第20話
自分のために剣を作ったことがなかったので、もしかしたらこの時間が一番長くなってしまったかもしれない。
すぐに自分で試せるため、細かな違和感の調整がすぐにできてしまうのも原因だ。
そうやって何度も何度もやっていると、段々と分からなくなってしまったんだよな。
料理の味見のように、何度もやってると一つ前のほうが良かったのでは? という状況にも陥ってしまったほどだ。
しかし、時間をかけてできあがった剣は、間違いなく俺に合っていると思う。
限界ギリギリまで書き込んだエンチャントを再確認してから、剣を片手で握りしめた。
俺はできあがった剣の柄を撫でると僅かに煌めいた。
以前作った、エリアルーラーのような感覚に似ている。
エスレア魔鉄製の剣と違い、さすがにあれほどの力強さは感じなかったが、似たような力を感じる。
剣を握りしめていると、じんわりと体の奥底から力が沸き上がってくる。
アリシアを強く思えば思うほどに、その感覚は増しているようにも感じる。
……俺の希望を籠めまくったせいで、そういった剣になってしまったようだ。
まあ、俺がこの剣を使うのはアリシアを守るときくらいだろうし別に良いだろう。
剣を鞘へとしまってから、腰に差す。
これで、すべての作業は終わった。今日作製した剣たちはすべて箱に入れ、あとは屋敷に運ぶだけとなる。
俺が箱を持って鍛冶工房を出ると、夕方になっていた。
鍛冶工房を見張るように配置されていた兵士たちのうち、カプリがこちらへとやってきた。
「フェイク様。それできあがった剣ですよね? 運びますよ!」
「いいのか?」
「ええ、任せてください!」
「それじゃあ、頼む」
俺は両手を広げたカプリへと箱を渡した。
護衛がカプリ一人ならば、箱は俺が運んだほうがいいが、他にも兵士はいる。
部下の善意はなるべく受けたほうがいいというのも、貴族としての振舞いなのだそうだ。
俺としては、自分の仕事は自分でしたいが、主が雑用をしているとむしろ部下は気が気ではないらしい……。
うーん、難しい。
とりあえず嫌がっている様子はないようなので、今はこのくらいの感覚でやろうか。
兵士とともに屋敷へと向かい、屋敷の中へと入ったところでアリシアのレイピアだけは取り出した。
この剣たちをリガードさんに渡すため、彼がいるという書斎へと歩いていく。
書斎の入り口を守っていた護衛たちが、こちらに気づき軽く会釈をし、それからすぐに状況を理解したようで、扉をノックした。
護衛たちが入室の許可をとってきて、それから俺は中へと入った。
ちょうど迷宮攻略に関しての話をしていたようで、以前の会議に参加していた兵士たちの視線がこちらへと向く。
「あっ、フェイク様! もしかしてそちらの剣は迷宮攻略用のものでしょうか!?」
「ああ」
彼の前に、カプリは箱を置いた。
中を確認した兵士は目をきらきらと輝かせていた。
「どれも立派な剣ですね! これで、合計十本ですが……それにしても本当に作業が早いのですね……」
「それでいて、どれもそこらの剣の数段上のものに見えます……エスレア魔鉄を加工できる鍛冶師というのは本当に凄いのですね」
兵士からは称賛されてばかりで少しくすぐったい気分だ。
ちらとリガードさんを見ると、彼は眉間に皺を寄せていた。
凄まじい迫力は、一見すれば迷宮攻略に向けての気合のこもった表情にも見えるのだが、俺には「フェイク! 早く鍛冶しすぎだよ!」と怒っているようにも見えた。
「フェイク……もう、作ったんだな」
「はい。剣の完成が遅れてしまい、攻略の計画が崩れてしまってはと思いましたので」
「そんなことを気にするな。おまえの体のほうが大事なんだからな。まあ、できたことは感謝しよう……」
感謝しよう、というわりに元気がないのは、やはり早くできあがってしまったことが関係しているんだろうな。
「リガード様、これならば予定を早めることもできますよ!」
「オレたちに、任せてください!」
兵士たちが勢いのある声を上げるが、リガードさんはそれらに対して考えるような表情で答えた。
「いや、おまえたちはそれなりに慣れているからいいかもしれないが、今回迷宮攻略を初めて経験する兵たちもいるだろう? 彼らは予定の日に向けて、精神面での調整をしているはずだ。下手に予定をずらしてしまうと、心身のバランスを崩す可能性がある。計画はこのまま、余裕をもって進めていこう」
「リガード様……!」
「あなたは……優しすぎます……!」
兵士たちはそれはもう最上級の尊敬を込めたような瞳で、リガードさんを見ていた。
……リガードさんは、僅かに頬を引くつかせている。
きっと、本人的には早く攻略に行きたくなかったらこその言葉だったんだろう。
打ち合わせはそこで終わり、兵士たちが武器を持って外へと出る。
カプリや俺の護衛をしてくれていた兵士たちもそこで解散となったが、俺はリガードさんに手招きをされる。
「フェイク、少し話がある」
「……はい」
そう言われたので、俺はその場に残り、皆が外へと出たところで、
「フェイクー! 早く作りすぎだぁぁぁ!」
情けなく叫んだリガードさんに、詰め寄られた。




