第38話
実際の状況を想像して緊張している俺とは違って、彼女は堂々としていた。
それから、簡単に会場内の案内をされる。
ただ、先ほど説明を受けた場所以外で、俺たちが利用することはない。
迷子にならないようにということで、会場全体を一度見て回っただけだ。
「それでは、一度休憩を取りましょうか。こちらのベンチも座ってみて大丈夫ですので、どうぞゆっくりしてください」
式場へと戻ってきたところでレフィがそう言った。
座っていいのなら、と俺とアリシアは赤絨毯横のベンチに並ぶように座った。本番ではここに貴族の方々がいるんだよな。
あまり本番のことを考えても仕方ないので、部屋全体をぐるりと見まわす。
天井は高く、美しいステンドグラスの造形が目に留まる。
室内は魔道具によって冷風が送り込まれているのだが、さすがに夏真っ盛りということもあって完全にはその熱を抑えられていなかったが、外よりも断然快適だ。
教会って、結構いい場所なんだな。
そんなことを考えながら会場を眺めていると、アリシアが肩を突いてくる。
「どうしたんだ?」
「儀礼剣のほうはどうかなって思って」
「そうだな。……たぶん、大丈夫だ」
アリシアに笑顔とともにそう返す。
これは虚勢ではなく本心からの言葉だ。
リハーサルを見て、改めて俺は自分のことを見つめなおすことができたと思っている。
この会場においても、自分の結婚式だという自覚をもって見ることができている。
あとは、儀礼剣製作に俺の気持ちをぶつけるだ。
「それなら、良かった」
ほっと胸をなでおろしているアリシアに、俺は大丈夫だといった根拠についてを伝える。
「俺は……アリシアとともにバーナストの発展のためにこの力を使っていかなきゃって思っていたんだ」
「うん」
「でも、それは少し違うと思ってな。……本当に大事なのはアリシアと一緒にいることなんだって。今はそれが分かったから、大丈夫だ」
「そ、そっか」
声が少し上ずっていたのでそちらを見てみると、アリシアは頬を赤らめていた。
……この前、アリシアは同じようなことを言っていたのに、顔を赤くするんだな。
苦笑していると、アリシアが頬を朱色に染めていた。
彼女を、そして俺自身が幸せになるために俺はここにいるのだと改めて思った。
「それでは、そろそろリハーサルを行いますか?」
「ああ、いつでも大丈夫だ」
レフィの呼ぶ声に合わせ、席を立つ。
それから俺は、台本に合わせてセリフを読み合わせていき、本番のイメージを固めていった。
リハーサルも無事終わり、あとは衣装と俺の儀礼剣の製作のみくらいが結婚式の懸念事項だろう。
鍛冶工房へと来た俺は、用意されたエイレア魔鉄の前で大きく深呼吸をした。
……今日製作するものは儀礼剣になる。
いつも全力で臨んでいるのだが、今日はいつも以上に気持ちが高ぶっていた。
鍛冶をする上ではこの熱量は非常に大事だが、それを制御するだけの冷静さも大事だ。
作業を開始する前に、何度か深呼吸をし――落ち着いたところで開始する。
まずはエイレア魔鉄を握りしめ、その魔鉄が持つ声を聞き取る。
どのような姿になりたいのか。どのような力を求めているのか。
こちらの要望を伝え、お互いに擦り合わせを終えた後、儀礼剣の製作を開始する。
魔鉄をぎゅっと握りしめ、それから俺は手袋をはめ、手に魔力を込める。
発動した火魔法を使い、持ち上げた魔鉄に熱を加えていく。
一定の温度になり、エイレア魔鉄からも声が返ってきたのを確認したところで、それらを容器へと入れる。
それから、さらに熱を入れると魔鉄は熱で真っ赤に染まっていた。
その魔鉄を板の形になるように流しこみ、それが固まるのを待つ。
とりあえず、ここまで問題ない。
その板に僅かに熱を加えて全体を柔らかくし、小槌で魔鉄を叩いていく。
形を整えるための作業だ。
もう何度も行ってきた作業だが、惰性では行わない。
……これが、俺とアリシアにとって最高の剣にするために。
エイレア魔鉄が求める姿になるよう、調整していく。
儀礼剣は様々な形があったため、その質にこだわれば見た目に関してはどのようなものでも問題ないだろう。
大事なのは、これに俺自身の気持ちを込めていくことだ。
これまでのアリシアとの思い出。
そして、これからもアリシアと理想の関係になれるようにお互いに話しあったときの気持ちをたたき込んでいく。
もちろん魔鉄が持つ魔力情報を理解し、その修正も適宜、行っていく。




