55.遺産の再現
俺は像をみた。
黄金色をした像は、封印がとかれて復活したせいか、さっきまでよりも光り輝いて見える。
「しかし……」
「どうかしたのですか主」
「この……魔導戦鎧、だっけ。すごいのは分かったが、このままじゃ使い物にならない。一回攻撃しただけでこんな有様じゃな」
「申し訳ありません……」
スカーレットはシュンとした。
ホーリーランスを撃って、そのまま使い物にならなくなるんじゃな。
『それは最上級だからな』
「最上級?」
『魔導戦鎧は三種類作られた。出せる力によって見た目が変わる。あれは最上級の黄金鎧だ』
「低いランクのなら彼女にも使えそうか?」
「え?」
『うむ。しかし、それはもうない』
「全て失われたと思っていた……か」
頷く俺、少し考える。
「どうやって作るんだ? 魔導戦鎧は」
目の前にある黄金色の竜の像はスカーレットの家の家宝。
いわばレガシー……過去の遺産だ。
こういう場合、製造法なんて失われているのが相場なのだが、俺の中にはラードーン本人がいる。
おそらく、世界中の誰よりも魔導戦鎧の事を知っている本人だ。
俺は直接、ラードーンに聞いてみた。
『ハイ・ミスリル銀をまず用意するがいい』
「スカーレット、ハイ・ミスリル銀って用意できるか?」
「は、はい!」
スカーレットはぱっとはじかれる様に起き上がった。
まだ本調子じゃないみたいで、起き上がったときふらついたが、ぎりり、と歯を食いしばってしっかりとたった。
そのまま大声で人を呼んだ。
ドアを開けて、一人のメイドが入ってきた。
「お呼びですか、姫様」
「商人達に連絡しろ。今すぐ王都にあるだけのハイ・ミスリル銀を持ってくるように言え」
「す、すぐにですか?」
「すぐにだ」
俺に対するときとは違って、スカーレットは有無を言わさない、いかにも高貴な人間らしい感じでメイドに命令した。
ああ、そうか。
俺と初めてあった時もこんな感じだったな。
そんなに昔の事じゃないのに、もう懐かしく感じる。
メイドは慌てて外に出た。
スカーレットはおれの方を向いた。
「他に何か必要でしょうか、主」
と、最近のスカーレット、俺に傅くスカーレットに戻って聞いてきた。
「ラードーン?」
『後はお前の魔力次第だ』
「俺の魔力次第だって」
「それならもう出来たも同然ですね!」
「……そう、かな」
俺は苦笑いした。
スカーレットの信頼がすごくて、頑張らなきゃって思った。
☆
ラードーンのアドバイスで、集められたハイ・ミスリル銀をまず溶かした。
サラマンダーとノームを呼び出して、ハイ・ミスリル銀を溶かして液状にする。
液体になったハイ・ミスリル銀はサラダボウル一杯分程度のものだった。
第一王女が、都中の商人に「すぐに持ってこい」って強く命じた結果がこの分量だ。
屋敷にいたとき、父上が商人に命じて商品を用意させるのを見た事がある。
商人は父上――ハミルトンの権威に従って、すぐに要求のものを要求の分量用意した。
ただの伯爵でさえそうだ。
第一王女なら商人はもっと従うはず……なのに、この量しか集まらない。
「これでいくら位するんだ?」
「はあ……」
なんでそんな事を? って顔をしながらもスカーレットは考えて答えた。
「ハイ・ミスリル銀ですので、これで金貨500枚程度かと」
「……なるほど」
予想以上に高かった。
やっぱりかなり高価で、かなり貴重な代物だった。
失敗は許されないな。
「どうすればいい」
『鉄の薔薇を作ったことがあっただろう?』
「知っていたのか」
『それと同じ、我の魔力で我をかたどった像を造れば良い』
「それだけか?」
『精巧につくればその分強い』
「なるほど」
精巧に、か。
俺はかつて作った、鉄の薔薇の事を思い出す。
あれと同じように……しかも精巧に。
なら、話は早い。
俺は召喚魔法を使った。
ラードーンジュニアと、ノームを呼び出す。
ノームを使って、型を作る。
目の前にラードーンジュニアを置いて、それを見ながら作る。
因果。因と果。
ラードーンを模したものを精巧に作りたいのなら、ラードーンジュニアを目の前において作った方が一番精度があがる。
ノームに細かく命令をだして、型を作る。
そして、その中にハイ・ミスリル銀を流し込む。
『同分量の魔力を混ぜるようにしろ』
「わかった」
ラードーンの指示に従って、ハイ・ミスリル銀をゆっくりと、魔力を練り込むような感じで型に流し込んでいく。
型に全部流し込んだ後、冷めるのをまって、型をはずす。
すると。
「わあ……そっくり……」
スカーレットが思わず感嘆するほど、ラードーンジュニアそっくりのハイ・ミスリル銀の像ができた。
「で?」
『娘が契約するといい、血を像にたらせ』
「だそうだ」
「わかりました」
スカーレットは自分の指を傷つけて、ぽたっ、と血をラードーンジュニアの像に垂らした。
次の瞬間、変化が起きる。
さっきの黄金像と同じように、ラードーンジュニアの像が分解して、竜の意匠をのこしつつ、鎧になってスカーレットに装着された。
「ああ……ち、力が……力が湧いてくる」
「本当か?」
「ほ、ホーリーアロー」
スカーレットは壁に向かって、初級の神聖魔法を撃った。
ひかりの矢が壁を貫き、粉砕する。
そして――スカーレットはそのままだった。
魔導戦鎧をつけたまま、脱力しなかった。
「すごい……」
黄金の鎧と違って、実用に耐えうるレベルの魔導戦鎧の再現に成功した。




