188.おっきくなっちゃった
使節団との謁見が終了し、俺は自分の部屋に戻ってきた。
ラードーンは姿を消していつものように俺の中に戻って、デュポーンとピュトーンは人間の、少女の姿になった。
ピュートーンが器用に立ったまま寝ている傍ら、デュポーンが俺に抱きつき、俺がソファーに座って、デュポーンが体を寄せるような体勢になった。
「ダーリン」
「なに?」
「あいつ殺させて」
「ころ……ラードーンのことか?」
聞き返すと、デュポーンは俺に抱きついたまま頷いた。
俺に抱きつく姿も感触も年頃の女の子にしか見えないが、発言がめちゃくちゃ物騒だった。
「いやいやだめだって」
「えー。あいつむかつくから殺させてよダーリン」
「いやいや……」
そんな気軽に「殺させて」って言われると、こっちがどういうテンションで対応すればいいのか分からない。
『……』
やっかいなことに、魔法以外の事はラードーンのアドバイスがほしいのに、対象が自分だからかラードーンは押し黙ったままだった。
「どうしてもだめ?」
「出来ればやめてほしい」
「じゃあ、代わりになでなでして」
「なでなで」
「うん」
デュポーンはそう言い、頭頂部を俺に差しだしてきた。
ツインテールを結うための綺麗な分け目がみえる。
普段は簡単に見ることが出来ないそこを見せられて、何故かちょっとどきっとした。
俺は少し迷ったが、手を伸ばしてデュポーンの要求通りに頭を撫でてやった。
頭を撫でられたデュポーンは嬉しそうにして、俺の手に頭を押しつける様にしてきた。
「えへへ」
と声を出してて、機嫌が直ったみたいだ。
これでいいのか、と二重の意味でそう思った。
一つはラードーンを「殺させて」っていうおねだりなのに、こんななでなでで解消できるのかという。
もう一つドラゴン――神竜である彼女がこんなので満足したのかということ。
『我々は――』
不意に、ラードーンが心の中で話しかけてきた。
何事かと思ったけど、ラードーンの言うことならばと、まずはその先に耳を傾けることにした。
『仔を産みたい時は、その相手と同じ種族に姿を変えることができる』
俺は小さく頷いた。
その話、前にも聞いたことがある。
『姿を変えれば好み――求めるものも変わる。ドラゴンの時は首や顔を舐められるのを好むが、人間になればあのように頭を撫でられることを好む』
「ああ……」
また小さく頷き、納得した。
ドラゴンのはいまいちピンとこなかったけど、犬とか猫だと思えば何となく分かる。
犬同士のスキンシップ、猫同士のスキンシップ。
どっちもみたことがあるが、確かに「犬っぽい」とか「猫っぽい」スキンシップのやり方だった。
それと同じように「ドラゴンっぽい」のもあるわけだ。
そしてその「っぽい」のは姿を変えたらその時の姿のものになる、という事をラードーンは言っている。
……正直ほっとした。
デュポーンの姿を見て、ホッとした。
デュポーンは今、誰が見ても可愛いというような、完全に人間の美少女だ。
そんな美少女に「顔を舐めて」とか「首筋を舐めて」とか言われると、ちょっととんでもないことになってしまう。
そうならなくて本当にホッとした。
そんな風にホッとしていると、デュポーンが上目遣いで、じっと俺を見つめてきてることに気づいた。
「え? なに?」
「ダーリンまたあいつと話してた?」
「ああ」
俺ははっきりと頷いた。
「いいないいな、羨ましい羨ましい羨ましい!」
デュポーンは駄々をこねだした。
「あたしもダーリンの中に入りたいのに!」
「入れないのか?」
俺は首をかしげて聞き返した。
今まで気にしたことなかったが、言われてみてちょっとだけおかしいって思った。
「先に入られちゃったから……」
「一人しか入れないものなのか……」
「ううん、普通は一人も入らないよ」
「え?」
「ダーリンの魂が何故か普通の人間よりもおっきくてね、一人なのに二人分くらいある感じなんだ。それであいつが入れた感じ」
「魂……」
『小さき体の大きな魂を持つものよ』
ふと、ラードーンと初めて合ったときの彼女の言葉を思い出した。
そういえばそんな事も言ってたな。
……。
たぶんそれは、俺とリアムの事なんだろうなって何となく思った。
そうか……この体ってドラゴンが一人分入るスペースはあるけど、二人は入らないって訳か。
改めてデュポーンをみる。
俺の中に入れないって改めて口にしたせいか、デュポーンはちょっとだけ唇を尖らせて、やや拗ねたような顔をしていた。
俺は少し考えた。
ラードーンの言葉から、どうすればいいかを考えた。
彼女が入っていられるのは、俺の「魂が大きい」からだ。
俺はすっくと、ソファーから立ち上がった。
「ダーリン?」
「ちょっとまってて」
訝しむデュポーンを待たせて、ドアの方に向かった。
ドアを開けて、顔を出す。
廊下にメイドエルフが一人待機していた。
「アイリンか」
「はい、なんですかご主人様」
「ちょっと手を貸して」
「はい……こうですか?」
メイドエルフのアイリンは不思議そうに首をかしげつつ、手を差し出した。
俺はその手をそっと握って、目をとじた。
「あっ……」
手を取られて声を漏らすアイリン、そのアイリンの体の中を探った。
魔力を巡らせて、探った。
体の構造は分からないが、「魔力の構造」なら直に手を触れば分かる。
俺はこのリアムの体に転生してから、魔法の才能を手に入れた。
それは「大きな魂」と関係があるのかも知れない。
なら、「魂の大きさ」は魔力と似たような感じで分かるかも知れないと思った。
そう思って、アイリンの体の、魔力関連のものを探っていった。
「ご主人様?」
「ありがとう。近くに他のみんないる?」
「え? あっ、はい。ちょっと待ってください」
アイリンは頷き、メイド服のエプロンスカートを手で摘まんで、バタバタ走っていった。
一分もしないうちに、二人の同族――エルフメイドを連れて戻ってきた。
俺は簡単に説明して、二人の中も探った。
比較対象があると分かる。
「普通の二倍」というのも、探しやすい理由の一つになった。
魔力構造というべきか、魔力中枢というべきか。
そういう「っぽい」もので、確かに俺のがはっきりと大きいのがわかった。
「ありがとう、助かった」
三人のエルフメイドにお礼をいった。
そこで思い出して、三人の頭を撫でてやった。
三人が嬉しそうにしたのを確認してから、部屋の中に戻った。
デュポーンは相変わらずソファーの上に座ったまま、不思議そうに俺の顔を見ている。
「待たせたな」
「何をしてたの?」
「これでいけるかな……? 『オーバーソウル』」
俺は比較から感じたものを基に、それを大きくする感覚をイメージして、魔法を作って、唱えた。
すると――。
「え、え、えええ!?」
俺を見つめていたデュポーンが何かに気づいて、目を見開いて驚いた。
「だ、ダーリン?」
「どう? 合ってるか?」
「うん……ダーリンの魂が大きくなってる……」
デュポーンは、信じられないようなものを見てしまった。
そんな顔をしたのだった。




