外伝3 セトトル&キューン お買いもの
「二人とも今日は休みだから、ゆっくり楽しんでくるんだよ。でも、何かあったら大変だから気を付けてね。……こんな時間か。それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい!」
「キュンキューン!(いってらっしゃいッス!)」
今日は東倉庫はおやすみ。
でもボスはお仕事で商人組合に行っちゃった。本当は一緒にお出かけしたかったなぁ。
わがままを言うわけにもいかないし、キューンと今日の予定を確認することにしよっと。
「じゃあキューン! オレたちはいつもお世話になってるボスへのプレゼントを探しに行くよ!」
「キュン!(了解ッス!)」
ボスがいないので、何を言っているのか分からない。
でも何となく分かるから大丈夫。たぶん今のは、姐さんに付いて行くッス! いいもの見つけるッス! こんな感じだと思う。
……あってるよね?
私たちは店の戸締りをしっかり確認し、倉庫を出た。
そしていつも通りキューンの上に乗る。ぷるぷる揺れて、すごく楽しい。
キューンが嫌じゃないかな、と思って聞いたこともある。でもキューンは全然気にしていなかったし、仲良しみたいで嬉しいと言ってくれた。
私もそれが嬉しかったので、キューンに乗って出かけるのが当たり前になっていた。
お店を出てすぐに、近所のおばさんたちと目があった。
……いけない、おばさまたちだった。前にボスに注意されたんだった。
言葉づかいはとても大事で、そういうところも気をつけないといけないらしい。
ボスはとってもすごい、何でも知っている気がする。
そんな私たちを見つけたおばさまたちは、笑顔で話しかけてくれた。
「あら、セトトルちゃんとキューンちゃんおはよう。お出かけかしら?」
「うん! 今日はおやすみだから、二人でボスのプレゼントを探しに行くんだよ! ……あっ、おはようございます!」
「ちゃんと挨拶ができて偉いわね。二人でお買い物って、仲良しでいいわねぇ。何を買うのかしら? お洋服かしら? 武器かしら? ……それとも毒かしら?」
服は分かるけど、なんで武器を買うんだろう? 強盗とかが怖いからかな? ボスには親方がくれた武器と鎧もあるし、武器は大丈夫なんじゃないかな。でも欲しいのかもしれないし、今度ボスに聞いてみようかな。
後、最後に小さい声で何か言っていたけど、聞こえなかった。何て言ったんだろう?
「ううん、エプロンを買うんだよ! ボスはお仕事中はいつもエプロンをしてるからね。でもお古だったから、新品のを買ってあげたいんだ!」
「キュンキューン!(ボスにエプロンを買うッス!)」
私がそう言うと、おばさまたちはとても嬉しそうに笑ってくれた。
みんなが笑ってくれると、私も嬉しくなる。えへへ。
「あらあらいいわね。きっと管理人さんも喜んでくれるわよ」
「そうかな! そうだといいなぁ……。オレたち頑張って探すよ!」
「えぇ、雑貨屋さんとかにもあったと思うわよ? 気を付けていってきてね」
「はーい! ありがとう! いってきまーす!」
「キューン!(いってくるッス!)」
私は手を振り、キューンは体をぷるぷるさせた。
それを見ておばさまたちも、手を振りかえしてくれた。こんなことが、今の私にはとっても嬉しい!
