85.魔法で道路作り
アメリアに化けた俺の幻影をこっそり送り出した。
アナザーワールドの中から、幻影はテレポートで別の場所に飛んだ。
その別の場所から、アイジーを徒歩で目指す事になる。
一方で、残った俺はアリバイ作りのため、アナザーワールドから出て、街の中に降り立った。
今回の件――水がブルーノの手に渡るまで、俺はここで、人前で目立つ行動をしなきゃいけない。
何をしようか、と思いながら歩いた。
「りあむさま、りあむさま」
「いまひま? ひまならあそぼ?」
そこに、みょんみょん飛び跳ねる、二体のスライムが現われた。
スラルンと、スラポン。
若干舌足らずな喋り方をする二体は、可愛らしい子犬のように俺の側にまとわりついてきた。
それは、いいんだが。
「お前ら……からだが汚れてるな」
「からだが」
「よごれてる?」
スラルンとスラポンは飛び跳ねるのをやめて、地面に降り立った状態で互いを見た。
スライムのぷるんぷるんとした体が、泥で汚れていた。
「ほんとうだ、よごれてる」
「いまきれいにする」
そう言った直後、スラルンとスラポンの体が「反転」した。
体の内部が広がって、表面を飲み込んだ。
まるでねんどの様に、表面についた泥を飲み込んで、体の中でその泥を溶かした。
あっという間に、綺麗なスライムの体にもどる。
「りあむさま、りあむさま」
「きれいきれい?」
「ああ、綺麗になった」
スラルンとスラポンを撫でてやると、二体は「ファミリア」で契約した後に出来た顔でものすごく嬉しそうな表情をしながら、体を文字通り「ぷるんぷるん」と震わせた。
一方で、俺はまわりを見回した。
ちょっと雨が降ったんだろうか、街中の道は至る所に水たまりが出来ていて、ぬかるんでいる。
こんな状態で飛び跳ねていたら、そりゃ泥だらけにもなるな。
「……」
「りあむさま、りあむさま」
「かんがえごと?」
「うん? ああ……道がこのままぬかるんでいたら良くないなと思ってな」
今はそうじゃないが、容易に想像がつく。
ぬかるんだ地面で、馬車とかだと、車輪がぬかるみにはまってやっかいな事になるのが、容易に想像がついた。
『道でも舗装するか?』
「道の舗装ってどうやってするんだ?」
『簡単なのは敷石舗装だな』
ラードーンは俺の質問に答えた。
「敷石舗装」
『大雑把に言って、道を溝状に掘って、そこに砕いた石を敷き詰めて、ならしていったものだ』
「なるほど」
『ちなみに、舗装は厚ければ厚いほどいい』
「他には?」
『ふむ。レンガを敷き詰めたり』
「レンガか」
『特殊な土を熱して溶かしたのを、流し込んで固めるとかかな』
「特殊な土?」
『人間どもは「燃える土」と呼んでいたな』
「へえ……」
ラードーンから色々聞いて、俺は頭の中で、道路の作り方をまとめ上げていく。
☆
俺の命令を受けたギガース達が、一人また一人と、岩を運んできた。
どれもこれも、2メートルくらいの大男よりも更に一回りでっかい岩だ。
俺が行けば簡単に調達できるんだけど、今回はいなくなるのは出来ないから、テレポートは使えない。
だから代わりに、ギガース達に集めてきてもらった。
ギガース達は岩を担いだまま、ガイが俺に聞いてきた。
「これでよいでござるか主殿」
「ああ、バッチリだ。それをみんなで砕いて一カ所にまとめておいてくれ、大きさはその辺の砂利くらいだ」
「心得たでござる。よしみんな、もう一働きでござる」
ガイの号令で、ギガースは一斉に岩を砕き始めた。
一方で、俺は道路を掘るために、ノームを複数体召喚した。
そのノームに命令して、あらかじめ通行禁止にしておいた道路を掘らせる。
土の精霊ノームにとって、土の地面を綺麗に掘り起こすなんてお手の物だ。
あっという間に、道路にする予定のそこに、道路の幅で、一メートルくらい深い溝が掘り出された。
「よし」
『ふふ……』
「ん? どうした」
『こう掘ったと言うことは、一メートルの厚さで舗装すると言うことだな』
「ああ、そうだけど?」
それがどうしたんだろう。
『一メートル級の厚さなど、ジャミールの都の凱旋通りくらいのものだろう』
「凱旋通り?」
『文字通り、戦争に勝った軍が凱旋し、王都で王宮まで行進するための大通りだ』
「ああ……ああいう……」
実際の凱旋通りはしらないが、軍が勝ってパレードをする大通りは知ってる。
うん、ああいうのは、かなりちゃんと舗装されてる道だ。
『それをさらりと作ろうとする事が面白かったのだ。見ろ、お前を監視してる役人の顔を』
ラードーンに言われて、彼女の「意識」が示した方角を見た。
そこに俺を監視するために来ていたジャミールの役人の姿があった。
役人は驚き、「まさか」って顔をしている。
「主殿、これでよいでござるか」
ガイが俺を呼んだ。
ギガース達が砕いて、積み上げた砂利の山を見た。
「うん、良い感じだ。これを俺が掘ったそこに詰めてくれ。ちょっと盛り上がるくらい、多めにな」
「分かったでござる」
ギガース達は命令通り、溝に砂利を敷き詰めていく。
力自慢のギガース達によって、あっという間に砂利が敷き詰められている。
こんもり、盛り上がった砂利。
「サラマンダー」
俺は火の精霊を呼び出した。
ギガース達が敷き詰めた砂利を、火の精霊で溶かしていく。
こんもり盛り上がった砂利は、溶かされて溶岩になり――隙間を埋めて平らになった。
溶かされた溶岩がやがて冷えて――そこに石の道ができあがった。
「「「おおおおお!!」」」
ギガース達は感嘆の声を上げた。
『なるほど、こう来たか』
ラードーンも称賛のニュアンスを含んだ声色でいった。
砂利舗装と、「燃える土」。
ラードーンから聞いた二つを組み合わせた、オリジナルの舗装は――上手く行きそうだ。
振り向けば、役人はぽかーんと、あごが外れそうなくらい驚いていた。




