第81話 貴族おじさんの推察
お待たせ致しましたー
本当に……興味深い子達だったよ。
いや……おそらく、娘が気にかけていた青年は『人間ではない』だろうが。
(……『ラティスト』か)
国史どころか、世界に刻まれている……不明の『創始の大精霊』。
伝承も不可思議な部分は多いとされてきたが、あの美貌に加え……少しだけ尊大な態度。
まず間違いなく、あの者が『ラティスト=ルーア=ガージェン』本人だろう。
何故、あのような少女のような顔立ちに近い……ひとりの職人のそばにいるのかは不明だが。彼の師となっている、エヴァンスに聞いたとしても……成り行きをおそらく答えてはくれないだろうね?
「……しかし、あれだけの種類の……見知らぬパンを彼らだけで作るとは」
娘のルカリアが買ってきたと言うパンを見た時も驚いたが……それ以上に出揃っていた。
しかも、あの『ケント』を見た限り……まだまだあの小柄な身体の中には、様々なパンの知識があるだろう。個人的には後ろ盾になると決めたのなら、徹底的に調べ上げたいところだが……あのラティストがいるのならば、妨害される可能性が高い。
でなければ、ルカリアが影に調べさせた時点で、それくらいの情報はすぐに手に入るだろうに……彼らからは『不明』としか出なかった。
代わりに手に入ったのが……エヴァンスの情報だからだ。
馬車に揺られながら……私はケントが試作品だけど、と簡易的に包んでくれた『ムシパン』と言うものを眺めながら、情報を整理していた。
「このパンも、随分と不可思議だが」
説明を受けたが……普通に焼いて火を通すのではなく。蒸気……つまり、湯気などを操って火を通す方法で。下手をすれば白パンよりも柔らかい食感らしい。
味付けは、いちご以外に……牛乳を甘味料として加工したものを使っているようだが。
ひと口……食べてみるか、と包みを開けると。半円に近い、不思議な形をした薄ピンクと白が混じった……いちごの香りが強い菓子のように見えた。
説明を受けなければ、これはパンに見えない。
だが……良い香りが鼻をくすぐる。
引き寄せられるように、ひと口かじった。
「……ほう」
甘い。
まずそれが出るが。
不思議な甘さだった。甘味は強く、いちごの酸っぱさもあるのに、嫌な味わいではない。
いちご以外の……説明にあった牛乳を加工した甘味料のせいもあるだろう。物足りなさを全く感じさせず、ほわほわと柔らかな食感の生地と非常に相性が良い。
そして……少し、体が光ったが。
馬車に長時間揺られていたことで、消耗していた体力などが回復していく……その過程が、ルカリアが買ってきたパンとまた同じだった。
「……これは。まさしく、本物だな」
エヴァンスが師と言うのは、おそらくギルド側が考えた救済措置だろう。
あの青年……それと、ラティストが加わっていることで、既に成立しているのだろう。
『SS級錬金術師』と呼んでも差し支えないように思えるほどの、高度な錬金術師としての技能を。
これは……陛下方にお伝えするのがとても楽しみになってきた。
ルカリアの方は……いっときの恋心とやらで済まないだろうが、今は野放しでいいだろう。
次回は17時過ぎ〜




