あなたは私の宝物 〜イケオジ執事の秘密は、殺し屋の令嬢に暴かれる〜
『隙あらばくっついてくる老紳士と、殺し屋の侯爵家の令嬢の、人間の本性がむき出しになる恋愛を考えてください。』というお題が出たので、短編(長いけど)を書いてみました。
※人が殺されるため、保険としてR15と「残酷な表現あり」タグをつけています。
それほど残酷ではないと思いますが、いつもの私の作品とは、ちょっと雰囲気が違うかもしれません。
私の名はジャック・ゾルト。
この国では公爵家にもひけを取らぬほどの力を持つ名門、ブラックヒル侯爵家の執事でございます。
私は幼少時に前のブラックヒル侯爵に拾われ、前侯爵と現侯爵に長らくお仕えして参りました。ただ、恥ずかしながらそのご恩はお返ししきれていないのが実情でございまして。
私は侯爵様より与えられた今の使命を全うするまでは、老体に鞭打ち、石に囓りついてでも職務を続けねばなりませぬ。
その使命とは。アリアナお嬢様を教育し、我が組織の立派な頭領になっていただくことでございます。
「お嬢様! そのような格好でどこに行かれるおつもりですか!?」
本日も、みすぼらしい服を着て侯爵家の裏口からこっそり抜け出そうとしているお嬢様。見かねて声をかけますと、お嬢様はこともあろうに「……ちっ」と口から音をはじき出したのでございます。
「今! 何をなさいましたか!? 舌打ちですね? そうでしょう!」
「だっる。わかってるなら訊かないでよゾルト」
「なんという言葉遣い! 常々申しておりますが、ブラックヒル侯爵家の令嬢として相応しいふるまいを……」
「わかってるってば! 老眼が進みすぎて今の私の恰好が見えないの!?」
「見えているからこそお止めしたのです! 仮にもご令嬢がそのような格好で……!」
「だからこれは変装なの! 言動もそれに合わせてるのよ!」
「変装、でございますか?」
なるほど、確かに今の服装はあまり裕福ではない平民らしいもの。顔も化粧でお嬢様の美貌を隠し平凡なものに変えています。ですが……。
「なぜそのようなことを?」
「ちょっと明日の仕込みに必要なものがあってね。令嬢として行くには不向きな場所だから」
「不向きな場所とは」
アリアナお嬢様は化粧でソバカスを散らせ、赤くした頬をニイッと吊り上げます。
「ファムおば様のところっていえばわかるでしょ?」
「な!?」
ファムは私の弟子のひとりにございます。ですが女性。組織内の役割を考えると、女性のほとんどはやはり実動よりも情報収集のほうが向いております。そして情報収集を行う職業としてうってつけなのが……。
「……お嬢様!! それはなりません! よりによって娼館など!!」
「だからぁ、こうやって貧しい平民の娘のフリをして行くんだってば。それにファムおば様のところなら間違いが起きようもないから大丈夫でしょ?」
「いや、それは……!」
ああ、お嬢様の仰ることは筋が通っております。ファムが女主人を務める娼館は当然ながら組織のもの。つまり、外の人間には一切の秘密ではございますが、ブラックヒル侯爵家が裏についております。ですから娼館の中でお嬢様がトラブルに巻き込まれることは決してないでしょう。
ですが道中にはどんな危険が潜んでいるかわかりません。
「……わかりました。では10分ほどお時間をくださいませ。支度をしてまいります」
「えっ! まさかゾルト、くっついてくるの?」
「ええ、万が一にもお嬢様の御身になにかあってはいけませんので」
勿論、私が手塩にかけてお育てしたアリアナお嬢様ですから、ちょっとやそっとのトラブルならご自身で対処できるでしょうが。
そのお嬢様はぷうっと頬を膨らませ、唇を突き出します。ああ、いくら平民の真似をしているからとはいえ、はしたない!
