第646話 まずは腹ごしらえ
『シリウスの風』としては、初めてフルメンバーでの採取依頼になったわ。
依頼者はマーベラスさんだけど、ケントから依頼している料理道具に必要な魔石の採掘。
魔石は、魔物の体内か魔力の多い地域で『蓄積』によって出来る二パターンが多いけど。
ケントの意見もあって、後者メインで探すことになってる。魔物もよっぽどじゃない限り、殺さないでほしいのは彼の優しさ。できるだけ、だから全く駄目とは言わない覚悟もできてるのね。
この一年で、彼もきちんとこちら側の人間になった証拠だ。いつまでも優しい人でいて欲しいが、それを維持出来るように恋人のあたしも頑張らなきゃ!
「んじゃ、到着したことだし」
もったいぶるように、ジェフが言うけど。これは事前に決まっていたから、あたしとシェリーでテキパキと敷布を広げていく。
今回採掘出来たら、ケントが使うことになる魔導具の目標料理法。
魚の骨まで、美味しく食べられる……ようにする重力鍋みたいらしいのよね? 一応試作で、マーベラスさんが作ったものでもその料理法は実現出来たみたいでも。
家庭用にと、いずれ販売するには高価過ぎる素材。あたしたちはケントの事情を知っているから……その意図はよーくわかる。万人ほどじゃなくても、たくさんの人に使ってもらいたいのは、
ポーションと同じ。
ある意味、世界の救世主とも言えるケントは人が良過ぎて優しい面もあるけど。
食事には、人一倍気をつけているくらい真剣なのは認めている存在が多いんだもの。そのために、今回の依頼はあたしたちが受けた。
で、事前に『昼食』としてそのポーションパンを食べてみて、と言われたのよね? 包みを開けたら、コッペパンとリトのラビオリより大きいパイが入ってたけど。
「おっもしろ!?」
「芋がほぐれているわけじゃねぇのに、コリコリでもないな!?」
「僕、これ好きだな……」
で、男たちはさっさと食べてた。あたしはシェリーと目を合わせてからかじりついたが。
(んんん??)
魚とその味付けはわかる。
だけど、コリコリとも違う異物が入ってた。……でも、噛むとジュワッと美味しいなにかが出てきて、結構美味しい!
前に、骨にはダシって美味しいものがあるってケントが言っていたのはこう言うことね!? 肉とかは無理でも、魚でここまで出来るのはすごい!!
「美味しいね!!」
「異世界じゃ、こう言う食べ方すんのね。……たしか、保存食にも良いって聞いたような」
「じゃ!! 包み方とか乾燥の仕方で、スープとかおかずの材料に?」
「……以上に。ケントだと器も言い出しそう」
「さすが。ケントの彼女」
「まあね?」
付き合うもっと前は、異世界の話はわんさか教えてもらったもの。こっちの常識を教えるのも、ロイズさんと頑張ったわ。




