第664話 ひと通り、だが
たしかに、我がケントに頼んでいた『回復薬の流通をどうにかしてほしい』の兆しは見えてきた。
わずか、一年程度でここまで来たのは喜ばしいことだ。あの異世界を管轄している我としても、いささか困っていた事項を解決出来たのだから。
ケント自身も、元いた世界とは違う充実さを見出せているようで良かった。
だが、ここで『はい、終わり』というわけにはいかない。
この流れを出来るだけ長く、持続させられるように……リトだけでは、弟子にしてもまだまだ幼い上にすぐ作れるわけではないのだ。
とくれば。
『次は学舎、だな』
ヒーディアだけではまだまだ弱い。
それに、ケントはもともとそのような学舎に通っていた学生なのだ。仕組みさえ整えれば、適性を調べたあとに……ポーションパン以外の『ポーションの可能性』を持つ存在が来てもおかしくはない。
この段階に行くまで、もう少しゆっくりと進めるつもりではあったが……ケントが予想以上の成果を出してくれたのだ。
今なら、それを神託ということにして我を崇める『聖堂』に告げてみせよう。
ケントにも、もちろん協力してもらうのに……夢路をちょいと細工してから。
『……あれぇ? イケメン神様が夢に??』
そう言えば、特に名乗らずでいたのをすっかり忘れていたな? 今更だが、きちんと名乗っておかねば。
「久しいな、ケント。我はあの時名乗らずであったな? ナディア・イーシャと呼ばれている者だ。そちらの世界ではナディア神などと呼ばれている」
今は離席しているシロトには盛大に叱られそうだが、仕方なかったと納得してもらうしかない。
『えっと……じゃあ、イーシャ様? 僕、また何かしなくちゃいけないんですか?』
「察しがいいな。だが、直接手を貸すのは少ない」
『と言うと?』
「次は、学舎を作りたいんだ。ヒーディア以外にもたくさんな? ポーションパン以外にも錬金術師の育成は多い方がいい。それを神託として、各教会や聖堂に伝えていく」
『……なるほど?』
ヒーディアを中心に、ポーションの流通はたしかに変わりつつあるが……それだけではいかんのだ。それをケントも危惧していたのか、夢路とは言え真剣に考えてくれている。
一度死なせたことは本当に申し訳ないのだが、今いる世界を彼も大事にしてくれているのだ。
その心意気を無駄にしないためにも、我とて無駄にはしない。
ケントには、またなと身体へ意識を返してから……我は、聖堂と教会の神官らへ意識を繋いだ。
悪行を企てる者らが新たに出る前に、少しでも対策出来んかと神自身が準備を整えた……とな? ケントが穏やかに過ごせるためにも、これくらいの誇張はせんといかん。




