五十一個目
金は入った。
だが使い道で悩む。
一番大きい問題となる、人件費はどうだろうか?
一人15万Z~20万Zとし、三人で45万Z~60万Z。もちろん後々は給料を上げることも考える必要がある。
現在の月収は228万4千Zと、いきなり膨れ上がった。
組合費などは現在、商人組合が負担してくれている。借金が返し終わったら、そちらにも手をつけないといけない。
日々の生活費だってある。四人分の生活費を、実は全額俺が出している。
今後は三人から少しずつ徴収することを……。いや、キューンのスライムゼリーのことを考えれば、お釣りがくるほどだ。とりあえず今まで通りでいいだろう。
……四人分の生活費?
ここで俺は大事なことに気付いた。
じ、自分の給料ってどうしたらいいんだろう……?
俺はとりあえず、倉庫内に時計をつけたり、階段前の扉に鍵をつけたり、倉庫の扉を両開きにして広くしたり、玄関も両開きにして広くすることや台車。この辺りを中心に考えた。
倉庫内と二階に時計、階段前の扉に鍵。ここはそんなにお金がかからないはずだ。とりあえずはそこから手をつけるかな……。
……そういえば保険とかもないが、怪我や病気の医療費はどうなるんだろう? そういう費用もとっておかないといけないのか。
やはり迂闊に金を使うべきではない。倉庫の管理人とは、こんなに色々考えることがあるのか。頭が痛い。
とりあえず明日は雑貨屋と工房に行こう。よし、そう決めた。
俺の給料は……あの人たちに話を聞いてみるしかないか。……三人呼び出すと大変なので、一人ずつ話を聞こうかな。
「ボスー! 荷物整理と掃除が終わったよ!」
「キュンキューン(確認作業もを終わったッス)」
「二人ともお疲れさまぁ。今、お茶を淹れるわねぇ」
「お疲れ様……ってもう夕方!? 今日はこの辺で店を閉めようか。あ、三人はゆっくりしていていいよ」
俺が椅子から立ち上がり入口に向かうと、なぜか三人も付いて来た。
……実は、最近こういうことはよくある。
例のワイバーンの卵の件が終わってから、三人の誰かが俺に付いている。
一度聞いてみたのだが、今度は攫われたりしそうで怖いらしい。そんな簡単に攫われてたまるか! とも思うのだが、本人たちが納得するまではこのままにしておくことにした。
俺はなぜか頭の上にセトトル、左足に纏わりつくキューン、右腕に張りつくフーさんを引きずりながら店を閉めたり片付けをした。邪魔くさいが仕方ない。
明日は朝から工房に行き、帰りに雑貨屋に行くとして……。ちょっとお金入ったんだよね。
少しくらい贅沢してもいいよね……?
そう決めてしまえば早かった。
「よし! 今日はおやっさんの店で夕食を食べよう! 準備準備!」
「やったー! オレ今日はなにを頼もうかな! こないだ食べたグラタンがいいかな?」
「キューンキューン(今日はリンゴとか丸齧りしたいッスね)」
「やっぱりパスタかしらぁ。女子力が高くなるらしいしねぇ」
みんな各々頼みたい物があるらしく、とても楽しそうにしていた。
たまには労わないとね! ……いや、数日前にも行ったばかりじゃなかったっけ?
「ボス! 早く早く!」
「ん? あぁ、行こうか」
まぁ細かいことは置いておこう。ご飯ご飯!
俺たちはいつも通り、おやっさんの店に来た。
そしていつも通り扉を開き、おやっさんに挨拶をする。
「おやっさんこんばんは!」
「ん? おぉ、ボスか。いいところにきたな」
いいところ? 席が埋まりかけてたのかな?
