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七十二個目

 ―― 一週間後。

 俺は、なんのお咎めもなく東倉庫のカウンターに座っていた。

 あの後に連行された俺は、事情を話し、特に怒られることもなく解放された。むしろ最後に言われたことが「ゆっくり休んでください」だったくらいだ。


 それより倉庫に戻ってからが大変だった……。



 俺はやっと倉庫へと帰ってきた。なんか懐かしい気持ちすらある。

 みんな心配してるかな? 心配してるよな?

 そんな気持ちからか、遠慮がちに俺は扉を開き中へと入った。


「た、ただいま……?」

「ボ、ボス!?」


 夜も遅いというのに、俺へとセトトルは弾丸のように突っ込んできた。

 すでに疲労困憊だった俺は、それを受け止められずにそのまま倒れた。

 顔にへばりついているセトトルは、これでもかと泣きながら頭を振っていた。


「良かった! 生きてるよ! 本当に良かったよ!」

「あ、うん……。生きてるみたい、かな? ぐほっ!」


 そして倒れている俺の腹に、ニ撃目が入る。

 俺がセトトルの間からちらりと見ると、それはフーさんだった。

 こっちも泣きながら俺の腹に頭を食い込ませていた。


「キュン、キューン(いやいや、ボスお疲れさまッス)」

「キューンとフーさんもただいま……。なんかもう、本当に疲れたよ」

「キューンキュン! キューンキューン!(だから僕が付いて行くって言ったじゃないッスか! 次からはちゃんと戦力を確保して行動するッス!)」

「ごめん、今日はつっこむ元気が……」


 俺がぐったりとしていると、セトトルとフーさんがバッと俺から離れた。

 二人の体温は生きていることを実感させてくれて、とても良かったのだが……どうしたのだろう?

 いきなり俺から離れた二人は、声を揃えてこう言った。


「「臭い」」


 二人の顔を見ると、青とか緑とか茶とか黒とか変な色に染まっている。

 そういえば、俺まだ腰みの一丁だったし体もひどい色のままだ。でもさ……感動が台無しだよ、二人とも。




 そんな少しもやっとする感動劇を過ごし、俺は今日もぼんやりとカウンターに座っている。

 この数日、様々な人が俺へ会いにきては「良かった」と、そう言ってくれた。

 元の世界ではこんなことは絶対になかっただけに、感動もので目が潤んだものだ。

 そんなことを思い出していると、店の扉が開かれる。

 俺はそれに合わせ、立ち上がり頭を下げた。


「いらっしゃいませ、東倉庫へようこそ」

「申し訳ありません、客ではないです」


 聞き覚えのある声に俺が顔を上げると、そこにいたのは副会長だった。

 その真剣な顔を見て、俺はついにこのときが来たと思った。

 俺への沙汰が決まったのだろう。うまくまとまったとはいえ、俺がオーク族に加担したのだ。なにも無しとはいかなかったのだ。


「今すぐ全員で、商人組合に来てもらえますか?」

「全員、ですか?」

「はい、全員に関わることですから」

「……分かりました」


 俺は椅子にかけていたジャケットを身につけ、何事か分かっておらず、能天気な顔をしている三人を連れて商人組合へと向かった。



 商人組合へ着き、奥の会長室へと通される。

 普段とは雰囲気が違う俺に気付いたのだろう。このころには、三人も少し暗い顔をしていた。

 俺たちが副会長へ続き会長室の扉をくぐると、そこには想像通りアグドラさんがいた。


「よく来てくれたな、座ってくれ」

「……はい」


 会長室の中にあるふかふかのソファに、俺たちは座る。

 そして向かい合うようにアグドラさんが座り、その横に副会長が立っていた。

 正直、俺はもう覚悟ができていた。だから、動じることなくアグドラさんを見る。

 だが……彼女は俺と目が合うと、にっこりと笑った。


「今回の件について、一段落ついたのでな。その説明をさせてもらう」

「はい、覚悟はできています」

「覚悟? よく分からないが、説明を続ける。まずオークたちに蔓延していた病気については、問題なく収まりそうだ」


 俺はそれを聞き、ほっと胸を撫で下ろした。

 良かった。それだけ聞ければ十分だ。今考えれば、頑張ったというより駄々をこねただけのような気もするが、それで助かったのならなによりだ。


「そして、ナガレさんには王都より出向命令が出ている」

「王都……」


 もしかして、死刑ですか? それとも牢獄にぶち込まれる? 覚悟をしていたとはいえ、お先は真っ暗だ。


「元々商人組合の本部より、顔を出してほしいと言われていたのでな」

「はい、長らくお世話に……え?」

「ん? 町を救った英雄だぞ? オークたちとの関係改善を踏まえても、妥当なところだろう」


 ……あれ? なにか俺の予想と違うような気がする。

 俺、オークを手伝った罪で罰されるんじゃないの?


