第706話 いきなり団子ならぬ『いきなりケーキ』
仕込み入りのケーキ(言い方)を作るのに、菓子パンを詰めるのならデニッシュ系は避けたい。湿気てしまうのがもったいないからね?
だからまずは、『クリーム』と『菓子パン』の組み合わせが大丈夫かどうかを検証。あんぱん以外にもクリームパンとかそういうのかな? 通常のホイップクリームを塗りまくる味が大丈夫かを、まずはリトくん中心に味見していく。
子どもが大丈夫な味かを検証したいからね? リトくんは前回の披露宴もちょこっとだけ参加していたし。
「おいふぃでしゅ」
口いっぱいにクリームたっぷりあんぱんを頬張ったリトくんは、満面の笑みを浮かべていた。味がいいのはわかるけど、ここからが問題かな?
「ぼそぼそしてない?」
「……ちょっと、固いです」
「だよね。湿気るのは当然だから、生地は緩めがいいかな」
「それは俺が仕込んでこよう」
「ありがと、ラティスト」
通常の仕込みはもう終わっているけど、こういう共同作業はバックヤードにあるオープンキッチンでも……こっそりね? でないと、裏口からこんにちはでお師匠さんとか入ってくるから。
次は、カスタードのクリームパンも食べてもらったけど。これはダブルクリームにも慣れてたリトくんには好評。だけど、パンはまだ少し固いと言われた。これをきっかけに生地の配合比率を変えるいいきっかけとして、調整はちゃんとしなくちゃ。ルーティンにし過ぎて、美味しいの改善をしないわけにはいかないからね?
「よ。やってんな?」
裏口からこんにちは、はロイズさんだった。わざわざ来てくれたってことは、ルゥさん方面の報告かな? お師匠さんたちの関係で。
「衣装の報告ですか?」
「おう。両方とも準備は進んでる。……クリームだらけだが、なんかしてんのか?」
「お師匠さんへのサプライズウェディングケーキ試作です」
「ほう? リトが味見役?」
「子どもにも食べやすいように考えているんです。女性の味覚は子どもと似通っていますから」
「たしかにな? なんか、クリームの下に入ってんのか」
「菓子パンです」
「……ケーキのスポンジの代わりか?」
「代わりもありますが。びっくりさせるのには最適でしょう?」
「ひと口いいか?」
「どうぞ」
あんぱんの方を食べてもらったが、クリームたっぷりということもあり美味しいというのは顔に出ていた。
「前に食ったクリーム入りを贅沢にした感じだな?」
「けど、リトくんはパンの部分が固いって」
「うん」
「そうだな。言われれば……それなら、子どもに味見を頼むのは適切だ」
「少し、こう……やわらかい触感の生地にしてみます。難しいですが、今ラティストが調整してくれています」
「ほぉ? そりゃ楽しみだ」
クリームパンの方も食べてもらったが、やっぱり同じような感想だった。僕の出来る限りのパン生地配合で、この固さだと……企業努力で『生触感』を作るのは本当に大変かもしれない。それを一介のパン屋が真似するのもすごく大変なはずだ。
けど、いきなりケーキはあんことクリーム以外にもフルーツをたくさん入れる予定ではある。それらをうまくマリアージュさせるのは、僕だけじゃ出来ない。皆の協力あってこそだから、試行錯誤はまだまだ続いていくんだ。
次回は月曜日〜




