第662話 結婚披露宴を②
ルゥがケントに改めて頼んだ『ウェディングケーキ』とやらだが。
想像以上に、デカいケーキが宴会場に仕立てた会議室に鎮座していた。全体的に白いが、砕いたチョコの板や新鮮なベリーたちが散りばめられていて……今すぐにでも食べたい欲は出たが。
異世界の風習をもう一個真似たい、とケントはマーベラス殿に頼んでいたという……レイピアくらい長いが薄い刃で出来た剣を俺とルゥに持たせた。
着飾らせているもんだから、このケーキには必要なものなのか。
「詳しくないんですけど、夫婦になった時の初仕事?みたいな風習だったはず」
ケントでも詳しくないというのなら仕方がないが、極力刃を潰したというナイフは柄をしっかりしている分に重い。呪いの解けた俺と、普段から鍛えているルゥには大したことはないが……息を合わせて、綺麗なケーキに切り込みを入れるとは。
どーせ、自分らで食い尽くすにしても……夫婦最初の仕事になるのは気持ちいいもんだと思う。むしろ、ワクワクするもんだ。
「じゃ、簡単に進行役受けます。ルゥさんとロイズさんが専用のケーキナイフを二人で持って、切り込みを入れるようにゆっくり下ろしてください」
「あらぁ? ふたりで全部切らなくていいのん?」
「それは僕たちがやるので。お二人は、皆さんとおしゃべりしないと大変ですよ?」
「そうだな」
事情を知る連中からの祝いの言葉。
それを受け取るのが、今日の俺たちの最大の仕事だからなあ?
ただ、ケントの合図が『ケーキ、入刀』っつーのに頭捻りかけたが……向こうじゃ、そーゆー習わしなんだろうなあ?
「あらん?」
「お?」
デカいのもあるが、ザクっと切りごたえのある感触が伝わってきた。
ケーキっつーと、ふわふわの生地の周りをクリームで塗ったくったもんだと思ってたが。というか、甘党ではあるが進んで買うことはなかった。
だからって、スバルの甘いポーションパンを買わないわけがない。むしろ、効能抜きに好んで買ってたりする。とりあえず、ルゥとナイフを引いてみれば……黄色のクリームん中に新鮮そのものの色んなベリーがぎっしり詰まってた。
ケントんやつ、俺らのために奮発してくれたんだな?
「はーい! ナイフは回収しますので! 今度はこのスプーンを」
「でか!?」
こいつもマーベラス殿に頼んだと思われる、デカいスプーンをケントは俺に渡してきた。異世界の文化だが、この流れだと俺が……ルゥにケーキを食わせるってことか??
最初に切って。
最初に食わせる。
宴の席に、いつのまにか『エディ』の陛下も紛れていたから……これ、絶対ご自分の時もケントに依頼すると予想出来る。
「ロイズ〜!」
まあ、今後もまた大変なことは多いが。
ルゥと生きることを選んだ俺は、待ってくれている奥さんのために……好きな箇所を掬って口元へ運んでやったぜ!
「あんがとよ、皆!」
呪いのせいで、諦めてた未来がここから再スタートだぜ!!