「もう~ゾルトったら過保護なんだから……あっ、そうだ!」
急にお嬢様がふくれっ面をやめたかと思うと、その目がキラキラと輝きだします。そう、まるで悪戯を思いついた小さな子供のように。
「ねえ、ゾルトも変装するでしょ?」
「ええ、それは勿論」
「じゃあ、私の恋人に変装して!」
「……は?」
「聞こえなかった? 私の恋人よ! それなら自然と手をつないだり腰に手を回したりするから、私が貴方を撒いて逃げ出すこともできないわよね?」
「いや、それは無理というものでしょう……私めではとてもお嬢様と釣り合いません」
私の見た目は六十歳手前。最近は体力の低下もひしひしと感じている老いぼれです。普通ならば引退をしてもおかしくない歳なのです。今年19歳になられたお嬢様と恋人とは、幾らなんでも無理がございます。
「あら、ゾルトもヤキが回ったのね。貴方の変装の腕ならそれくらい誤魔化せると思っていたのに」
「……」
「恋人のふりをしないなら、私は捕まえられないわよ。途中で逃げ出して一人で行っちゃうかもしれないわね?」
「ぐっ……」
キランキランに目を輝かせ、私の監視から逃げ出す予告をなさるお嬢様。こうなると本当にやりかねません。アリアナお嬢様とはそういう御方なのです。
「努力は致しますが……流石に30歳以上も若返るのは難しいかと」
「じゃあ20歳以上若返って! それくらいの歳の差夫婦なら後妻なんかでありえなくもないし」
無理をごり押しされるお嬢様。しかもいつの間にか恋人から夫婦と言う設定にすり替えまでされて。私は白旗をあげたのでございます。
「……少々お待ちを」
私は自室に戻ると全身の関節をポキポキと鳴らします。普段はわざと背を丸め肩を縮こめて小さく見せている身体をぐっ、と伸ばしました。そして隠している仕事道具を取り出します。
髪に塗っていた特殊な染め粉を落とすと、白髪に見せかけていた髪が元の焦げ茶色を取り戻しました。
これだけで普段は五十代後半の老紳士の姿が、本来の四十代半ばまでは戻りましたが。お嬢様のワガママに応える為にはあと十歳は若返らねばなりません。
――――まさかとは思いますが、お嬢様は私の実年齢を知っているのではありますまいな?
いえ、それは考えすぎというものでしょう。
私はお嬢様のお召し物に雰囲気の合う平民らしい服装に着替えました。最後に針を手に鏡の前に立ちます。
「ふう……」
息を吐き、顔の筋肉を狙って何か所かに針を刺していきます。筋肉に微小な刺激を与えることで一時的に活性化を促し、垂れた頬や目の周りが上がり若返って見えるのです。ですが一歩間違えれば急所を刺す可能性もあるため、繊細な技術と精神の集中が必要になります。
私はこの役職に就く前、つまり三十年近く前にこの技術を身に着けました。当然、急所の知識についても。
約束の10分後。どうにか体裁を整えて裏口に戻ると、お嬢様はニコニコ顔で仰います。
「あら、やっぱりまだヤキは回っていないわよ。それなりに若く見えるわ。さっ、行きましょう」
そうしてご機嫌で私の腕にご自分のそれを絡めるお嬢様。そもそも夫婦でも恋人でも娼館へ男女が腕を組んで行くのはおかしいのではございませんか? しかしそれを口にすれば、またお嬢様は何を言い出すかわかったものではございません。
私はため息をつきそうになるのを押し殺し、お嬢様を左腕にぶら下げたままファムの娼館へ歩いて向かったのでございます。
「ウフフフ。百戦錬磨の頭領も、お嬢様にかかっては形無しねぇ」
娼館の女主人は楽しそうにそう言いました。笑い事ではないのですが。
一方、お嬢様は私の前で椅子にかけ、安物のドレスや宝石などを吟味しながらキャラキャラと声を弾ませて応えます。
「そうかしら? まだまだな気がするわ。ゾルトったら毎日あれこれ口うるさいんだもの」
「アハハハ! 確かに! 頭領って面倒見が良すぎてお母さんみたいなところがあるものねぇ」
「え、おば様にもそうだったの?」
「そりゃそうよぉ。私は頭領の一番弟子だったのよ。頭の先からつま先まで、美しく見える立ち居振る舞いをそりゃあもう、うるさく言われたものよ」
「へえええ。じゃあ私たち、ゾルトの子供みたいなものってことね」
「兄弟も沢山いるわよぉ。今の組織の構成員は全員、頭領の教育をうけてるもの」
ふたりはニヤニヤと私の方を振り返りました。確かにお嬢様はつきっきりで私が教育しましたし、年齢差的にも子供と言っていいでしょうが、ファムは私と実年齢は五歳しか違わないと言うのに、ちょっと厚かましくはないでしょうか?
