第680話 美味しいだけじゃないパン
「……ありがとう、ございます」
はちみつを使った、少し酸っぱくも美味しいお湯を飲むように……と、片目を隠している男性に言われ。
優しい声をされた方には、『大丈夫?』と何度も言っていただいた。その声に、池で助けていただけたのはこの方のおかげだと思い出せました。
赤みの強い髪色の方でしたが……その、すごくカッコいい男性なのに、緊張してお礼の言葉を噛んでしまったかもしれません。コップを受け取ると、とても温かいのにまた涙が出そうになりました。
ちょっとだけ熱かったですが、美味しい飲み物を一気に飲み干すとお腹が少しほっとしましたが……まだまだ空腹なのか、音が止まりません。
すると、赤髪の女性が『はい』と何か差し出してくださいました。包み紙を広げると、中にはご馳走のようなものが入っていました!! お肉にお野菜に……パン、ですが。とても美味しそうなご飯です!!
「紙は食べないようにね? 他は食べて大丈夫だから」
「……いただい、ても?」
「あたしはいつでも食べれるし、お腹空いているでしょ?」
「……いただき、ます」
落とさないように手を添えていただき、しっかり噛んでみましたが……ふんわりしたパンの味に、もぐもぐが止まりませんでした!! お腹が満たされる、美味しい料理だなんていつぶりでしょう?? 間にお肉がたくさん詰まっていた部分を噛むと、身体に力が湧いてくるような……不思議な回復を感じ取れました。
このご飯は、普通のご飯ではありません!! 魔法の……ご飯でしょうか??
「あ、光ったよ? 結構回復する箇所多いかも」
「まだ足りないようだし……ねぇ、トラディスはポーションパン何かある?」
「あるよ。フィッシュバーガー」
「私もフルーツサンドまだあるよ」
この方々は何をおっしゃっているのでしょうか?
ポーションの……パン??
ですが、たしかに食べさせていただくと美味しい以外に回復の感覚は得られました。お腹が満たされる以外に、体力や気力が……怪我をさせられた箇所の鈍い痛みも消えていきます!?
「……ご馳走様でした」
パンを三つ食べ終えたあとには、倦怠感も何も無い……スッキリした気分になりました。
「良かった! ケントのパンが効いてきたようだね」
美味しいパンをくださった男性……トラディス様とおっしゃるようですが、キラキラの笑顔が眩しいです。こちらは見窄らしい姿を見せたと言うのに、ちっとも気にされていませんもの。
「……ご迷惑をお掛けしました」
「そんなこと言わないで。事情を教えて欲しいけど、大丈夫かな?」
「……信じてくださるんですか?」
「あたしたちに話して楽になる以上のことがあったんでしょ? まずは、名前からいい?」
「…………マリアナ、と言います」
皆様は『シリウスの風』と呼ばれる冒険者パーティーらしく。私がいた『シュディア』の国とは違うヒーディア国では著名な方々のようです。
いただいたポーションパンは、その国で錬金術師とパンの製造を合わせた方のお店で手に入るようで……最近、シュディアが狙う国宝の錬金術師の方だと、私は理解出来ました。
腐り切った、王侯貴族らの裏事業……『治癒の独占』に利用してきたあの国。貴族の爪弾きを集め、人柱にしてきた所業は赦されない大罪。
私は包み隠さず、皆様にその事をお伝えしました。
次回は水曜日〜