ボスが来てから毎日楽しいなぁ……。
おばさまたちと別れ、私たちは東通りをピョンピョン進む。最近は通っているだけで、色んな人に話しかけられる。
「お? 二人とも買い物かい? 気を付けてな!」
「セトトルちゃんとキューンちゃん、おはよう!」
みんな笑顔だ。だから私たちも、笑顔であいさつをして手を振る。
……前にボスが言っていた。人は自分を映す鏡でもあるって。
嫌いだと自分が思っていたら、相手も嫌いになっちゃうんだって。
だから、笑顔でいれば笑顔を向けてくれるって言ってた。
妖精の村では、私が笑顔でもみんな笑ってはくれなかった。でも、町のみんなは笑ってくれる。
そのこともボスに話したら、こう言われた。
「きっとセトトルは楽しくないのに、無理をして笑っていたんじゃないかな? それが相手にも分かっていたんだね。それでも頑張ったセトトルは偉いよ。セトトルが頑張ったから、今はみんな笑ってくれるんだよ」
無理をして笑っていてはいけない。今なら何となく私にも分かる。
でもそれより嬉しかったことがあった。妖精の村では誰も認めてくれなかったのに、ボスは私が頑張ったと言ってくれたことだった。
私はそれを聞いて、泣いてしまった。
泣いてる私を見て、ボスは優しく頭を撫でてくれた。とても優しくて、あたたかかった。
でもその後に、ボスは何かを小声で言っていた。
「……妖精の村……セトトルを……そのうち顔を出して……がつんと……」
そのときのボスの顔は、なぜかちょっと怖かった。
でも私が困った顔をしていると、ボスはすぐにいつもの笑顔に戻った。ボスがいつも通り笑ってくれて良かった。
「キュン、キューン!(姐さん、雑貨屋に着いたッス!)」
私はキューンに話しかけられ、周りを見る。
キューンは気付いたら止まっていた。目の前には雑貨屋さん。たぶん、姐さん着いたッス! とでも言っていたんじゃないかな。
ボスがいなくても分かる私は、キューンマスターだね!
キューンにドアは開けられないので、私が飛んでドアノブを回す。
ギィと小さな音と共に、扉が開く。
「はい、いらっしゃい! おやおや、二人ともいつもありがとうね!」
「おかいものにきたよ! お邪魔します!」
「キューン!(失礼させて頂くッス!)」
私たちはお店の中に入り、挨拶をする。ちゃんと挨拶をすること。これはボスに何度も言われていることだった。
よく分からないけど、挨拶は基本なんだって。挨拶が大事なのはわかったけど、何の基本なんだろう?
挨拶について考えていてもしょうがないので、私はキューンを魔法で持ち上げた。下にいたら商品が見えないので、いつもこうやって二人で買い物をする。
私たちはふわふわとお店の中を飛び、目的のものを探す。
あたりをきょきょろと探す……あった!
「キューン! あったよ!」
「キュン、キュンキューン?(姐さん、たくさん色があるッスよ?)」
確かにキューンの言う通りだ。エプロンはいろんな形のがあった。ボスは好きなエプロンの形とかあるのかな?
私は一つ一つ違う形のを手にとり、キューンに相談する。
「この形はいつものに似てるけど、これがいいのかな? それともこっちの紐が長いやつの方がいいかな?」
「キュンキューン。キューン?(形を決めてから色を決めるッスね。どれがいいッスかね?)」
うーんうーんと、私たちはたくさん悩んだ。高いやつがいいのかなって、高いやつも見た。
でも、なんかこう……これ! って決められない。
そんな風に悩んでいると、奥の方に隠れていた濃い緑色みたいなエプロンを見つけた。
私はそれが気になり、何となく引っ張り出してみた。
広げてみると……、何かちょっと形が違うエプロンだった。なのに、なぜか私はそれがすごく気になった。
「あぁ、そのエプロンはね。紐を前にもってきて、前で結ぶタイプなんだよ。結び目が見えるから、結びやすいのが特徴だね!」
いつの間にか隣に来ていた、雑貨屋のおばさまが教えてくれた。
前で結べるなら、結ぶときに困らないからボスも喜びそう!
「ねぇキューン、これどうかな! オレはすごく気に入ったんだ!」
「キュンキューン、キュン! キューン! キューンキュン?(姐さんが気に入ったなら、僕も問題ないッス! 色もボスに似合いそうッスね! お金は半分ずつで良いッスか?)」
「そっか、キューンも良いと思うんだね! じゃあこれにするね! これくださーい!」
「はいよ、毎度あり!」
私はお金を出して、エプロンを買った。
ずっとキューンが隣で何かを言っていた。たぶん、キューンも喜んでいるんだと思う。えへへ、嬉しいな。
「キューン! キュンキューン!(半額出すッス! 半額出すッスよ!)」
「うんうん、じゃあ今度はおやっさんのお店に行ってお昼を食べようね! ちょっとだけ遅くなっちゃったけど、いいよね? じゃあ行こっか!」
「キューン……(聞いてほしいッス……)」
目的のものも買えて、私たちはとっても良い気分でおひるごはんを食べに向かった。
……でも、キューンがちょっとだけ困っているような気がする。もしかして、お腹が減ったのかな? 遅くなっちゃって、ごめんねキューン。
急いでお店に行って、一緒においしいごはんを食べようね!