彼女はどちらかというとお嬢様の母代わりで、だからこそお嬢様はファムに懐いていると思うのですが。
✾
アリアナお嬢様はブラックヒル侯爵家の末娘。大きな声では言えませんが、現侯爵がまだ侯爵令息だった時期にメイドに手を出して作った庶子にございます。
当時、メイドはそれなりのお金を渡されて屋敷を出され、街の片隅にある小さな家で子を産みました。お嬢様はそのまま4歳までは母子ふたりで暮らしており、その時にはファムに時々様子を見に行かせておりました。
ですがお嬢様の母親が流行り病にかかり事態は急変します。母親はお嬢様に病がうつることを恐れ、ファムに預けたのでございます。そしてそのまま帰らぬ人となりました。
「ゾルト、その娘を回収してこい」
「回収とは?」
「我が侯爵家で引き取る。表向きは侯爵家の正式な娘として育てよう。お前の仕事を引き継ぐ器に育てあげろ」
十五年前。代替わりし現侯爵となった旦那様より思いもよらない言葉が出て、私は絶句致しました。わずか4歳の少女に……しかも自分の血を分けた実の娘に、あまりにも過酷な運命を背負わそうとするとは。
私の仕事を引き継ぐということは組織の頭領になるということ。当然、組織のトップクラスの実力を手に入れる必要がございます。そしてその為には血の滲むような訓練と、何度も心を折る鍛錬が課せられます。
そうでなければ、とてもなれないのです。一流の殺し屋には。
我が組織とは、闇に紛れ殺しや情報収集を行う工作員の集まり。ブラックヒル侯爵家がこの国で力を持っている理由は、この組織を掌握し、王家や公爵家の依頼を人知れず請け負っているからなのでございます。
ですが命令に逆らうわけにはまいりません。私が今の地位を先代頭領から引き継いだのは20歳の時。そこからお嬢様の件を聞いたのが十年後。その間、次の頭領に相応しい人材は現れなかったのです。
一番弟子のファムですら、その甘さがネックとなり無理だろうと私自らが判断を下し、彼女には娼館を任せました。
長期間にわたって次代の兆しが無いことに旦那様も苛立ったのでしょう。人材がいなければ一から育てれば良いと考えたに違いありません。
つまりは、アリアナお嬢様が成長しても組織の頭領に相応しい器になれなければ……。旦那様は庶子であるお嬢様の命を重く見ていないという事でしょう。
「……かしこまりました」
そこから私は十五年の間、必死でお嬢様のお世話を致しました。組織の頭領の座を引き継ぐべく、殺しの技術以外にも教えられる全てを彼女に注ぎ込もうと致しました。
それはそれは濃密に、微に入り細に穿ってあらゆる物事を。お嬢様がうんざりするほど、逐一あとをついて回っては、口うるさく指導してきたのです。
✾
お嬢様とファムの元へ赴いた翌日の夜。
今宵の満月は一段と大きゅうございます。
煌々と光を放つ様は、夜会の為に庭に吊るされたカンテラにも負けないほど。
ふたつの光は伯爵家の庭を明るく照らしておりました。
「まあっ、素敵!」
「そうだろう、我が家の自慢なんだ」
今、伯爵家のパーティー会場から開放された掃き出し窓を抜けて、その庭に降り立った若き男女がおります。キャッキャと浮かれた声を上げ庭を堪能する女性の腰に、男が手を回しました。
「あら、イヤぁよ。こんな場所で恥ずかしいわ」
女性は特段嫌でも無さそうな声でそう言うと、するりと男の腕から逃れます。恥じらいつつも男の焦燥を絶妙に煽る上手い動きです。
彼は女性にとりなすようにこう言います。
「良いじゃないか、誰も見ていやしないさ」
実際にはそうではありません。庭やテラスに設けられた椅子にはパーティの賓客が何名かが座っており、戯れる男女にチラリと目を向けます。
しかし、男が伯爵家の三男で、女のほうは地味な顔立ちと安っぽい青いドレス姿ではあるものの、その体つきだけはなかなか魅力的であることを認めると、誰もが気まずそうにそっと目を逸らしたのでございます。
きっと心の中でこう呟いたに違いありません。
(ああ、三男坊の悪い癖がまた出たぞ。きっとあの娘は何も知らず騙されているのだろう。可哀想に……)
この伯爵家は潤沢な資金を持つ有力貴族でございます。故にこのような派手なパーティーを度々開き、多くの貴族階級と交流を図っております。それは良いのですが、如何せん評判の悪い三男の交流の場でもあるのがよろしくありません。
彼は身分が下の子爵令嬢や男爵令嬢を言葉巧みに誘い、まるで恋人や婚約者であるかのように勘違いをさせて関係を持ったあと捨てる、という酷い行いを繰り返しております。
彼の口車にうっかりと乗ってしまったご令嬢にも非が無いわけではありませんが、令息の行いは鬼畜の所業といえましょう。
同じ鬼畜と言えど、使用人に手を出し、屋敷を追い出した後も最低限の金銭援助を行っていたうちの旦那様の方がまだまし……おっと、これは余計なことでございますね。
「うふふ、つかまえてご覧なさい~」
今まで令息の手が届くか届かないかの位置を取り、彼を上手く焦らしていたご令嬢。彼女は美しい庭を横切り、彼との距離を更に開けました。
とはいえ、これも戯れのひとつというのは明らかです。男は鼻の下を伸ばし「待て待て」と彼女を追いかけ、令嬢は楽しそうに「きゃあ」と声をあげています。
「ねえ……」
速めていた足を止め、令嬢が振り向いて後方の令息に声をかけた時。その瞬間こそが肝心でございました。