「英雄!? ボスすごいよ! 英雄って言われた管理人なんて、きっといないよ!」

「すごいわぁ! 今夜はパーティーねぇ!」

「キューンキューン!(ボスはいつかやると思っていたッス!)」

「キューン、その言い方は犯罪者に言うことだからね」


 アグドラさんはにこにこと笑い、頷いていた。副会長は先ほどまで真剣な顔をしていたのに、今はにやにやと笑っていた。

 この人……俺を謀ったのか! この笑い方、間違いない! 俺が戦々恐々としていたことに気付き、わざと真剣な顔をしていたんだ! 畜生!


「そしてこれは町長と話し合った結果なのだが……。東倉庫の借金を、町で請け負いたいということだ」

「え? 借金? 一億なくなるんですか?」

「うむ。町の財政も良くなってきているとはいえ、この金額を出すことはギリギリだった。それでも、なにかしらの形で報いたいということだ。オークの薬代については、冒険者組合もかなり負担してくれたのが良かった」


 俺は唖然としていた。

 正直、言葉も出ない。シャッキンナクナッタ? 借金なくなった!? まじで!?

 俺はきょろきょろと周囲を見ていた。これはドッキリとかじゃないのだろうか?


「そして一つだけ、悪い報せがある」

「ですよね! いやー、そうだと思ったんですよ!」

「ん? そうか、薄々気づいていたのか」


 そりゃそうですよ! こんな都合良く物事が進むわけがありません!

 今度はなんですか? 借金は返してやるけど、倉庫は取り上げとかですか?

 それとも今までの話は、色々な点と踏まえると、プラスマイナスゼロで全部なし! 代わりにお咎め無しですか? そんなことだと思ったんですよね!


「東倉庫の倉庫部分には問題がないのだがな、居住部分がその……手抜き工事らしい。工事費用をオルフェンスが中抜きしていたようだ」

「え……」

「いや、そう悲観しないでくれ! いくらなんでも自分が住んでいた場所だ! いきなり崩れるようなことはあるまい! 数百万ほどかけて、補修作業をすれば問題ないはずだ」


 あの人、色々やらかしすぎだろ。

 前町長も踏まえて、本当に最低だな。


「まぁすぐにでも補修工事は始める手筈だ。いやいや、倉庫の周囲の部分も特殊な造りだからな。崩れる前に気付いて良かった。崩れていたら、3000万ほどはかかっていたはずだ」

「そうなんですか。でも先に気付いて良かったです。すみませんが、よろしくお願いいたします」

「うんうん……おっとそうだ。王都への出向については、1週間ほどになる。往復の時間も考えると、3週間から一ヶ月ほどの日程だろうか? 休暇のつもりで、ゆっくり行ってきてほしい。その間、東倉庫についてはこちらで対応をするので心配しないでいい」

「はい、ありがとうございます」

「オレも行く!」

「キュン!(僕もッス!)」

「私もよぉ!」


 こ、この三人は我儘を言いおって……。

 でも、俺も初めて行く場所だ。この三人がいたら安心ではある。連れて行けない、かな?

 俺がちらりとアグドラさんを見ると、彼女は穏やかに笑っていた。


「分かっている分かっている。全員で行ってくるといい。全員、王都へ行くのは初めてだろう? 楽しんでくるといい」

「なんか、すみません……」

「いやいや、町の英雄に対してのお礼と考えれば、大したことではないさ」


 その後、補修工事の予定を聞きつつ、ついでに倉庫の扉や玄関を広くしてもらうこと。

 雨の時を考えて、荷馬車で入口に入れるようにしたいこと。

 台車を運用するので、段差などにスロープをつけてもらうこと。

 色々なことをこの際だから頼んでおいた。少しくらい甘えさせてもらってもいいよね?


