第686話 どうしようもない、憤怒①
弟の怒りが天を貫く勢い……久しぶりに見たぜ。
自分よりも酷い扱いを受けた連中には、慈悲以上に自分が修羅に染まる。それは王家としてはこれ以上にないくらいの逸材ではあるが。
王を受け継ぐ予定の俺としては、弟に損な役目を引き受けて欲しくなかった。ただでさえ、青年になる手前まで奴隷のような扱いを受けた身なんだ……。
もちっと、自分を大切にしてほしい。ケントと同じような願望であれ、俺としては切実な願いだったが。
シュディア公国での、裏工作を担っていた貴族んとこへの侵入は先頭に出るくらいだ。あの嬢ちゃんのように、溺死させられそうになってたガキらはうまいこと回収出来たが……中には瀕死のもんもいた。
奴隷以下の扱いに、感情の制御も出来なかったんだろうな? 魔物はともかく、人間とかにはまだまだ柔和な態度を心がけているトラディスは……裏切りには人一倍容赦しない。
相手のためにも、自分のためにも。
自分が相応の罪を犯しかけたことを救ってくれたのは、今も俺には普通の魔剣にしか見えないフランツだ。知性のある武器として、兄代わりや親代わり。友人としては第一のあいつがいてくれるおかげで、道を踏み外したりはしない。
(しないんだが、徹底過ぎる冷酷さは親父似なんだよな……)
年に一度か二度しか帰省はできんが、クレイヴ王の親父とトラディスはマジで似てる。俺もあるらしいが、最低下衆野郎には容赦しないとことか。
だが、今回は相手が悪い。
自分を慕ってくれる相手を陥れてかけた連中らは、トラディスの憤怒を大いに刺激してくれたからな?
「うっわ。リストあったぜ? 過去はしょうがねぇが……十年二十年の騒ぎじゃねぇぞ」
途中でジェフがさらに刺激になりかねん情報を見つけたが……まあ、相手も意識限界だったようだし連れてってもいいだろう。
城の方面はエディが乗り込んでいるだろうし……国王がわざわざ同盟結ぶフリして暴れ倒すとか、普通ねぇんだけど。
今回ばかりは、人手以外の面も必要だったから助かったな。
とりあえず、俺は兄貴として弟に気が済んだか訊ねてはみたんだが。
「……マリアナを売った親たちも、処罰受けるよね?」
ほんと、義理人情に厚いというか笑った顔を見せてくれた相手を守る情が深いんだよなあ?
「安心しな。マリアナ以外も住むとことかはこれから決めるが……この国ん中にある小さい良心も……探すのはエディらの仕事だ。良い悪いで俺らがケリをつけられるのはここまでだ」
「…………そう、だね」
小さなきっかけであれ、シュディア公国の根底まで腐り切る手前で済んだのかは予想でしかない。だが、まだ間に合ってほしいのは他国民であれ王族としては思わずにいられなかった。
次回は水曜日〜




