第631話 弟子が師匠を叱る
「……いいですか、お師匠さん」
「……ああ、ケント。遠慮なくしたまえ」
法律どーのこーので、ちょっとだけ日常に変化は出たけど。
僕は僕らでしなくてはいけないことが出来た。
そう、それは!!
「えい!」
バシッ!!
巨大なハリセンで一発叩く……という、古典的なおふざけ。
だけど、これはお師匠さんが決めた『弟子が師匠を叱る方法』として……平和的にと建前も兼ねて、僕が実行する方法らしい。
僕がよっぽど怒ったときでも、これなら『外野は平和に見える』と話し合いで決めたこともあり。
実は今、冒険者ギルドの受付前にて実行したわけです。結構痛そうな音がした!!
「……悪かった」
痛いかどうかわかんないけど……ちゃんとこれで謝罪!と錬金術師ではトップクラスのお師匠さんが弟子に謝れば終わり。
形だけでも誠意を見せないと……例の惚れ薬の材料になる薬草以外の採取制限が大変なことになるからって。転生して長いのはお師匠さんだから、事情をよく知っているからね?
「ということで、弟子の僕にも変なポーションパンの依頼しないでください」
最後に僕が付け足せば? 冒険者さんたちは頷いて、すぐに掲示板を囲んでいく。
ちょっとだけ言い方キツくしただけで、怖くしたつもりないのに?
「なーる? こーゆーのもふざけてっが、お前さんらしいな?」
レイザーさんが納得した調子で来てくれたので、他のメンバーも頷いてたよ?
「もう、絶対しない!」
「あたしも! 正式メンバーじゃないけど……ごめん!!」
女の子ふたりも盛大に反省しているから、懲り懲りなのはよーくわかった。なので、僕はジェフさんに目配せしたよ? 頼んでいることがあるんだよね?
「じゃあ、今回のことでエリーを野放し出来んことが判明。うちのメンバーに加入してもらう!」
「……はい?」
事前に知らせてなかったから、びっくり当然。ジェフさんの大声で他の冒険者さんたちからの注目も集まったもん。
「エリー? ジェフさんたちならいいでしょう? シェリーの体質改善ももう直ぐ終わるらしいけど……皆ならいっしょにいてもいいんじゃない?」
ギルアさんたちよりは、多分ずっといいと思う。もちろん、レイザーさんの脱退可能性とか、シェリーがジェフさんと結婚して……もある。
エリーにだって色んな可能性はあるけど……今だけは、いっしょに居てもいいんじゃないかなって。気が合う仲間と長く過ごす時間は短いと思うんだ。
僕んとこは……一応、ラティストって大精霊様がいるから大丈夫だしね?
あと、彼氏としては無理してほしくないから……信頼している人たちと行動してほしいのも本当。もし、Aランクに昇格しても油断は禁物だから。
どうかなって、提案したら……エリーが号泣し出しちゃったよ!? 慌てて抱きしめたけど、怒ってるわけじゃないみたいで首を横に振って。
「……短い間でも。パーティー……入りたい」
どうやら、嬉し泣きだった模様。びっくりした!?




