第687話 どうしようもない、憤怒②
簡単に消えるような怒りでないのはわかってた。
僕より小さくて、ちゃんとご飯を食べさせてもらえなかった子が。
僕自身が、奴隷扱いされてた時よりも酷い仕打ちを受けていたのに……勝手に腹が立ってしまい。
冒険者としては一応動いたけど。結局は自分勝手に、糞貴族の喉笛にフランツを当て……いつでも斬り殺せるように脅しをかけた。
実際に殺しはしなかったけど、怒りは消えない。燻るようでいて、僕の腹の奥にじりじりと焼きつくようだった。
「それは忘れんな。ヒトを殺す覚悟が本当に出来るまで……覚えておくだけでいい」
ジェフさんに肩を叩かれ、ハッと我に帰った。糞貴族は捕縛されて兵士に連れてかれたけど……僕は、そいつを殺していない。殺したら、失う『何か』を僕はまだ知らないでいたんだ。
お兄さんやジェフさんにはまだ聞けてなかったが……経験はあったと思う。僕よりも多くの任務をこなして、悪党であれ討伐対象になった盗賊をその手で。
僕のはただ、一方的な感情でしかなかった。魔物とかの命を奪うんじゃなく、同じような存在のそれを奪うのは『重み』が違う。
背負う以上の覚悟。まだ弱小者の僕にそれはあるようでなかった。だから、ジェフさんはわかってて僕に言葉をかけてくれたんだ。かつてのダンジョンコアとの対面とはもう違うから。
(情けないけど、僕はまだまだ弱い……)
戦闘力とかではなく、心の面で。怒りに任せて、相手の息の根を止める手前までしてしまったんだ。拷問対象でもあるのに、勝手に殺したら大変。
マリアナや他の子どもたちの今後を考えると、この国に改革よりも占拠が望ましいって……あとで、エディさんから聞くことが出来た。腐り切った礎をどーにかするなら、最悪手段だけど『塗り替えるまで』って。
元は貴族の子どもたちだから、マリアナも入れて例の学園に行かせてはどうかとの提案もあるらしい。マリアナが望むのなら、僕は是非とも協力してあげたかった。
そこまで意識が落ち着いたところで、黙ってくれてたフランツもほっとしたため息を吐いてくれた。
『ビビるで、ほんま』
『はは。ケントに言えないね? こんなキレやすいから』
『ちゃうちゃう。もちっと、息継ぎ覚えちゅーことや。ケントに言っても心配かけるだけや』
『……そうかな』
異世界から来た存在として、のびのびとパン屋を経営している友だち。彼にならとマリアナを預けたけど……マリアナは学園と店どっちを選ぶかな?
それこそは、あの子の意思だからきちんと話を聞いてあげたい。学園であれば、たしか宿舎も併設するってエディさんが言ってたから……衣食住は大丈夫なはず。
とりあえず、暴れてスッキリした僕は僕で。皆のとこに行く前に大きく深呼吸をした。
次回は金曜日〜




