第635話 その他のパン屋では
夏だと、パンがいつも以上に売れにくい。
毎年のことだったが、あの年若い錬金術師のおかげでそれも変わりつつあった。
「「「「「もう一個ください!!」」」」」
単独で食べるデザートだった『アイスクリーム』をパンに詰め込む。少し奇妙な形の『コロネ』に入れたそれは、持ち手も食べられるパンとして瞬く間に人気となった。
ケントくんからの提案で、どのパン屋でも振る舞えるように『ポーション効果打ち消し』を、彼の店では行っている。これをしないと今後が大変なのは承知だ。
『アイスコロネ』が、どの店で一番最初に始めるか。
ケントくんのところは既に除外申請をしているので、普通のパン屋だけで競っているわけ。
バインミー以外の、サンドイッチを増やした俺もこれには参加していた。
それぞれ違う店の味ってことで、うちは柑橘系のアイスクリームにしている。バインミーも買って欲しいので、さっぱりしたものをあえて用意した。それだけじゃいけないので、普通のはコーヒーを混ぜ込んだバニラにしたが……。
バインミーも売れてなくないが、圧倒的にアイスコロネの方が上になってしまったのはしょうがない。とにかく、暑いから!!
「店長! 追加のアイス出来上がりました!!」
「おう。ありがと」
今日から生産ギルド経由で募集した店員もいてくれて非常に助かった。
コロネアイスを売り出す、ここから半月だけだが。研修次第では正式に雇い入れることも視野に入れている。ポーションパン屋の方も人数は増えたらしいが、弟子が子どもだからあくせく働かすわけにもいかない。
かと言って、通常のパン屋もごろごろしてるわけにはいかん。リオーネの街の名物になって来ている彼らを、ゆっくりさせたいのも……俺らの願いだ。
「……あの。アイスコロネ、ひとつずついただけますか?」
「おう。ちょっとだけ待っててくれよ」
白ばっかだが、可愛い嬢ちゃんが注文してくれたので出来立てを渡してやった。
ひとりで食べても良し、誰かと分け合うのも良し……アイスをこんな使い方すんの、マジでケントくんの出身地が気になったが。それはそれでまあいい。
最初はライバル店だったが、今では逆に大恩人の店だからな!! 追いつくのは難しいが、街を考えてのパンは俺らもうまくやらんとな!!
白い嬢ちゃんは、ひと口食べた後に別の店員にバインミーの注文をしてくれたが……どっかで見た気がするのに思い出せないんだよな??
気にしていたが、次の注文も来て忙しくしてたら忘れるのも仕方がない。彼女もいつのまにか帰って行ったしな?