私は庭の植え込みに隠れ、ずっと息を潜めて成り行きを見守っていたのですが、この時こそ干渉すべき、と手にしていた一本を投げたのでございます。
見事狙い通り、男の胸に小さなナイフが突き刺さりました。
彼と彼女から、同時に声があがります。
「あ……? ぐふっ」
「きゃあああああ!! なんで!? イヤあああああ!!」
女性の叫び声を聞きつけ、周りから賓客や使用人たちが一斉に駆け寄ってきます。が、それに間に合わず男性は呻き声とともに倒れ、女性は金切り声を上げた後に気を失ってしまい、やはり倒れました。
二人の距離は変わらず離れたままで、彼女がナイフを握って彼の胸に突き刺したのではないと状況が物語っています。
「と、とりあえず坊ちゃんの手当てを! 医者を呼ぶんだ!!」
「こちらのご婦人は?」
「そっちは控えの間に運んでおけ!」
美しい庭は人々の叫び声で騒然となりました。令息の顔色は土気色ですし、呼吸は浅く弱々しく、目は虚ろ。もう手遅れだとわかります。医者よりも、彼の悪行を赦し魂が安らかに天に昇るための神父を呼んだ方が良いでしょう。
私は女性がその場から運び出されるのを見届けると、そっと庭を離れました。このまま誰かに見つかりでもしたら、私がナイフを投げた犯人にされかねないですからね。
✾
アリアナお嬢様が地味な令嬢として行きに乗ってきた馬車は先に返してあります。帰りは別の偽装した馬車を伯爵邸の近くに待機させておきました。今、お嬢様と私はその馬車に乗り、組織が持つ拠点のひとつに向かっております。
ここまでは万事計画通り、なんの問題もございません。……お嬢様のご機嫌が酷く悪いことを除いては。
私をジロリと睨むお嬢様の緑色の目は本来はとても大きく宝石のようなのですが、今は組織の者が腕によりをかけて施した特殊なメイクによってわざと小さくなっています。更に眉毛や唇を薄くして、かなり地味な印象に顔を作り替えているのです。
その顔の周りは普段は美しい金の巻き毛が揺れている筈ですが、これも染め粉で栗色に変えております。
頭の大部分は白い綿のメイドキャップで覆われていました。今のお嬢様はしがない下働きのメイド姿なのです。
先ほどまでは安物の宝石の髪飾りに、これまた安物とわかる青いドレスを身につけ、伯爵令息に騙される令嬢の役を演じていたお嬢様。
庭で叫んだあと気絶したふりをし、控え室に運び込まれたあとはメイドに姿を変えて見張りの目を欺き、伯爵邸を上手く抜け出したのでございます。
そうしてお嬢様と私は仕事を終え、帰路に着いているわけですが。私の向かいに座っているアリアナお嬢様の眉間の皺が一向に無くなりません。
「……ゾルト」
「はい、お嬢様」
「何故あんな真似をしたの? ちょっと過保護だと思うわ!」
「あんな真似、とは?」
「とぼけないでよ! わかってるのよ、あなたが私の投げたナイフの軌道に干渉したことくらい!」
「おや、それがわかるということは……では、この後私がなんと返すかもおわかりでしょうな?」
私が笑い混じりで言うと、お嬢様はぐっと言葉に詰まり、そして再び口を開いた時には若干、頬を膨らましておりました。
「なによ……ナイフが当たる箇所が1センチずれていただけじゃない。それでも急所には当たっていたはずよ?」
お嬢様は振り向きざま、今回の標的である伯爵家の三男に向けて毒を塗ったナイフを投げたのでございます。その自然な体さばきと、庭にいた賓客たちからは投擲が見えないようにご自身の身体で死角を作っておりましたから、周りから犯人だと疑われる事はありませんでした。
見事な手際……と言いたいところですが、私はお嬢様がナイフを投げる際の手元がほんの少しだけ狂っていることを見抜き、その軌道をズラしたのです。
頬を膨らませ唇を少し突き出し、私の干渉に拗ねるお嬢様。なんとはしたない! それに組織の頭領になるには少し問題ですね。
「いいえ、確かに急所は捉えていましたが、あれでは標的が即座に絶命しない可能性がございます」
「う……」
「もしも標的が死ぬ間際に犯人はお嬢様だと周りの人間に伝えでもしたら、逃げのびるのはかなり困難になりますでしょう」
「そ、それはそうだけど! ゾルトだって失敗してるじゃない!」
「ほう、私が? さてどんなへまを致しましたかね?」
「私のナイフに、ゾルトが針を当てたのだもの。だから今、あの庭には針が残っているわ! 目ざとい人がそれを見つけでもしたら、これはただの痴情のもつれや恨みではなく、組織の犯行だと疑われるのじゃないかしら」
「ああ、左様ですか」
私の武器は針。非力なお嬢様には毒を塗ったナイフが武器として最適だと選びましたが、私は針の1本があれば標的の急所を的確に突き、絶命させることが可能です。
お嬢様がナイフを投げた際に、私が針を投げてナイフに当て、軌道に干渉したならば確かに現場に針が落ちることになるでしょう。ですが――
「その点については心配ご無用です。投げたのはこちらですから」
私は伯爵家のパーティーからくすねてきたもう一本をお嬢様に見せました。
「それは?」
「オードブルに刺さっていた楊枝でございます。これならば庭に落ちていたとしてもさほど不自然ではないでしょう?」
「え……!」
「では、後始末に懸念もなさそうですし、明日はナイフ投げの特訓に致しましょうか」
「……」
おや、アリアナお嬢様は俯き黙り込んでしまわれました。初めて触ったピックでも私が思いのままに扱うことに、ご自身との実力差でもお感じになったのでしょうか?
