44.超速マスター
一回目のテレポートで屋敷の林に飛んで戻ってきた。
まわりをみる。
間違いなく、いつも籠っているあの林だ。
三日かかる道のりを一瞬で戻ってこれる、テレポート。
上級魔法のすごさを改めて思い知った。
残った十五回のテレポートも次々と発動させた。
やっぱり行ったことの無い場所はいけないから、意味もなく、林の中のいくつかの場所を次々と瞬間移動した。
詠唱込みでの最大数、ラードーンジュニアの三回を引いた十五回を使いきった後、改めてテレポートを使う。
まだマスターしていないから、右手のドラゴンの紋章経由で使う。
「……おお」
思わず、感動の声が洩れた。
最近は魔力の流れがより分かるようになった。
一回でも使ったことのある魔法なら、使おうとした瞬間どれくらい時間が掛かるのか、魔力の流れで分かる。
テレポートは、一日まで縮まっていた。
魔法の練習での、マスターに届く条件。
それは厳密には日数ではなく、発動させた回数であると俺は気づいた。
普通の、同時発動が出来ない魔法使いはほぼ日数と比例する。
なぜなら同時に一つしか発動――練習出来ないからだ。
だが、俺には師匠から教わった魔法の同時発動がある。
いまや詠唱込みで、素数の第八段階の十九まで同時発動数が伸びている。
それで十五回まとめてテレポートを三日間かけて発動し、一斉に使った。
本当なら四十五日――ざっと一ヶ月半分の経験値を、三日に圧縮した。
そして今ならさらに十五回を一日で発動出来る。
四日で、本来の三ヶ月分の経験値が得られる。
このペースで行けば、一ヶ月――いや、更に加速するだろうから、一週間もあればテレポートを完全にマスター出来る。
いや、今の十五回をまず魔力アップに回して、もう一段階上の二十三発同時にしたほうが結局早いのか?
急がばまわれって言うし……むむむ。
難しいところだな。
『ふふふ』
ふと、頭の中にラードーンの笑い声がこだましてきた。
楽しそうな雰囲気だが、何があったんだろうか。
「どうしたんだ?」
『面白い人間だ。と、とおもったのだ』
「面白い?」
『力をもった人間が、それを得意げに振るうのは山ほどいる。だが力を更なる力を得るために使う人間は珍しい』
「はあ……」
『面白い人間だ』
同じ言葉を繰り返すラードーン。
褒められてる……のか。
よく分からないまま、俺はとりあえず、詠唱して、十五回のテレポートを仕込んでおくことにした。
☆
急がば回れ。
その言葉を思い出した俺は、まずテレポートの完全マスターを目指した。
すぐに問題にぶち当たった。
上級神聖魔法、テレポート。
上級魔法だけあって、かなりの魔力を消耗する。
今のままだと、次の十五回分が最後まで発動出来ない。
十五回分発動したら、次は更に発動時間が短くなるのは確実だ。
そうなるとすぐにまた次の十五回を仕込みたくなる。
魔力の自然回復の待ち時間がもったいなかった。
だから俺は、更に「急がば回れ」をした。
十五回のテレポートを全部キャンセルした。
そのかわり、ノームとサラマンダーを大量に召喚した。
林の中からレククロ草を集めて、ノームとサラマンダーでそれをレククロの結晶に加工した。
レククロの結晶。
それは使うと、消費した魔力を瞬時に回復するもの。
回復の量は加工にかかった魔力の量よりも多い。
だから、まずはそれを大量に作った。
テレポート百回分はまかなえるであろうレククロの結晶が出来た後、それをつかって魔力を回復して、改めてテレポートを十五回仕込んだ。
そのまま待つ。
丸一日待って、朝日がのぼってきた辺りで、テレポートを発動させた。
朝日の中、林の中で十五回、意味なく飛び回った。
そして、確認。
魔力の流れで、テレポートの発動に必要な時間を大雑把に計る。
「おお」
思わず感嘆の声が洩れるほど、それは縮まっていた。
一日必要だったのが、十五回の発動で一気に二時間まで縮まっていた。
作ったレククロの結晶で魔力を回復して、更に十五回仕込む。
そして二時間待つ。
さっきとまったく同じように、意味なくテレポートして林の中を飛び回った。
そして、確認。
二時間かかったのが、十五分まで縮まっていた。
十五分かけてのテレポート。
大分縮まったが、まだまだ足りない。
移動するためだけに使うのならこれでも十分だが、例えば戦闘中に、とっさに逃げたいとか、誰かを逃がしたいとか。
そういう時に十五分は長すぎる。
致命的とすら言える。
またまたレククロの結晶で魔力を回復して、さらに十五回仕込む。
十五分待った。
十五分待って、十五回林の中を飛び回る。
そして、更にチェック。
一分まで縮んでいた!
一分なら、戦闘中でもギリギリ使える。
だが、一分では――
「食い止めてる間に早く!」
というような、やはりピンチの場面が生まれてしまう。
だから俺は、レククロの結晶で回復して、おそらくは「最後の」十五回を仕込んだ。
一分はあっという間にすぎた。
林の中を十五回飛んだ。
「……よし!」
ここで、テレポートを完全にマスターした。
十五回仕込むまでもなく、使った瞬間に飛べる状態になっていた。
急がば回れで、二回分遠回りしたのに。
普通なら半年は確実にかかるであろうテレポートを。
わずか、一日でマスターしたのだった。




