。

 アリシアだけじゃない。ゴーラル様までだ。

 いったいこの二人は何を言っているのだろうか。


 ゴースト種の魔物が出るのならまだしも、幽霊なんて実在するわけがない。

 ゴーラル様はこほんと咳ばらいをして、続けた。


「この物件については、やはり幽霊がいるらしくてな。……前の持ち主もそれで売却しているんだ」

「……」


 本気で、言っているようだ。

 ゴーラル様の真剣な様子は消えない。


「その昔、鍛冶師が鍛冶の途中でなくなったとかなんとかで……その亡霊が今も眠っているとか……なんとか、な。とにかく、その物件はやめておいた方がいいと思うんだ」


 しかし、実際は何も起きないことの方が多い。

 というか、絶対幽霊なんていないと思うんだが……。

 俺は生まれてから今日まで、そういった類の存在を見たことがない。


「お、お父さん! そんな家をフェイクに用意するつもりなの……!?」


 アリシアは目をきっと尖らせる。

 彼女の様子に、ゴーラル様は狼狽しながら答える。


「い、いや、だからその家はなしの方向でとりあえず話を進めている。ただ、他の候補の家と比較すると、すべての面で優れているからな。一応、見てみるかと思って候補として出させてもらっただけだ。オレも勧めはしない」


 ゴーラル様に渡された紙を改めて見る。

 いわくつきの物件と合わせて五つの物件が紹介されている。

 やはり、何度見てもいわくつきの物件がもっとも条件が良い。


 値段は安く、設備は充実していて、立地も良い。

 とてもじゃないが、幽霊だなんだという理由だけでここを逃すのは惜しい。

 特に、これから商売をやっていく上では……立地は重要だ。


 冒険者通りの端の方とはいえ、街の外に向かう途中にあるんだ。

 ここに店を構えられれば、冒険者が立ち寄ってくれる機会も多くあるだろう。

 俺はアリシアの婿として、世界一の鍛冶師と呼ばれるようになりたい。いや、ならなければならないと思っている。


 何を持って世界一の鍛冶師となるかは分からないが、少なくともまったく売れないお店の店主、では示しがつかないだろう。

 そのためにも、俺はできる限り立地のいいこの店が良かった。

 ただ、二人が本気で怯えているようなので、今は断定的な言葉を使うことは避けよう。


「そうですね。この家も含めて、一度すべて見てみようと思います」

「そ、そうか……だが、幽霊だぞ。怖いものだぞ? 大丈夫か?」

「ゴースト種の魔物ならともかく……幽霊なら大丈夫だと思いますし」


 俺はまったく幽霊を信じていないが、ゴーラル様を全否定するわけにはいかない。

 ゴースト種と幽霊はまったくの別物だ。

 簡単に二種を分けるのなら、ゴースト種は倒せて、幽霊は……倒せない? くらいだろうか。幽霊の目撃情報は良く聞くが、どれも信憑性に欠けるものなので、俺も詳しくは分からない。

 ゴーラル様は考えるように腕を組んだ後、こくりと頷いた。


「とにかく。その中から店は選んでみるといい。それぞれの所有者には話を通してあり、鍵も借りている」


 ゴーラル様がテーブルを指さすと、確かにそちらに鍵が置かれていた。

 俺が一歩前に進むと、ゴーラル様は鍵束をこちらに渡してくれた。

 内見をする場合、こんなに簡単にはいかないものだが……やはり貴族としての立場というのがあるんだろう。

 その名前に傷をつけないようにしなければと、改めて思わされた。


「はい、ありがとうございます」

「それじゃあ、短いがすまないな。オレはこれから仕事に向かう。もしも、緊急の用事があればいつもの住所に手紙を送ってくれ」


 ゴーラル様はアリシアを見ると、彼女はこくりと頷いた。

 話は以上で、ゴーラル様は荷物を一つ持って書斎を出ていった。使用人たちが彼へと近づき、荷物を受け取って廊下の先へと消えていった。


「とりあえず……どうする?」

「そうだな。部屋に戻ってゆっくり確認しようと思う」


 俺たちもいつまでもここにいても仕方ない。

 部屋を出た俺たちは、朝食の後俺の自室へと集合した。

 テーブルに資料を並べ、俺は物件を眺めていく。


「とりあえず、ゴーラル様もああ話していたし、見にいってみようか」

「うん……で、でもフェイク、一つ質問してもいい?」

「なんだ?」

「……幽霊が出る場所も行くの?」

「行くつもりだけど……そんなに怖いか?」

「べ、別に怖くはない」


 いや、どう見ても顔が青ざめているんだけど……。

 それを否定するのはさすがに無理がある。


「まあ、怖いとか怖くないとかは別に問題ないさ。……とりあえずは俺一人でも見にいってみようと思う」

「……う、ううん。私も行く、よ。私だって、お店は手伝うんだから」

「……やっぱり手伝うのか?」

「うん。私、フェイクの妻だもん」


 ま、まだ結婚してないけど……。

 とは思ったけど口には出せなかった。俺の妻、と誰かに紹介できるように頑張らないとな。

 店を持った場合、アリシアにどのように仕事を手伝ってもらうかについてはまだ考えているところだったが、とりあえずは店舗選びが先だよな。


「それじゃあ、店に一度行ってみようか」

「う、うん……分かった」


 アリシアがこくりと頷き、俺たちは外に出かける準備を始めた。

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