まあ、私も伊達に年を取っている訳ではありませんからね。若い頃ならともかく、長い年月をかけて技を磨き続ければ、この程度は難しい事ではございません。お嬢様ならきっと将来は数々の技術を手に入れることでしょう。
✾
翌日。私は旦那様へご報告を致しました。
臨機応変に周りを欺く演技力や男心をくすぐる仕草、そして何よりも標的を冷酷に屠る手際……。昨日の仕事ぶりを間近で見たうえで、今ならばお嬢様が頭領として組織を率いても良いだろうと判断致しましたので。
まあ、ナイフの狙いがほんの少々ズレていた事は伏せましたがね。それは今日の特訓で矯正すれば良いことです。
「そうか。では引き継ぎを」
「はい。今日にでも」
旦那様はにんまりと満足そうな顔をなさいました。
「フフフ。これで我がブラックヒル家も安泰だ。侯爵家の人間が組織のトップになれば今まで以上に情報収集も簡単なうえ、直接依頼人との交渉も可能だからな」
「……左様でございますね」
「ゾルト、よくやってくれた」
「いいえ、そのお言葉はすべてが終わってから賜りとうございます」
「ああ、いくらでも言ってやる」
旦那様の執務室をお暇し、私はアリアナお嬢様のもとへ向かいます。
「ねえ、本当にやるの?」
「おや、昨日の夜に特訓をするとお約束しましたでしょう?」
「そうだけど……」
最近のお嬢様はこういうことが時折ございます。仕事や、仕事のためにファムや組織の構成員と話をするのには積極的ですが、私との特訓には少々及び腰なのです。
私があまりにもあちこちくっついては、うるさく口出しをするのが鬱陶しいのでしょうか。子供らしい思春期はとうに過ぎたと思っていたのですが。
「アリアナお嬢様」
「なあに?」
「今日のナイフの特訓をきちんとやり遂げてくださいませ。特訓をこなしさえすれば、もう二度とお嬢様に口出し致しませんので」
私はそう申し上げましたのに。お嬢様は何故か眉間のシワを深くし、ハアと息を吐きます。
「……違うのよ。別にゾルトのお節介が……まあ、ちょっぴりうるさいとは思うけど……だからといって嫌になったわけじゃないわ。ちゃんとやるわよ。支度をするから、いつもの訓練場で先に待ってて」
「かしこまりました」
十五分ほど後。侯爵邸の庭の一角、秘密の訓練場となる場所で私はお嬢様と対峙しておりました。
「ねえ、何故見学者が二人もいるの?」
お嬢様のお言葉に私は微笑みます。潜んでいる人間に気が付けないようであれば組織の頭領失格ですからね。
「お気になさらず。組織の者がいるだけですので」
ひとりはファムを呼びつけておいたのです。この後、若いお嬢様のフォローをするには経験値が高く同性の彼女は適任でしょうから。
もうひとりは引き継ぎの見届人です。本来引き継ぎは見届け人など付けず、新旧の頭領の二人だけで行うものなのですが……。まあ、アリアナお嬢様を引き取るまでは後継をなかなか育てず頭領の座にしがみついていた私ですから、そこだけは旦那様も私を信頼していないのかもしれません。
「ではお嬢様、はじめましょう。まずは的当てから……」
訓練場の隅にある的に目をやると同時に、的の中心にナイフが突き刺さりました。視線を戻すと、得意気に笑うアリアナお嬢様がいらっしゃいます。
「こんなの楽勝よ!」
「お見事でございます。では続きを」
いつもの訓練通り、お嬢様は次々とナイフを投げ、課題をこなしてゆかれました。歩きながら、走りながら、振り向きながら、的を見ずに。いずれの場合もナイフは的の中心に吸い込まれるように刺さります。
「的当てはその辺でよろしいでしょう。次の課題へ参りましょう」
私がそう言うと、急にお嬢様の動きが鈍りました。そして驚くことに、こう仰ったのです。
「……それはいいけど、大丈夫?」
「何がでございますか?」
「万が一ゾルトが避けそこなったりでもしたら大事故よ。ナイフの毒は取り除いておいた方がいいのじゃないかしら」
そしてナイフをご自身のドレスで拭おうとなさいます。私は急いでそれを制止致しました。
「いいえ、確かに私は年寄りですがね。お嬢様にそこまで心配されるほど耄碌はしておりませんよ」
次の課題は動く的を狙う訓練。
動く的、つまり私に向かってナイフを投げていただくのです。しかしこの訓練もお嬢様が小さい頃から何度も行ってきたこと。私は針でナイフの軌道を逸らし、あるいは避けることができるのですから。
「でもなんだか今日のゾルトはおかしいもの。やっぱり念のため毒は……」
「ご心配には及びません。決してそのような事故は起こしませんよ」
「本当に? 約束よ?」
「ええ、約束致します」
そんなことで死んでは、元も子もありませんからね。
「……その代わり、お嬢様もお約束していただけますか? 本気で取り組んでくださると」
「ええ、約束するわ。貴方も本気でね」
お嬢様はそう仰ると、ふうっと息を吐き、大きな緑色の瞳で私を見つめました。ギラリと光る様は殺気をはらんで恐ろしくも、大粒の緑柱石のように輝いて美しくも見えます。彼女にこのように睨まれれば、並の男ならば動けなくなることでしょう。
私は表情ひとつ変えずに心の中で呟きました。
――――お嬢様は、本当にご立派になられた。
と、彼女は手に持っていたナイフを音もなく投げました。私も隠し持っていた針を投げます。ふたつはぶつかり、チリ、というごく小さな音を立てると、私の顔の横を飛んでいきました。
休む間もなく今度は喉を目掛けたナイフが飛んできます。それも瞬時に針を投げ当て、ナイフの軌道を逸らしました。次は胸。これは少し逸らした程度では身体に当たる可能性がございますので、横に移動し躱します。
と、その私の動きを読んでいたのか大腿部を狙ったナイフが既に投げられていました。
――――素晴らしい!
