第42話 その依頼に相応しいのは
お待たせ致しましたー
「あ、名乗り忘れて……いました。シェリー=ポンフリームと言います」
女の子の名前は見た目を裏切らずに可愛いらしいのだった。
知り合いの女の子って、ギルドの職員さん達以外だとエリーちゃんしか知らないから……なんか新鮮。エリーちゃんは、どっちかと言うとスタイリッシュなイメージだから。
「ありがとうございます。僕は店主のケントと言います」
「は、はい。えっ……と、ここのパンって、全部ポーション……なんですか?」
「ええ。基本的に全部は」
「す……すごい!」
キョロキョロ見て回る仕草も大変可愛らしい。
少し前に来てくれたトラディスさん達もだけど、やましい気持ちが特にない純粋な厚意は本当に嬉しいや。これはきちんとした態度で、僕も接客しなくちゃ。
「ありがとうございます。で、シェリーさんはどんなポーションをお求めで?」
「…………笑わないでくれますか?」
「と言いますと?」
「…………私の、コンプレックスなんです」
またぎゅっ、と杖の持ち手を掴む。癖なのかな? その後に、ゆっくりと長いため息を吐いた。
「コンプレックスですか?」
「…………私、適性職業は『魔法使い』なのに。魔力量があんまりないんです」
「魔力量……」
まだこの世界の仕組みについては……イケメン神様からは、魔法と剣の世界以外じゃポーションとかの回復薬不足とまでしか聞いていない。
個々の症状とか、地球にいた頃とどれだけ違うのかは……カウルやラティストを含めて、ファンタジー要素しか思っていない部分はあっても。
ちゃんと今、僕はこの世界で生きているんだから……そのことには向き合わなくちゃ。
「魔物とかの戦闘が出来なくもないんですが……魔力がすぐに尽きてしまうんです。だから……ほとんど体術などで戦闘をするので、そろそろ転職を考えてはいたんですが」
「出来れば、魔法使いとして続けたいと?」
「はい! ギルドで噂は聞いています! 美味しくて、効果の強いパンだと」
「魔力回復……ですか」
たしか、そんなパンが幾つかあった気がする。
ラティストに目配せして、手分けして棚のラベルと睨めっこしていると……ラティストの方が先に見つけてくれた。
「こちらのフルーツサンドだ」
そのフルーツサンドは、ホイップクリームとカスタードクリームたっぷりにして……ちょっとした簡易冷蔵庫に入れてあるのものだ。オークションで報酬はたっぷりいただいたので、この設備も魔導具だけど奮発したんだよね?
「フルーツ……サンド、ですか?」
シェリーさんには、聞いたことがない食べ物だから首を傾げていた。
「はい。フルーツ……果物以外にクリームをたっぷり使ったサンドイッチだと思ってください」
「え……甘いサンドイッチ??」
「ひと口食べれば病みつきですよ。甘いものはお好きですか?」
「だ、大好きです!」
このフルーツサンドの効果は……定番の傷回復はもちろんだけど、魔力を『高』まで回復とあった。多分だけど……シェリーさんの役には立つはず。
「魔力の回復にはお役に立つと思いますし、他のポーションとしての効能もあります。是非、戦闘以外でもお役立てください」
「はい! その……金貨、何枚なら」
「いいえ? 銀貨もいりません。銅貨の……500ダイスで」
「え!? そんな安く!?」
「亜空間収納を全部の人が持っているわけではないですし、魔法の鞄も同じく。薬でも食べ物のですからね? 一番いい状態で口にして欲しいんです」
まだ開店して……二、三日程度だけど。その宣伝がうまくいっているのかほとんど売れ残りはない。
売れ残っても、カウルやラティストは人間じゃないからペロンと食べてくれるけど。
次回はまた明日〜