 そして王都への出発予定は一週間後。それまでに色々と用意をしないといけない。

 だがそんなことが気にならないくらい、俺は浮かれていた。借金なくなるからね!



 帰り道、東通りを俺たち四人は意気揚々と歩いていた。

 歩いているのは俺とフーさんだけだが、まぁ歩いていた。


「旅行だよ旅行! 王都ってすごいんだろうなぁ……。あ、オレ新しい服買わないと!」

「私も新しい服がいるわぁ! ……服といえば、ボス。エプロンを着けたままよぉ?」

「え? 本当だ。ちょっと焦ってたからね。脱ぐのを忘れていたよ」

「キューン!(おっちょこちょいッスね!)」


 俺たちは笑っていた。もうこれ以上の幸せはないとばかりに笑っていた。

 ……そんな俺たちの耳に、何かが崩れる音。壊れる音。もうなんというか、大きな爆音が聞こえてきた。


「わっ! ……え? なんの音?」

「あっちから聞こえてきたわねぇ? 揺れていたし、地震かしらぁ?」

「キュン、キューン(あっちにあるのは、東倉庫ッスね)」

「はっはっは、いやいやそんななにを……」


 俺たち四人は顔を合わせ、同時に走り出した。



 崩れた音がした場所がどこかは、すぐに分かった。

 そりゃそうだよね、ここ東倉庫だもん。


「「「「……」」」」


 俺たちは無言で、立ち尽くしてその惨状を見ていた。

 周囲にはたくさんの人が集まっている。みんなが代わる代わるに俺たちへ声をかけてくる。


「管理人さん! 無事で良かった! 店の中に人は?」

「店は閉じていたので、お客様もいなかったと思います……」

「おい、ボス無事か!? 他のやつらは……全員いるな。怪我がなくて良かった。一体なにがあったんだ? 大きな音がしたから慌てて来たら、倉庫が崩れていやがった」

「おやっさん……」


 全員無事です。怪我がないのも良かったです。でも毛がないのは、おやっさんの頭です。

 俺はそんな使い古されたギャグを考えるほどにテンパっていた。

 え? なにこれ? 倉庫、崩れてるよ?


「は……」

「ボス?」

「あっはっはっはっはっは!」


 俺は笑いながら、隣で心配そうにしているおやっさんの背中を叩いた。

 そんな俺を見て、周囲が慌てだす。後から走ってきたウルマーさんも、俺を見て慌てている。

 はっはっは、みんな俺を見て慌てているぞ。


「ちょ、ちょっとボス! 落ち着いて!」

「ボスが壊れちゃったよ!? オレどうしよう!? こういうときはえっと……分かんないよ!」

「ボ、ボス? 大丈夫よぉ? みんな怪我もなかったことだし……」

「キュン、キュン……キュン(形ある物、いつかは崩れる……ッスね)」

「あははははははははははははは!!」


 どんどん人が集まってくる。

 そりゃもう、この町にきてから知り合った人がたくさん視界に入る。

 笑っている俺を取り囲み、みんな色々となにか言っている。でも全然頭に入ってこない。

 俺の肩を掴み、おやっさんが声をかけてくる。


「ボス! しっかりしろ! 大丈夫か!」

「あっはっはっは……は……ははは……」


 体が傾き、地面に倒れそうになる。そんな俺を、ギリギリのところでおやっさんが支えてくれた。


 いいことだけが続くなんてことは、絶対にない。いい教訓になった。

 居住部分の建て直しが3000万だっけ?

 ……結果だけ見れば、借金が7000万減った……よ。


 そのまま倒れた俺は、疲れのせいもあってか謎の高熱を出し、一日寝潰したのであった。

借金:1億100万Z→0Z→3000万Z


 ついに借金が劇的に減らせました!

 いやー、長かったです! でも借金も減り、主人公も喜んでくれていると思います!


 オークの部分は自分的にも課題がとても多かったです。正直、何度か書きなおそうか悩んだレベルでした。

 ですが、読んでくださっている方のためにも、そのままこの章をしっかり終わらさせて頂きました!

 次の章以降に活かせるよう、頑張りたいと思います!


 ということで、次回から新章! 嘔吐……王都編となります!

 よろしければ、引き続きよろしくお願いいたします。

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