完璧です。このまま直撃すれば足の太い血管を突き刺し、出血死するでしょう。少しズレたとしてもナイフに塗られた毒が全身を巡るはず。刺さりさえすれば勝負は決します。ですがそうはいきません。
私は針を長めに強く握り振り払いました。チンという金属音が響き芝生の上にナイフが落ちると、残念そうな声が聞こえてきます。
「やっぱり簡単には行かないわね」
そう言いながらもどこか嬉しそうなお嬢様に、私の顔も緩みました。こちらもやられっぱなしでは訓練になりません。ベストに仕込んだ針を2本抜き、お嬢様の肩を狙って投げつけます。
お嬢様もそれを避けつつ、反撃のナイフを投げられました。訓練場の中に銀の軌跡が幾つも交差します。
しかし、ここで私に小さな疑問が生まれました。先ほどから私を狙ってくるお嬢様の手が全て、寸分の狂いもないのです。
「……失礼ですが、お嬢様、今までは本気を出されていなかったのでは?」
私がそう問うと、お嬢様はどんな男でも手玉に取れるであろう美しい笑みをお見せになりました。これも、私が「いつでも余裕を見せること」と厳しく表情を指導した賜物でございます。
「ふふっ、きっとゾルトが完璧すぎるせいだわ」
「はて? どういう意味でしょうか」
「私はいつも貴方を相手に特訓をしていたでしょう? 私の予測より、普通の男は動きが遅いのよ」
「……なるほど。では、少し動きをゆっくりにせねばなりませんね」
私は動きを抑え、七割の速度で移動しました。ナイフは最初の一本こそ数センチズレましたが、あとは的確に狙いをつけて飛んでまいります。これならば文句のつけようがございません。
――――そして私に思い残すことも。
ナイフの雨がひとやみしたところで、私はお嬢様に申し上げました。
「合格です。アリアナお嬢様、今までよく頑張りましたね」
「ゾルト?」
私は芝生に散ったナイフを拾い集めると、お嬢様に手渡します。
「今から頭領を引き継ぐために最後の試練を行います。お嬢様ならばきっとやり遂げる事ができると、私は信じておりますよ」
「最後の試練って、何?」
私は敢えてお嬢様から距離を取り、深く息を吸いこみます。はぁと息を吐くと同時に、この身の内に長らく抑え続けていた殺気を解き放ちました。
実に懐かしい感覚です。25年ぶりでしょうか。
ガサリ、とファムたちが身を隠していた茂みから音が立ちますが、そちらに鋭く視線をやり、黙らせました。
「私はこれから本気で貴女を殺しにかかります」
「……!」
「お嬢様はこの老いぼれを仕留め、頭領の座をご自身で勝ち取るのです」
「ゾルト!! 待って!」
「待つことはありえません。この試練の幕はどちらかの死によってしか引かれませんので。では……参ります」
もう一呼吸を置くと、私は全力で地を蹴りお嬢様との距離を一気に詰めました。突然の試練の内容に驚愕し、どこか怯えを含んでいたお嬢様の表情が一転します。エメラルドグリーンの視線が私を射抜くように鋭くなりました。
――――ああ、本当に宝石のようだ。貴女は私の最高傑作、宝物です。
次の瞬間。
お嬢様のナイフは私の手の中の針をはじき飛ばし、そのまま私の肋骨の下に突き立てられました。
一撃で急所を突けとあれほど指導したのに! 最後の最後にまた小言を言わねばなりませぬ。
「お、じょ……」
しかし思いの外ナイフの毒が早く回ったのか、私の意識は氷水に浸されたかのように急速に冷たくなっていき、その言葉はきちんと言えぬままで終わりました。
存じませんでした。死とは冷たいものなのですね。
「ゾルト!!」
お嬢様の声が遠くに聞こえます。しかし私は忠誠心の浅い人間だったと認めざるを得ません。
全身が冷たくなり目の前が真っ暗になるのを感じ、意識を手放す直前に考えたのは……お嬢様のことではなく、25年前に俺が自ら手にかけた先代の頭領のことだったから。
これでようやくあの女性のもとへ行ける。先代は俺を褒めてくれるだろうか。「今までよく頑張ったな、ジャック」と。
✾
真っ暗な中から、ぼんやりと茶色いものが見える。
あれはなんだろうと俺は目をしばたたかせた。地獄にしちゃ地味な風景だ。見たことのある木目のような……
「ゾルト!!」
茶色いものの正体は見慣れた自分の部屋の天井だと気づく前に、エメラルドと見まがう大きな瞳がぬっと視界に飛び込んできた。
