192.まだまだ強くなれる
驚く二人を連れて、更に街中を見て回る。
歩き回って、あれやこれやを紹介する度に、マーティンとドミニクは驚きまくった。
そのほとんどが、俺が街を便利にするために開発した魔法の数々だ。
「このようなもの……今まで見たことがありません」
「これらもドラゴン――神竜様達のお恵みなのでしょうか」
驚くマーティン、その横で顔色をうかがうような感じで、恐る恐る尋ねてくるドミニク。
「ううん、今見せてるのはほとんど俺が開発した魔法なんだ」
「へ、陛下が?」
驚くドミニク。
二人は周りをきょろきょろ見回しながら、驚いたような、信じられないようなそんな顔をしている。
そうこうしているうちに、日が徐々に西に沈んでいって、夕闇があたりを包む。
「りあむさまりあむさま」
「あかるくしていいりあむさま?」
「ああ」
ずっと俺にひっついていたスライム達に頷き返すと、二人は肩から飛び降りて、ピョンピョンと跳んでいった。
そして、魔法灯をつける。
ほとんど時を同じくして、あっちこっちで魔法灯がつけられて、夕闇に包まれていた街がさながら息を吹き返すかのように再び明るくなった。
「つけたよりあむさま」
「あかるい? あかるくなった?」
「ああ、明るくなった」
俺はスライム達を撫でてあげた。
スライム達は無邪気に俺にじゃれついた。
「これが……噂の不夜城……」
「う、噂以上ですね」
「ああ、まるで昼間じゃないか」
「いや、これでもまだまだ」
驚き、感嘆している二人のところにもどりながらそう告げた。
そう、これもまだ改善の必要がある。
夜につける魔力灯、明るくするのは簡単な話だ。
使う魔力を増やせばいい。
だけど、この魔力灯は攻撃とかの魔法と違って、一瞬だけ発動すればいい訳じゃない。
夜の間、少なくとも起きている間はずっと発動し続けないといけない。
ちなみに、魔力灯は二種類ある。
街灯に使われる方は、夕方から翌朝までずっとつけっぱなしでいいから、最初にまとまった量の魔力で発動して、ゆっくり消費して朝になると自然に消える形。
家とか建物の中は点けたり消したりする事もあるから、その都度外部から魔力の供給を受け続けるという形。
魔力効率化も含めて、どっちもまだまだ改良の余地がある。生活に直結する魔法だから、もう少し改良するか……。
――と、いつものように思考が流れるように魔法の事に入ったところで。
「も、申し訳ございません、陛下」
「へ?」
いきなりマーティンが血相を変えて謝ってきた。
魔法の事から現実世界に引き戻された俺は、きょとんとしてマーティンに聞き返した。
「もしやご不興を買ってしまったでしょうか」
「え? ああいや、そういうことじゃないんだ」
俺はふっと苦笑いした。
「俺のクセだから、気にしなくていいよ」
「クセ……でございますか?」
「ああ、魔法の事になるとついつい考え込んでしまうんだ」
「魔法の事を……」
「魔法が好きなんだ」
俺はにこりと笑った。
昔から魔法が好きで、でも昔は魔法は使えなかった。
理由は今でも分からないがこの「リアム・ハミルトン」になってからは魔法の才能が身についた。
だから昔よりもずっと魔法の事を考えることが多くなった。
気がついたら四六時中考えてる、そんな感じだ。
「さすがでございます。だからこそのこの都なのでしょうなあ」
マーティンはそういい、街を見回して、感心した様子で言った。
正使のマーティンがそう言うと、副使のドミニクが慌てて追従した。
「まったくですね。あちらに見える少し違う、華やかな明かりも陛下が?」
「ああ、あそこは飲み屋とかがある歓楽街だ。やっぱりそういう店はわかりやすい方がっていう意見があったから。ちょっと違う感じに明かりの魔法をアレンジした」
「さすが陛下でございます――」
どーーーん!!
