102.ラーニング
街の郊外、舗装した街道の上で。
現れた冒険者が、ガイにボコられていた。
四人組の男だらけの冒険者だ。
一人は女だと思っていたが、どうやら中性的なだけで、全員が男らしかった。
「いっちょあがりでござる。ふふーん、これで懸賞金が上がるでござるぞ」
冒険者をボコったガイは機嫌上々だった。
ハンターギルドによって賞金首のモンスターになった一件で、ガイはクリスに懸賞金で負けた事が悔しくて、それで張り切っている。
「殺してないよな、ガイ」
「大丈夫でござる。主殿の言いつけ通り、全員峰打ちでござるよ」
「お前の武器は昔も今もこん棒じゃないか」
何をどうやったら峰打ち出来るんだ。
――とは、思ったけど。
ガイの口調が、「峰打ち」という台詞との相性が妙にいい。
なんだろうね、これ。
「しかし、歯ごたえのない者達ばかりでござった。四人かがりでも拙者にかすり傷一つつけられぬとは、情けないでござる」
『さもあろうさ』
「ん? どういう事だラードーン」
『この国は禁忌に指定された。そして、お前も、その配下の魔物も高額賞金首になった』
「ああ」
『だがその情報、そして体験この二つが行き渡るまで時間がかかる。だから未だにハンターどもは来る。しかしめざとく、強者とよばれる者達は既にもう知っているから来ない。つまり――』
「今来てるのは情報に弱い者達ばかりってことか」
『有り体にいって、ザコだな』
俺はなるほどと頷いた。
ハンターギルドに登録した最初の頃、俺はギルドとハンターの事を調べたことがある。
それで分かったことが一つある。
難易度の高い、危険な依頼は割りに合わないことだ。
ハイリスク・ハイリターン、という言葉がある。
危険に見合った見返りがあるという意味だ。
Aランク以上の依頼は、確かに報酬は大きい。
しかしそれはいわば「超ハイリスク・ハイリターン」のようなものだ。
確かに他よりも報酬がいい、しかしほとんどの場合危険度がその報酬よりも明らかに高い。
たとえ力が足りていても、俺ならAランクの依頼一つよりも、BランクかCランクのを二つ三つこなす方を選ぶ。
地道に、コツコツとやっていく事を選ぶ。
たとえどうしても高難易度の依頼を受けなきゃならないときは、ちゃんと調べてからいきたい。
特にラードーンという普通にやったら危険すぎる相手と戦った後はよりそう思うようになった。
そういう意味でも、今このタイミングでやってくるのは思慮の足りない――ラードーンに言わせればザコ達ばかり、というのはものすごく同意する。
「主殿、この者らを死なない程度にいたぶってもいいでござるか」
ラードーンとの会話で、思考に耽ってしまった俺に、ガイが聞いてきた。
それを聞いてくるガイは、ものすごくきらきらした、まるで少年の様な目をしている。
「死なない程度にいたぶるって?」
「拙者の恐怖を叩き込むのでござる。恐怖を持ち帰って拙者の懸賞金を上げてもらうでござる」
って、クリスへの対抗心かよ。
「うーん、やめとけ。死なない程度にいたぶるなんて事をやっても、懸賞金が上がりそうにはない」
「むぅ……そうでござるか……。それは残念でござる」
ガイはがっくりと肩を落として、見るからに残念がった。
「それじゃ、追放してくるでござる」
「ああ」
俺が頷くと、ガイはボコった四人の冒険者に近づいていく。
むこうは魔物を討伐しに来たつもりだろうが、こっちからしたら不法入国者だ。
こういうのは追放する、と決めてある。
ガイが冒険者達に向かって行くと、びたっと足を止めた。
「ガイ?」
「……」
「どうした、なんかあるのか?」
「ちょうちょう」
「へ?」
「ちょうちょうがとんでるでござる」
「ええ?」
「あはははは-」
いきなり、ガイがスキップしだした。
二メートルを越す巨体が、腰に手をあててスキップし出す姿はちょっとおぞまし――じゃなくて、かなり見た目的にヤバイ。
「ガイ!? どうしたんだ?」
『精神魔法だな』
「え?」
『そいつだな』
ラードーンがいうと、俺はぱっと冒険者達を向いた。
すると、中性的な男がうつ伏せになったまま、しかしはっきりとした目でこっちを睨んでいる。
「おまえか、ガイをやったの」
「次は……おまえだ」
男はそう言って、魔力を練った。
魔法を俺にかける気だ。
俺は反撃しようとした。
手を突き出し、パワーミサイルを放とうとする。
向こうの魔力を感じる。
発動までの時間も大体読める。
このままならこっちが先に撃って倒せる――。
「……」
『どうした、まだ効いてはおらんのだろう?』
「あの魔法、俺は覚えてない……」
『まて、何をする気だ』
「……」
俺は手を下ろした。
撃ちかけたパワーミサイルをやめた。
そのまま、棒立ちで待つ。
数秒して――ドン! ときた。
まるでハンマーに脳天を殴られた衝撃の後、目の前の景色がガラッと変わった。
本、本、本。
あっちを向いても本、こっちを向いても本。
数千冊の本――魔導書に囲まれていた。
「やったー、魔導書だ、わーい」
俺は子供の様にはしゃいだ。
数千冊――つまり数千の魔法を覚えられるという事実に小躍りした。
しばらくの間喜んでいると――それらがフッと消えた。
山のような魔導書がなくなって、街道に戻ってきた。
まわりを見る、ガイがまだ踊っていて、冒険者達はいなくなっていた。
「……なるほど」
『話を聞こうか』
「うん、くらった方がいいって思ったんだ。想像するよりも、実際に一度体験した方がって思ってさ」
『ふふ、相変わらず面白い事を考える。で』
「ああ……マインド・イリュージョン」
俺は、くらったばかりの魔法を行使する。
最初の一回を発動するまで一時間かけた。
20をこえる同時魔法で、一気にマスターまで持っていった。
「よし」
マインド・イリュージョンを覚えたことで。
俺は、魔導書無しでも、自分でくらえば魔法を覚えられるようになった。




