88.銀の抑止力
次の日、道路の舗装を続けた。
舗装を続けながら、俺を監視している相手の居場所の把握を続けた。
昨夜よりちょっと難しかった。
というのも、昼間の舗装中はギガースなど、街の住人も手伝いに来る。
魔力での感知は、声を聞き分けるのと似ている。
人数が多くなれば、それだけ聞き分けるのが難しくなる。
それでもやった。
舗装のための魔法を使いつつ、感知を続ける。
これも魔法の練習になると分かっているから、苦になるどころか、むしろ楽しかった。
そうやって、集団の中から目的のものを見つける、という練習を続けている内に、俺はある事が気になった。
「なんか違うな……なんだ? この違いは」
『気づいたか』
「うん、みんなが来てくれたから、違いが分かるようになった」
『住む土地の違いだ』
「土地?」
『魔力というのはそのものが持つ、体からあふれ出る力』
「うん」
『当然、産まれた土地、住む土地、普段の食べ物や水などで細かな違いが波長の違いになって現われる』
「なるほど、そういうこともあるのか」
そのことをラードーンから教わって、それを前提に更に探ると。
「三カ国全部きてるのか、これは?」
『見事。その通りだ』
ラードーンは満足げに答え合わせに付き合ってくれた。
はっきりと違うタイプの波長が三種類あってそうだと推測したが、当ってたみたいだ。
つまり、ジャミールだけじゃなくて、パルタとキスタドールからも監視が来てるのか。
「こんなに堂々といるなんてな」
『お前がわかる事を知らぬのだ。力は抑止力だが、見えない力はそうはならない』
「力は抑止力……」
『軍――兵の数がまさにそれだな。1億人の兵がいる国へ攻め込みたいと思うか?』
「絶対にやだね」
俺は苦笑いして答えた。
極論だってのはわかるが、そのおかげでラードーンの言いたい事はより分かった。
俺は少し考えて、近くにいる人狼の子を呼び止めて、街に戻ってスカーレットを呼んできてもらった。
スカーレットはすぐにやってきた。
「お呼びですか、主」
「うん、ちょっと聞きたいことがあって。ジャミール、パルタ、キスタドールの三国の戦力というか、兵力を知ってるか?」
「ジャミールについては細かく。パルタやキスタドールは概要程度ならわかります」
「うん、概要で大丈夫。もしも攻めてくるってなった場合、それぞれどれくらいの兵を動かせるものなんだ?」
俺を監視している奴らは今でもいる。
こういう形で監視しているって事は、今でも敵意の方が高いって事だと思う。
そういえば「敵」となる相手の戦力をちゃんと把握してなかったな、と思いだしたのだ。
「三カ国がそれぞれ牽制しあっている状況ではありますので、足を引っ張り合う場合、ジャミールとパルタはそれぞれ2万、キスタドールは5万程度かと」
「引っ張らない場合は?」
「一斉になだれ込んで、約束の地を早いもので分割しようとした場合、ジャミールとパルタは倍、キスタドールはその性質上常に本気なので、5万から大きくは増えないかと」
「……守るだけでも、10万の兵と戦わなきゃならないのか」
「そうなります」
「うーん」
ちょっと予想外の数字だった。
「主のお力なら大丈夫かと」
「相手は十万だ」
俺は苦笑いした。
「さすがに一人じゃきつい。そもそもこっちは非戦闘員をいれても1万程度。新しい魔導戦鎧があってもなあ」
『戦闘員に全員、本来の魔導戦鎧を配れれば足りるのだがな』
ラードーンの言葉に、俺は苦笑いした。
それが出来ないから、俺は新しい魔導戦鎧を作ったんだ。
俺一人で、お手軽に作れるとはいっても、純粋に戦力として見れば、やはりオリジナルの魔導戦鎧の方が強い。
ハイ・ミスリル銀というのはそれほど強力な金属だ。
「今まで通り、銀貨とか援助とか。そういうのでやるしかないか」
「外交、政治の事でしたらお任せ下さい」
スカーレットは静かに、しかし決意した眼差しでいう。
「主のお役に立たせて下さい」
「ああ、頼むよ」
「はい!!」
スカーレットは嬉しそうに頷いた。
話はそこで終わって、俺は再び魔力感知しつつ、道路舗装に戻る。
特に魔力感知に力を入れた。
その結果、三種類のはっきりと違う魔力の波長を見分けられるようになった。
つまり三カ国全部から送られてきているわけだが――それだけじゃない可能性もある。
約束の地に隣接しているのはジャミール・パルタ・キスタドールの三カ国だが、この大陸には他にも国がある。
そこから何者かが送り込まれてきてもおかしくはない話だ。
『ふふ……聡いな』
それがいたら見つけるために、さっきよりもより、魔力感知に専念した。
「……あれ?」
「どうしたのですか主」
「この魔力は……」
『なにかつかんだのか?』
「……スカーレット、それとみんな、離れてくれ」
いきなりの事で、狐につままれたような顔をするスカーレット。
それでも彼女は従順に、他の魔物と同じように俺から離れた。
「ノーム」
俺はノームを召喚した。
まとめて、10体。
土の精霊が大量に現われた。
「ここから真下に掘ってくれ」
ノーム達は命令を受けて、一斉に掘り始めた。
土の精霊だけあって、まったく難なく、スムーズに真下に掘っていった。
道路舗装の時と違って、とにかく真下に。
まるで井戸を掘るような感じで、真下に掘っていった。
「やっぱり……」
ノーム達が掘り進めていくごとに――間の土が薄くなっていくごとに、よりはっきりと感じる様になる。
そして――。
『これは……ハイ・ミスリル銀!?』
驚くラードーン。
俺は穴に飛び込んだ。
数十メートルほど落下して、魔法で止まる。
そして穴の中で石を拾いあげて、マジマジと見つめる。
「やっぱり……ハイ・ミスリル銀の魔力だった」
『覚えてたのか』
「ああ、しかもこれ……かなりの量だぞ」
ギガース達が仲間になって、その巣のあたりから集めてきた鉱石とは比べものにならないくらい、大量のハイ・ミスリル銀の鉱脈がここにあった。
「この量なら……」
『うむ、全員分の魔導戦鎧を作ってやれるな』
「……そこに精霊を融合させれば?」
『なるほど、更に強くなる。ふふ』
ラードーンは楽しげに笑う。
『兵力差、うまるぞこれなら』
「いや、それだけじゃない」
俺はテレポートで地上に飛んだ。
「主!」
「スカーレット、この事実を広めて欲しい」
「事実?」
「我が国は、兵士全員に配っても余るほどの、ハイ・ミスリル銀の大鉱脈をみつけた、って」
「――っ、はい!!」
スカーレットの提案で始まった、銀貨で技術力のアピール、剛柔一体で干ばつへの支援。
それらの仕上げとなる、純粋な戦力の補強となる、ハイ・ミスリル銀。
兵士の数ではなく、一部の人間しか知らない魔導戦鎧やその強化版でもない。
魔法を知っている者ならおそらくみんなある程度は知っている、戦略物資のハイ・ミスリル銀。
それの大鉱脈は、この国の「見せる」抑止力――一億人の兵と同じ性質の力になるものだった。
国の力がはっきりしたこの回で、第四章終了です。
皆様の応援のおかげで、夢の20万ポイントまであとすこしとなりました!!」
もっと応援してもらえるように、次も頑張って書いてますのでもうちょっとだけお待ちください!
ここまでで
・面白かった
・次も早く読みたい
・もっと頑張れ!
と思ってくれた方は、下の評価からポイント評価で応援してくれるとすごく励みになります。




