第695話 やってみようじゃないか、倍倍パンを
やはり、ケントには却下されてしまった。
態とらしく会議室の雰囲気を設ければ……と、淡い期待を抱いたのだが、やはり商品化には検討もしてもらえなかった。たしかに、自分で総菜さえ買ってしまえればケントのところのプレーンのパンでも作れなくないだろう。
しかし、だ。
だけど、だ!
ケントのパンで食べてみたいという願望はあったのだから……少しくらい、と思ってもそれなりに経営者の意識が強くなってきたのか、やはり却下されてしまったのだ。
(バインミーやほかのパン屋で提案してもいいかもしれんが。採算度外視なパン作りには辟易してしまうだろう。そこは、ケントと同じかもしれない)
食事屋ではなくとも、私とて店の経営をしている身だからそれはわからなくもない。ないのだが、どうしても『男の浪漫』が前にでてしまう。
「よぉ、ヴィー」
そろそろ、自分の家に着く手前で珍しい人物に出会った。正確には、わざわざこの辺まで出向く意味でだが。ケントの会話にでも出たロイズだ。亜空間収納に荷物は入れているのか、見た目は手ぶらだった。
「どうした? 単身とは珍しい」
「ルゥは仕事だかんな? お前こそ、店閉めて出かけてたのか?」
「……ケントに頼み込んだが、ダメだった」
「また無理難題ふっかけたのか?」
「……中で話し合わないか?」
「もともと用あったしな、いいぜ」
ジェイドは今日、精霊の里に用向きがあるとは言っていたが……まだ帰ってきていなかった。すぐに食事をしたいくらいに腹は減っていたが、生産ギルドのギルマスが単身で来るくらいの用件を先に聞かねば。
茶でも適当に出したあと、まずはロイズの用向きを聞いたんだが。
「……学園の制服に『保護魔法』?」
「おう。例の留学組にも制服は与えるらしいが、それだけだと犯罪目的に攫われる可能性はゼロじゃねぇと言ってた」
「……で、ケントには無理だから『ポーション』の依頼を私にか。魔法を液体化させる意味で」
「話が早いな。ぶっちゃけ、そのことだ」
「直々に来れないくらい、忙しいのか」
「この前は学園建設の視察に『エディ』で行ったらしいがよ」
「……まあ、立て込んだ依頼もないからいいが」
シュディア公国のきな臭さがいやになってくるが、巻き込まれた子どもたちがすべての被害者なのだから仕様がない。ケントのところに預けられている少女はちらっと見たが、かなり劣悪な環境下に置かれていたのはすぐにわかった。
とりあえず、錬金術師としてロイズからはその依頼を受け取ることにしたが。
「んで? お前さんがケントに断られたのはなんだ?」
「……好きなパンの具材を『倍』にすることだ」
「……出来んのか?」
「異世界の一部だとあるのだが、手間以外の問題でも却下された」
「だろうな。だったら、自分でやれと」
「聞いていたような反応……やはり、ギルマスとしてか」
「男はともかく、食いもん好きとしては魅力的だがよ? 手伝うから食わせてもらえねぇか? 適当に市場で買ってきたもんもあるぜ」
「挟もう、やろう!!」
「たっだいま~!!」
とここで、ジェイドも戻ってきてしまったが人手が多いに越したことはないし、むしろ助かる。
倍倍パンのことを話せば、すぐに笑顔になったしな?
「今晩の夕食には最適だろう?」
「やろやろ! ポーションパンにはならなくても面白そう!!」
「ヴィーには、その特性とやらはないんだよな?」
「ケントのところで、多少は料理したが出なかったな?」
カウルとのハンバーグディッシュでも、ポーションなどの効能ある食事にはならなかったし。普段作るパンケーキなどでも同じだ。代わりに、私は私で『通常のポーションレシピ』を教材として綴る役割が学園側には提供する仕事がある。
なので、カロリー消費がえぐいからそういうハイカロリー飯テロがしたいんだ!!
次回は水曜日〜




