第三章①
午後三時……。
加藤の部屋のベッドには、暗い顔で貧乏ゆすりを繰り返す蕪木が座っていた。
「な、なあ、哲也。ふと思ったんだがよ、凜華が殺されたのって、もしかして、あの件が関わっているんじゃあ……。あいつが殺される理由なんて、それぐらいしか……」
「はっ……馬鹿馬鹿しい。あれはもう一年近くも前のことだろ。関係ねえよ」
天候の変化を逃すまいとばかりに、窓の外を見続けていた加藤が、切り捨てるように言った。
一帯に吹雪を生み出している厚い雲は、早送りのように流れていくが、どこまでも長く連なっていて、中々切れ目を見せてはくれない。
「そう、だよな……関係ねえよな」
「ああ」
加藤は、自らにも言い聞かせるように頷いた。
「でもよ、だとすると、いったい誰があんなことを――」
「さあな。とにかく、今はこの場所から脱出することだけに集中するんだ。事件の捜査なんて、警察に任せればいい」
加藤は遮るように言ってタバコを取り出すと、ライターで火を点け、窓を僅かに開けて煙をくゆらせた。
「お前、禁煙してたんじゃなかったのか?」
「……ふん。この状況でそんなことを気にしてても、しょうがあるまい? 竜真もどうだ? 落ち着くぞ」
「い、いや、俺はいい……それよりも、クスリ持ってねえか? 落ち着くにはアレが一番なんだが……あいにく切らしちまって……」
背中を丸め、頭をしなびた枝のように垂れるその姿は、酷い気持ちの落ち込み様を物語っているようだった。蕪木は、感情の起伏がときどき激しくなるのだ。
加藤はその様子を横目で見てから、自分のザックのポケットに視線を移した。
「まあ、一応、持ってきてはいるが――お前こそ、もうやめるんじゃなかったのかよ?」
「……はは。それこそ、この状況でそんなことを気にしてても、しょうがねえだろ?」