店の中を見てみると、今日も盛況のようでかなり人が入っている。少し早い時間に来たのに、店の半分くらいは埋まっていた。
なるほど、埋まる前に来れて良かったということだろう。さてどこに座ろう……。ピタリ、と俺は止まった。
そして一点を凝視する。
「だからよぉ、そろそろ四倉庫内でもリーダーっつうかまとめ役っつうかな? そういうのがいると思わないか?」
「……ダグザムにしては一理ありますね。確かに、今後はお互い協力関係をとれた方がいいでしょう。そのためには上下関係もはっきりさせておきたいところです」
「えぇ、私もその意見には賛成ですわ。もちろんリーダーが誰かは、言うまでもありませんよね?」
……俺はおやっさんに背を向け、軽く手を挙げた。
「お邪魔しました」
危ない危ない、早めに気付いて良かった。相談したいことはあったが、一人一人ならともかく三人同時は大変だ。
今日は知らない店に入ってみるかな? それともなにか買って帰るのもいいかもしれない。
肉を買って帰って焼くのとかはどうだろう? リンゴは買えばいいし、パスタくらいなら俺も作れる、グラタンに挑戦するのも悪くない。うん、色々思いつくな。
そんな俺の肩が、ガシッと掴まれた。
恐る恐る振り返ると……おやっさんがにっこりと笑い、親指で彼らを指差した。無言の圧力を感じる。
「いえ、ちょっと先に買い物を済ませて来ようかと思いまして……」
「そうか、ならセトトルたちは置いていくんだな?」
「……実は、たまには違う店を開拓してみようかと思っていたんです」
「そうか、つまりうちの店には飽きたってことだな?」
「「……」」
おやっさんは、笑顔を崩さず俺の肩を掴んだままだ。俺も同じように、おやっさんへ笑顔を返している。
セトトルたちは、俺とおやっさんの様子を少し離れて見ている。口を出せる雰囲気じゃない、そういう感じなのだろう。
俺は肩を掴んでいるおやっさんの手を、掴んで剥そうとする。
「いえいえ、この店は最高ですよ? ですが、たまには肉じゃなくて魚が食べたい日もあるじゃないですか!」
「魚が食いたいなら、魚料理をサービスしてやるぞ!」
「比喩ですよ!」
「分かってらぁ!」
お、おのれ……。俺の非力さでは、この腕を引きはがすことができない。
こうなったら仕方ない。本音を言おう。
「正直に言います。あの机に行きたくありません」
「おぉそうか。俺はボスにあの机に行ってほしいんだ。店のためにもな」
「……おやっさんには感謝しています。いつも本当にお世話になっています。ですが、それとこれとは話が別です! 客を無理矢理店に入れたらいけないと思いませんか?」
「そうだな、無理矢理は良くないな! だが世話になっていると思うのなら、ここは自主的に入ってくれてもいいんじゃないか!?」
うぐぐ……。
どうにも引いてくれる気はないらしい。だが、俺にだって引けない理由がある! 今日はゆっくりしたいんだ!
それに仕事以外であの三人の相手は、気持ちに余裕があるときにしてほしい!
どちらも引かないこの状況。その状況を崩したのは、予想外の人物だった。
「なんだお前ら、店の入り口で邪魔だぞ」
「店主と管理人が揉め事は困りますね。商人組合としても歓迎しかねます」
「え? アグドラさんと副会長?」
「おう、いいとこに来たな。ボスに店へ入るよう言ってくれ」
アグドラさんは奥を見て事情を察したのか、やれやれと頭を押さえた。
副会長はいつも通り笑っている。どうせ楽しんでいるだけなので、放っておこう。というか、副会長に任せればいいんじゃないか? そうだ、そうしよう。
「ここは副会長にお任せして、自分たちはこの辺で……」
「待てナガレさん。たまには私に管理人一同と、その仲間たちを労わせてくれ」
「いえ、あのアグドラさん……」
「ではナガレさん、あちらの席に行きましょうか。皆さんもご一緒に」
俺はそれ以上の反論を許されず、最も行きたくない机へと背中を押された。
後ろで楽しそうな顔をしている副会長が憎い。
……そして、金髪縦ロールと目が合った。いや、合ってしまった。
「あら? ボスじゃありませんの! 良いところに……会長と副会長もご一緒で?」
こ、これだ!
俺はこの限界ギリギリのところで、一筋の光明を見出した。まだいける!
「えぇ! そうなんです! 実はこれから会長と副会長、そして倉庫の仲間と食事をするんです! 今度、皆さんともご一緒……」
「ん? ナガレさんなにを騒いでいるのだ? 早く座らんか」
全然いけなかった。
……アグドラさん、なぜしれっと座ってるんですか。そして副会長も続いて座る。
セトトルとキューンとフーさんは、俺のことを気の毒そうな顔で見ながらも、諦めたように席へついた。
もう座るしかないじゃないか……。
俺は諦め、席へとついた。
せめてもの救いだったのは、右隣りがセトトルとキューン。左隣がフーさんなことだった。
気を使ってくれてありがとう、三人とも……。