「お、じょう……さま?」
「ああ、ゾルト、よかった……! 喋れるのね!!」
エメラルドの瞳からぼたぼたと透明な涙がこぼれ、私の顔に雨を降らせます。その生温かい液体を感じながら、私は何が起きたのか理解できずに首を横に回しました。部屋の隅にいたファムと目が合うと、彼女は微笑み頷いて部屋を出て行こうとします。
「頭領、皆に報告してくるわぁ。五分ほどで戻るからねぇ」
「ええ」「ああ……」
私と同時にお嬢様からファムへの返答が出て、ぎょっと彼女を見ます。そのお嬢様は赤い目のまま、こちらを軽く睨みました。横からファムの楽しそうな声が飛んできます。
「あら、やぁだ。ジャック兄さんたらまだ頭領のつもりでいるわぁ! 貴方はアリアナ様に負けて、頭領は引退なさったでしょうに」
25年ぶりに懐かしい呼び名を使うと、妹分で一番弟子でもあるファムは今度こそ部屋を出て行きました。
私は体を起こそうとしますが、お嬢様にグイっと体を押されます。よりによって深い傷のある肋骨の下を。痛みに怯んだ隙にベッドに押しつけられました。
「だめ、まだ寝てなさい。頭領命令よ」
「お嬢様……」
「アリアナと呼んで。これも頭領命令」
「いえ、お嬢様……」
「アリアナと呼ばなかったら傷をぐりぐりするわよ」
「……アリアナ様」
「ア・リ・ア・ナ! 様はいらない!」
「呼び捨てにしろと仰るのですか!?」
「そうよ」
酷くまじめで怖い顔で頷く彼女に、私は白旗をあげました。この方の言い出したら梃でも動かないところは十五年間の付き合いで存じております。
「……アリアナ、これはどういうことですか。何故私は生きているのでしょうか?」
「さあ、私が急所を突きそこなっただけじゃない?」
「誤魔化さないでくださいませ。毒が回れば……」
そこでハッと思い当たります。
「まさか、最初からナイフに毒を塗っていなかったのですか!?」
アリアナはニッと笑いました。
「塗ってたわよ。いつもの毒じゃなくて、組織で新しく開発されたばかりの強力な麻酔薬だけど」
「麻酔薬……? そんな報告は」
頭領だった私に新薬の研究部門から報告は上がってきていません。
「まだ人体実験をする前だったから。もう少し日にちを稼ぎたくてナイフの命中をわざと鈍らせたのに、ゾルトったら特訓したうえで引き継ぎを始めちゃうんだもの。だからこの薬を使うのは、結構な賭けだったわ。もうこのまま起きないのではないかとハラハラしていたんだから。貴方二日間も眠っていたのよ!」
「二日……」
彼女の美しい目の下には青いクマがはっきりと出ています。二日間、眠る私に付き添っていてくださったのでしょうか。
「しかし何故、そんな薬をお嬢様が……」
「アリアナ!」
「……アリアナが持っているのですか?」
「そりゃあ、貴方を死なせたくないのは私やファムおば様だけじゃなかったからよ。この作戦は私たち組織の総意で実行されたのだもの」
「総意……?」
アリアナの言葉の意味を完全には理解できずにいると、彼女は呆れたような顔をなさいます。
「ゾルト、貴方って意外とニブいのね! 組織の構成員全員に自ら教育を施して、お母さんのように世話を焼いて、それで皆が貴方を慕っているのだから死なせたくないに決まってるでしょう!」
「それは頭領として当然のことをしたまでです」
そう。頭領としての仕事でした。身体能力や頭脳が比較的優れた身寄りのない子どもを拾ってきては、甲斐甲斐しく世話を焼く。親のように、兄弟のように、時には恋人のように寄り添って依存させる。
そうして育てた子どもたちの中から一番優れた子を後継者として更に磨き上げ、頭領を引き継がせる。今まで依存していた先代を自ら殺すことで、依存対象を組織そのものに移し、他の生き方をできないようにするために。
私は先代から頭領の座を引き継いだ時に、もうこんな思いを誰にもさせたくないと思っていました。
ですから、のらりくらりと旦那様の追求を躱しながら十年の間は後継者を育てずにいたのです。
しかしその意図を旦那様に読まれ、アリアナを育てろと言われた時に私は覚悟を決めました。
彼女を私の最高傑作として立派な頭領にしようと。
そして私は十五年の間、口うるさい年寄りの立場を貫き、彼女を私に依存させず自立した淑女として育ててきたのです。