ドミニクが言った直後、話題の歓楽街のほうから大爆発が起きた。
爆煙が天に突き抜けていく、十メートル近くも巨大な雲が立ち昇った。
「な、なにが!?」
「あー……」
俺はそれをみて苦笑いした。
「見てくるか?」
マーティンとドミニクにそう聞いた。
二人は互いに顔を見比べて、おずおずと頷いた。
俺は二人を連れて、爆発が起こった所に向かっていった。
すると、歓楽街のど真ん中の、開けた大通りで、ガイとクリスが睨み合っていた。
やっぱりか――と俺が思っていたところ。
「リーン!」
「あっ! マーティンさん、ドミニクさん!」
ガイの少し後ろに立っていた青年、使節団の一員としてやってきた青年がこっちに駆け寄ってきた。
彼はマーティンの前に立って、マーティンは眉をひそめて聞いた。
「これはどういうことなんだ? まさかお前……」
「ち、違いますよ! 俺は何もしてません」
「本当だろうな」
「本当ですよ! ガイさんとそっちの女の――えっと」
「人狼のクリスだ」
「は、はい」
俺の補足にリーンは少し戸惑ったが、説明を続けた。
「その二人が顔を合わせた瞬間になんか知らないけどいきなりケンカを始めたんですよ」
「そんなバカな、何もなしにケンカを始めるか」
「ああ、あの二人はそういう二人なんだ」
リーンが何かした――と決めつけてかかるマーティンに、俺が横からやんわりとたしなめた。
するとマーティンは慌ててこっちを向いた。
「そ、そうなのですか?」
「ああ。ほら、周りを見ろよ」
俺がそう言うと、マーティンそしてドミニクは言われた通りにまわりを見回した。
ガイとクリスがバチバチと火花を散らしているが、ギガースと人狼を中心に、その光景を見慣れているこの街の魔物達はまったく動じていなかった。
「ほ、本当ですな」
「というか……見ていない者さえいる……」
「よほど日常的な光景なのですな……」
驚き、絶句する二人。
そう、マーティンの言う通りだ。
これが全員ではやしたてていたらまた話が違ったのだろうが、ガイとクリスがバチバチやっているのに、まわりでは全く我関せずに酒を飲んだりしている魔物が2・3割いる。
日常過ぎる光景だからこそこうなるのだ。
「どうやらイノシシ女には何を言っても無駄なようでござるな」
「珍しく意見が合うじゃん。あたしも脳筋馬鹿に何を言っても無駄だって思ってた所」
「それがしの真似をするな!」
ガイは激怒して、クリスに飛びかかった。
それをきっかけに本格的な戦闘が始まった。
さすがこの国の戦力ツートップのガイとクリス。
二人の戦いを見てマーティン達は青ざめた。
パワーでおせおせで、地面やら建造物やらを余波でぶち壊すガイに対し、クリスは夜だからというものあって、残像が見えるほどの速さでガイのまわりをぐるぐるした。
パワーをスピードで翻弄――というわけでもなく。
「ちっ! やるじゃん脳筋!」
「イノシシ女とは違うのでござるよ!」
パワーでぶん回しているだけかと思いきや、クリスが一定の距離に入るとガイの攻撃が正確にクリスに飛んでいく。
通常スピードタイプはこういう時は一撃を加えて、ヒットアンドアウェイで離脱するものなんだが、クリスはほとんどそれも出来ずに、肉薄したがすぐに押し返される――という形が続いた。
そんな二人の戦いの余波が、二人を中心にして竜巻を起こす。
「むほっ!」
「ぐっ……」
マーティンとドミニクがその余波に飲まれた。
竜巻に空気のほとんどを持って行かれて、息をするのも辛そうだ。
ここまでだな。
パワーミサイル、47連。
俺は拳を突き出すような形で、魔力弾をまとめて打ち出した。
無数の魔力弾が広がり、ガイとクリスの周りでぶつかり合って爆ぜた。
二人の戦闘で出来た竜巻はパワーミサイルの爆発ではじけ飛んだ。
「むっ、これは」
「ご主人様!」
ガイとクリスが同時に手を止めた。
俺の姿を認め、二人同時にこっちに向かってきた。
「二人とも、今日は客が来てるんだからその辺で」
「むむ、主がそう命じるのなら」
「しょうがないわね」
不承不承ながらも二人は引き下がってくれたのだった。
☆
リアムが魔法一つでガイとクリスの戦闘を止めたのを見て、マーティンとドミニクは顔を強ばらせていた。
「今の……見たかね」
「はい……とんでもない魔法でした。S級魔物同士の戦闘を魔法一つで止めてしまうなんて」
「それもそうだが、もっととんでもない事に気付いているかね」
「え? どういう事ですかマーティンさん」
「わたしもそれなりに魔法を見る目があるのだが……あれはドラゴンの力ではないのだよ」
「――っっ!」
血相を変えるドミニク。
マーティンの一言はそれだけ恐ろしいものだった。
ドラゴン――神竜三体の力ではない。
つまり、リアムは更に三段階、神竜の力を借りた強い力を行使できるということでもある。
「やはり……何があっても機嫌を損なってはいけないな」
「はい……」
二人は改めてそう思い、同時に自分達の責任の重さを再認識するのだった。




