外伝2 セトトル&キューン
朝、私は変な音で目を覚ました。
昨日は、ボスがスライムを仲間にした。そしてそのスライムの入った袋が揺れている。怖い。
「キューン! キューン!」
もしかしたら、私を食べようとしているのかもしれない。
小さいころに聞いたことがある。「悪い妖精はスライムに食べられるんだぞ!」って。
その話が頭の中でぐるぐるしている。すごく怖い。
私は怖くて怖くて、隣で寝ているボスにしがみついた。ボスはきっと私を助けてくれる。
そう、今のボスは前のボスとは全然違う。
「このグズが! 言われたこともできないのか!」
「言われなくてもちゃんとやれ!」
「荷物運びしかできないのか!」
いつも怒っていた前のボスと違って、今のボスは私に仕事を教えてくれる。
「運ぶときは気をつけないといけない。セトトルだって宝物が傷ついたら悲しいだろ?」
「教えたことが全部分からなかった? なら、まずは分かったところからやろう。それで分からなかったことは、俺にまた聞こう。そうすれば出来るようになっていくよ」
とても優しい。私は前より仕事がちょっぴりできるようになった気がする。
でもそんなボスは、スライムを仲間にした。私が食べられてしまうと言ったら、笑ってこう言った。
「キューンは妖精を食べないって言ってるけど……」
私は頑張って伝えたけど、ボスは何かあったら言うようにと言って、お話を終わりにしてしまった。
スライム怖い。
まだキューンっていうスライムの入った袋は震えている。
私はボスに捕まりながら、震えていた。いざとなったら、ボスを起こそう。後、すぐに飛べるようにしておこう。飛んでいれば大丈夫……だよね?
「キューン! キューン!(起きたッス! 出たいッス!)」
……変な声がした。え? 今のなんだろう。
私はきょろきょろと辺りを見る。何もいない。……お化け!?
そうだ、きっとお化けだ。ゴーストタイプのモンスターや、アンデッドタイプのモンスターとも違う。お化けっていうのがいるって聞いたことがある!
私は慌ててボスの布団の中に潜り込んだ。きっとボスが私を守ってくれるよね?
「キューンキュン……(出れないッス……)」
また聞こえた! でも、あのスライムの方から聞こえた気がする。
私は布団から、恐る恐る顔を出して覗いてみる。袋はぷるぷる震えている。
もしかして、本当にもしかしてだけど、袋から出たいのかな?
……私は怖いけど、一度だけ聞いてみることにした。袋から出れなくて困ってるんだとしたら、かわいそうだと思ったから。
もちろん怖いから、手ではボスをぎゅっと掴んでいる。
「……ふ、袋から出たいの?」
「キュンキューン! キューン!(その声は姐さんッス! 出してほしいッス!)」
あ、姐さん? 姐さんって私のことかな? 姐さん……。ボスと姐さん。
……何か良いかもしれない! このスライム、結構いいやつな気がする!
私は上機嫌になり、袋を開けようかと思った。
でも、もう一つだけどうしても聞いておきたいことがある。それだけは絶対に聞いておきたいこと。
「スラ……キューンは、妖精を食べるの……?」
「キューン? キュンキュンキュン! キューン!(妖精ッス? スライムは雑食だから妖精も食べられるかもッス! でも食べる必要がないッス!)」
食べる必要がない? どういうことだろう? 食べたいから食べるんじゃないのかな。
ちょっと難しくて分からない。キューンが私を食べるつもりがない、って言うのは分かったんだけど……。
「んん……、でも悪い妖精はスライムに食べられちゃうんでしょ?」
「キューンキューン?(誰がそんなことを言ったッス?)」
「えっと、妖精の村の大人の人が言ってたよ」
キューンはそれを聞いて黙ってしまった。どうしたんだろう。
そして、少し待つとまた私に聞いてきた。
「キュンキューン?(どんなときに言われたッス?)」
「えっと、夜ちゃんと寝なかったりしたとき……?」
「キュン、キュンキューン……(姐さん、それ子供を寝かせるために言ってるだけッス……)」
えっと、つまり寝ないから寝るようにするために言っていたってことかな?
そうだったんだ……。
で、でも! キューンは妖精食べられるって言ったよね? 必要がないだけだって。そこはどうなんだろう。
「でも妖精を食べるんだよね?」
「キューン。キュン、キューン?(何か誤解があるッス。姐さん、人間は妖精を食べるッス?)」
「え、食べないよ!」
「キュンキュンキュン。キューンキュンキュン?(それは色々理由があると思うッス。でもおいしかったら食べられてるんじゃないッス?)」
……どうなんだろう。でもそれじゃあ、妖精はおいしくないから食べられないってことかな?
「キュンキューン? キュンキュン! キュンキューン、キューンキューン?(何より妖精は飛べるッス? 僕らは飛べないッス! おいしくもない妖精を食べるなら、兎とかを食べる方がいいんじゃないッス?)」
「そ、そうかも……」
私はその話に納得して、キューンを袋から出してあげた。
キューンも窮屈だったのか、嬉しそうにしていた。
私は、スライムはまだちょっと怖い。でも一つだけ分かった。
キューンは別に怖くないッス!




