第650話 お忍びなのか?
「……リオーネが、栄えているのだ」
吾輩は、遠方の友人からヒーディア国の噂を耳にし。
その中でも、リオーネが一番栄えているとの情報を入手した。と言うか、その友人が絶対に行くといいと言ってくれたからである。
『稀代の錬金術師が二人も存在』。
そんな夢絵空な出来事があってたまるか、と以前ならバカにしただろう。
ポーションの特殊な流通が、次々と検挙されて取り潰しされるまでは。
貢献は主にヒーディア。若き現王が今後の流通に目をつぶっているわけにもいかないと……本格的に動いたのが一年くらい前。
最初は微々たる影響が、今では大陸の半分以上となった。
これを我が国も見逃したくはない。
ここの友好国のうちのひとつから、ある程度の情報は得たのだが。
(……賑わっているのは、普通にしか見えない)
ポーションが特殊な形で出回っているにしても……いささかおかしい気がする。吾輩の目には、単に市井らの生活が栄えているようにしか。
いやしかし、過疎化するよりは断然いい。それよりも。
「……いい匂い、がするのだぁ」
屋台の串焼きなどとは違う、香ばしくて良い匂いだ。鼻が効くので、それを頼りに人混みをかき分けていく。市場から外れて、店の並びの奥だろうか? 何か騒がしい声も聞こえてきた。
「……むむ? す、ばる……?」
看板を見たが名前の意味がよく理解出来ないでいると……店の中を見ようと移動すれば、人であふれかえっていたのだ。ここは、何かの人気店だろうか??
「店長、助かった! あんがとなー」
「はーい。お気をつけてー」
客がひとり出て行って、見送る店主とやらが見えたのだが。若い男なのだ! 吾輩は故あって小さくなっているが、元に戻ったら……吾輩よりも若いだろう。
『鑑定眼鏡』
事前にアクセサリーに擬態させたそれを使い、此奴を鑑定したのだが。
(……不可能??)
デカデカとそのように、中身が覗けないように赤の禁止事項のマークが??!
此奴、危険人物かと思ったのだが。先程から、奥より漂う変な威圧感みたいなのに、ぐるりと振り返れば。
「ひ!?」
美の結晶とも言わんばかりの、黒ばかりの出立ちの殿方……と思っておかねば!?
間違っていなければ、あの方は『闇』と『炎』の大精霊!? 何故このような街中でも小さな店に……!!?
店主を問い詰めたいところだが、大精霊様からの威圧が凄くて吾輩……縮んでしまったのだぁ。
「あれ? いらっしゃいませ? どうしたの??」
ガチゴチの吾輩に、店主は膝を折って尋ねてくれた。そのほんわかさに癒されかけたが、ここは切り替えをせねば。
国使と偽り、フィルウス国の王太子として!
今日はお忍びで来たのだから!! とは言え、子どもの姿はよくなかったかと思い直したが。客足も引いたのを見計らい、吾輩は変幻を解除することにした。




