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ショートショート10月~2回目

母を喰らう

作者: たかさば
掲載日:2021/10/28

 お母さんを思い出して、ご馳走を、作る。


 お母さんの得意料理の、ハンバーグ。

 たまに中が赤いままで、時々おなか、壊したっけ。

 今日は、ちゃんと焼くけどね。


 お母さんのいつも作っていたゆで卵。

 卵が古くなると一気に作って、全部食べさせられたな。

 今日は、一個でいいや。


 お母さんが好きだった、キュウリのしょうゆ掛け。

 キュウリにはしょうゆしかかけちゃダメって言われてたんだよね。

 今日は、マヨネーズかけちゃお。


 お母さんにいつも作らされた、海苔の天ぷら。

 仕事から帰って、疲れてる時に限って作らされたっけ、夜中にやる揚げ物大変だったな。

 今日はまだ早い時間だから、良いけどね。


 お母さんがたまに作ったホットケーキ。

 砂糖と塩を間違えたのを、無理やり食べさせられて入院したんだった。

 今日は食べられるおいしいのを作ろっと。


 さあ、ご馳走がそろった。

 晩御飯に、しましょうか。


 ああ、お茶を入れるのを忘れていた。


 煮えたぎったお湯に、おちゃっぱを入れてと。

 ふふ、よく湯飲みごと投げつけられたなあ……。

 左手の傷、結局消えないで残っちゃったんだよね。


 テーブルの上には、美味しそうなメニューがずらり。


 お皿の上に、焦げ目の付いたハンバーグと半分に切ったゆで卵、切ったキュウリに海苔の天ぷらを添えて。

 ホットケーキには、たっぷりのはちみつと、バターをひとかけら。

 湯気のもうもうと上がっている、緑茶からはいい香りが、ふわり、ふわり。


 両手を合わせて、いただきます。


 いただき、ます……。


 ……ザクッ!!


 …ザクザクっ!!!


 ザク、ザク、ザク、ザクザクザクザクザク……!!!


 ・・・あら、いけない。


 ついつい、昔の、怒りが。

 ついつい、昔の、恨みが。

 ついつい、昔の、諦めが。


 もうお母さんはいないというのに、おかしなこと。


 今年こそ、おいしい料理を、美味しく食べられると、思ったんだけどな。


 お母さんを思い出すと、全部台無しになっちゃう。

 お母さんを思い出すと、全部ぶち壊したくなっちゃう。

 お母さんを思い出すと、全部おいしく食べられなくなっちゃう。


 ザク、ザク、ザク、ザクザクザクザクザク……!!!


 思いっきり突き刺して、バラバラになっていく、ハンバーグ。


 ザク、ザク、ザク、ザクザクザクザクザク……!!!


 思いっきり突き刺して、ぼろぼろになっていくキュウリ。


 ザク、ザク、ザク、ザクザクザクザクザク……!!!


 思いっきり突き刺して、ほろほろと崩れていくゆで卵。


 ザク、ザク、ザク、ザクザクザクザクザク……!!!


 思いっきり突き刺して、バラバラになっていく海苔の天ぷら。


 ザク、ザク、ザク、ザクザクザクザクザク……!!!


 思いっきり突き刺して、ぼろぼろになっていくホットケーキ。


 やだなあ、私、この先もずっと、母の日が来るたびに、こんな感じなのかな?

 やだなあ、私、この先もずっと、母の日が来るたびに、こんな風になっちゃうのかな?


 全部、ぜんぶ、小さな欠片になった時、少しだけ、気分が、晴れた。


 お母さんのハンバーグが、ぜんぶバラバラになって、形がなくなったから。

 お母さんのキュウリが、ぜんぶバラバラになって、存在感を消したから。

 お母さんのゆで卵が、ぜんぶボロボロになって、別物の食材に変わったから。

 お母さんのノリの天ぷらが、ぜんぶコナゴナになって、目立たなくなったから。

 お母さんのホットケーキが、ぜんぶコナゴナになって、原形を留めなくなったから。


 ……醜く崩れた食材。


 お母さんが喜びそうな、美味しそうな料理を、私は、私の手で、崩すことに成功したのだ。

 もういない、お母さんの影を、私は、私の手で、崩すことに成功したのだ。


 ……ばっちり、崩した、あとは。


 キッチリ、喰らって、消化してやる。


 私は手早くボウルの中に入れて、大好物のマヨネーズで、和えた。

 グルん、グルん、大きく和えると、ボウル一杯分のサラダができた。


 それを、スプーンですくって、一口食べてみる。


「はは、わりと、美味しいや。」


 マズい物しか食べさせてもらえなかった私は、多少のまずい物だったら、全ておいしいと思うことができるのだ。


 ……この、味覚を与えたのは、お母さん。


 がつ、がつ、がつ、がつ……。


 一心不乱に、ボウルの中のサラダを喰らいつくしていく。


 がつ、がつ、がつ、がつ……。


 ただただ、無言で、口の、中へ。


 がつ、がつ、がつ、がつ……。


 最後の一口を食べ終わり、私はぬるくなったお茶を一気にあおった。


 ……ごくり。


 食べ終わった食器を洗ってから、ソファに少し横たわる。

 今から私は、消化活動に専念しなければならないのだ。


 お母さんの事を思い出し、作った料理。

 お母さんの事を思い出し、徹底的に叩きのめした料理。

 お母さんの事を思い出し、噛み砕いて喰らってやった料理。


 これを消化したら、きっと私は、お母さんの思い出を、昇華することができるのだと、信じて。


 ……いたのだけれど。


 夜中、腹痛で目を覚ました私は、ひどくおなかを、壊してしまった。


 ……完全に、消化不良だ。


 今年も、私は。


 お母さんの事を、消化することが、出来そうに、ない。


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― 新着の感想 ―
[一言] くぅ、何と言う記憶。 嫌な記憶ほど、さっと忘れて消化して昇華されたいのに……。
[良い点] 凄みがありました!
[一言] わかりみ深すぎる…… 母親から与えられたトラウマって、本人死んでもついてまわりますからね…… 消化にはかなり時間がかかるでしょうね。
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