「頭領を後継者に殺させて引き継がせるなんて、ほんっと、グロテスクな制度よね」
私の考えを見抜いたようなアリアナの言葉に、私は目をしばたたかせました。彼女はどこか遠く……私ではない誰かを思い出しているようです。
「あの豚は組織の構成員を同じ人間だと思っていないから、この制度に何の疑問も持っていなかったのでしょうよ……なんておバカさん。そんな組織に自分の娘を放り込んでおいて、いざ頭領になったら娘だからという理由で私がホイホイ言うことを聞くとでも思っていたのかしら」
あの豚とは、旦那様でしょうか。それ以外に考えられませんね。
「旦那様は……」
「あの豚なら、もうここには居ないわよ。昨日侯爵を引退して領地の飛び地に隠居してもらったから」
「え!?」
「あの豚に貴方が死んだと思わせて、私が頭領を引き継いだ直後ね、ナイフを首に突きつけてあげたの。真っ青になっちゃってプルプル震えて……ふふっ、滑稽ってああいうのを言うのね!」
アリアナは心から楽しそうに笑います。しかし笑い事ではありません。
「それでは、ブラックヒル侯爵家は!?」
「ああ、勿論一番上のお兄様に継がせてあげたわよ。流石に庶子の私が継ぐのは不自然だから、周りから疑われてしまうものね。まあでも、その代わり私たちの自由を認めさせたわ」
私たちとは、つまり。
「組織の自由をですか!? なんてことを! 構成員たちがバラバラになって野に放たれればこの国は混沌を極めます!」
「もうっゾルトったら。貴方が育てた私たちはそこまでバカじゃないわよ! 言ったでしょ、この作戦は組織の総意だって。私たち組織は家族のようなものよ。一家でブラックヒル侯爵家からの支配を断ち切ったの」
「支配を……」
「ええ。今後組織は侯爵家の言いなりにはならない。侯爵家とは仕事を請け負い、報酬を支払ってもらう対等な関係よ。当然後継者の育成についても口出しはさせないわ」
「そんな方法で上手くいくか……」
私たちは陰の組織です。ブラックヒル侯爵家の後ろ盾無くして生き延びられるでしょうか。
「上手くいくわよ。ブラックヒル侯爵家は私たち組織がいなければこの国で力を失うんだもの。『条件を呑めないなら王家に組織をまるごと売り込むわ』って言ったらお兄様は二つ返事で了承したわよ」
アリアナは愛らしく片目をつぶって見せました。
「ゾルト、貴方が育て上げた組織はね、もうこの国で無くてはならない存在になってしまったのよ。ちょっとニブくて自分の価値を低く見積もりがちな、元頭領さんは気がついていなかったみたいだけれどね」
「……」
思わずベッドの中で頭を抱えてしまいました。なんということでしょう。私の最高傑作は、私の知らぬ間に組織の構成員たちと繋がり、総意をまとめ、この大胆な作戦を実らせたのです。
「お嬢様……」
うっかり呼び名を間違えると、肋骨の下、傷つけられた肝臓のあたりをぐりぐりされて私は痛みに呻き、思わず目をつぶりました。
「ア・リ・ア・ナ!」
怒った声が間近で響き、目を開けると目の前にエメラルドそっくりな輝きがあります。それが伏せられて、黄金の睫毛が私の頬を撫ぜました。
直後、私の唇に柔らかいものが押し当てられます。
「……!」
「もう私はお嬢様じゃないし、貴方は頭領でも執事でも私の教育係でもないわ。私たちの関係も対等なのよ?」
「いや、ちょっと待って……」
「待つことはありえないわ。貴方は血が繋がっただけの父や兄なんかよりもずっとずっと大事な、私の宝物よ。絶対に逃さない」
エメラルドの瞳が、ギラリと凄みを帯びて輝いた。
俺はその輝きを知っている。お嬢……アリアナが獲物を狩る時のそれだ。あっという間に再度キスをされ、口を塞がれた。抵抗をしようと必死にもがくが、そのたびに傷をぐりぐりされる。
畜生! 容赦ねえな! そう育てたのは俺なんだが!
「頭領〜……あっ」
ファムが部屋に入ってきて俺たちを見た。そしてくるりと踵を返し、おどけた口調で出ていってしまう。俺が手を伸ばして助けを求めてるのに、見なかったフリをして。
「お邪魔しましたぁ〜。あーぁ、同じ人に二回も失恋しちゃったわぁ」
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