第3話
後書きにメイド、レフィの画像も張ってあります!
アリシアの指が異様に冷たく感じるのは、きっと俺の体温が上がっているからだろう。
「あんまりからかうなって」
「ふふ、別にからかってないよ?」
嬉しそうに言われてしまうと、こちらも怒る気がなくなる。
さっきの仕返しにしては、やりすぎではないだろうか?
これは、また後で仕返しをしてやろう。
アリシアも頬が赤かったけど……今回は俺の負けとして、それを指摘することはしなかった。
アリシアは俺の髪から水分を払うため、タオルで拭いてくる。
そのタオルの柔らかさはもちろんながら、アリシアの優しい手つきに、今はなすがままでいた。
「うん、できた」
それから少し時間が経ち、アリシアの完了報告が聞けた。
アリシアの柔らかな手に髪をいじられていると、寝起きというのもあって二度寝してしまいそうになっていた。
意識を再覚醒させた後、俺は鏡をじっとみた。
寝癖だけではなく、髪もしっかり整っていた。
これなら、誰にも文句を言われることはないだろう。
「変なところはない?」
「大丈夫だと思うな」
「それならよかった。……その、フェイク、かっこいい」
鏡越しに見つめあっていると、アリシアのそんな声が聞こえた。
僅かに照れくさそうな様子ではあるが、俺も同じだった。
「……そ、そうか? とにかく、ありがとな。それにしても上手だな」
「このくらいはいつでも言ってね」
そういったアリシアの方に顔を向け、俺は笑顔を浮かべた。
「ああ。本当にありがとう。やっぱり大好きだよアリシア」
「うえっ!?」
俺がそういうと、アリシアは顔を赤くする。
不意打ち成功だ。
口をもごもごと動かしていた彼女に、俺は笑みを向ける。
「耳まで真っ赤だなアリシア」
「……か、からかった?」
「さあ、どうだろうな」
「むぅ。……それじゃあ、本気じゃなかったんだ」
「……い、いや気持ちは本気だって」
「……そ、そう? それなら……まあ、許す」
アリシアは嬉しそうに微笑み、俺も先程そう返せば良かったか……と思わされた。
で、でもとりあえずこれで、一勝一敗でいい……よな?
この勝ち星が増えることに何の意味があるかはわからないけど。
「それじゃあ、着替えるから廊下で待っててくれないか?」
「うん、分かった」
アリシアは素直に頷き、廊下へと出た。
俺はタンスにしまわれていた自分の服を取り出し、袖を通した。
使用人の人たちのおかげで皺ひとつない服だ。着るときに汚さないように気をつけ、鏡の前で立つ。
ざっとみて問題ないのを確認したところで、俺は廊下へと出た。
待っていたアリシアが俺の隣に並んでくる。
「変なところないか?」
「うん、大丈夫」
「それじゃあ、ゴーラル様のところに行くか。ゴーラル様は今どこにいるんだ?」
「お父さんは書斎にいるよ」
「分かった」
アリシアとともに部屋を出て、俺たちはゴーラル様の書斎へと向かう。
「アリシアは寝癖とかできないのか? 髪、長いよな? 寝癖とか結構できるんじゃないか?」
アリシアの髪は肩甲骨に届くほどの長さだ。
それだけの長さならば、寝癖などもたくさんできそうだと思ったのだ。
「うーん。でも、短くしていたときとそんなに代わらない気がする。結局、寝相の問題……かな?」
「アリシアって髪を短くしていたときもあるのか?」
「肩くらいまでにしていたときもある」
アリシアは自分の髪を持ってみせ、短いときを再現しようとしていた。
肩くらいのショートヘアのアリシアを想像する。
……結構似合っていそうだ。というか、アリシアならどんな髪型でも似合うだろう。
そんな妄想をしていると、アリシアが顔を覗きこんできた。
「そういえば、フェイクって髪は長いのと短いの、どっちが好き?」
「……別に考えたことないなぁ」
宮廷にいた時にそんな会話を耳にしたことがある。
髪は長いのがいいか、短いのがいいか。
殴り合いに勃発するのではないかというほどに議論がされていたけど、俺としてはその人に合った髪型が一番だと思っている。
「考えて。私、フェイクの好みに合わせたい。もっと、フェイクに興味持ってもらいたい」
アリシアの気迫の乗った問いかけに、俺は慌てて考えてみた。
けれど、結論は変わらない。
しかし、どっちでもいいと返答するのではアリシアに悪いだろう。
「……そ、そのままがいいかな」
「そ、そう?」
「ああ。今のアリシアが一番見慣れてて、いいなって思う」
俺は照れながらも、はっきりとそう伝えた。
嬉しそうに微笑んでいたアリシアが、ぴたりと足を止める。
ああ、到着したのか。顔を上げると、目の前にはゴーラル様の書斎の扉があった。
アリシアがノックし、声をあげる。
「お父さん。フェイク、連れてきた」
「そうか。入っていいぞ」
ゴーラル様の声が響き、扉を開けた俺たちは中へと歩いていく。
席に座り、何かの資料にペンを走らせていたゴーラル様は俺たちに気付くと手を止めて顔を上げる。
いつも通りの迫力と鋭い眼光。
この人と向かい合うと、自然に背筋がぴしっと伸びてしまう。
「来たか」
「お待たせしました」
「いや、気にするな。いきなり呼んだのはこっちだからな」
そう言い終えたゴーラル様はそれから腕を組んだ。
それにしても、いきなり呼ばれるなんて一体何があったのだろうか?
とんでもないことを依頼されるんじゃないだろうか?




