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21,トイレ休憩。

 

 ──主人公の視点──


 あぁぁぁぁ。

 

 おしっこがしたい。


《ローリング》を解除。

 少しふらつく頭を振って、化粧室を探してみた。しかし、そんなものはないのだ。ここ、ダンジョンだし。


「え、なに。つまり、そこらへんにしろ、ということ? おかしい。誰もダンジョン攻略中のおしっこ問題について、解説していなかった。なぜなのよ」


 《視認》スキルが反応を示した。


 《視認》の効果は、『視界範囲を拡張する。拡張範囲は、移動速度の影響を受ける』。

 移動はしていないが、移動速度が∞値に近いことは、変わりない。


 よって、いまのわたしは全方位を見ることができるも同然。

 そのため死角から忍び寄っていた、黒いローブ姿のモンスターも気づいていたわけだけども。


 そちらに向かって〈ドリル・ドライバー〉を突きつける。


「なーにかな?」


「ひぃぃ! 命だけはお助けください!」


 視界情報によると、闇黒魔術〈グ〉派の一体らしく、レベル204。


 〈グ〉派魔術モンスターはひれ伏しながら、つづけた。


「私に敵意がないことは、黒魔術を使っていないことからもお分かりいただけるかと思います」


「ふぅむ。まぁそうかもね。それで、わたしに何か用なの? わたしはいま、トイレを探しているので忙しいよ」


「そのことでありますが──どうでしょうか? この闇黒魔術〈グ〉派の一員パーンと、取引をしてはいただけないでしょうか?」


「取引?」


「取引と申しましても、私が望むのは、あなた様が向かう下層とは反対方向へ、つまり上層へと無事に移動させていただくことだけでございます」


「行きたきゃいきなさい。だけど、わたしに何をくれるのかにもよるよね。わたしは欲深くはないけど、多くを求めるよ」


「ええ、もっともでございます。ですので、私が提案したいのは、いまあなた様が陥っている問題を解決できるもの──転移ゲートの鍵でございます」


 そう言って、〈グ〉の人が、確かに鍵を差し出してきた。

 視界情報によると、使用回数『5』と表示されている。


「転移ゲート? それを使うと、何かいいことがあるの?」


「地上に戻ることができます。そしてまた、この場所にすぐに舞い戻ることも可能です。ですが鍵には使用回数がありまして、私が所持しておりますこの鍵は、5回です」


「地上に行って、こっちに戻って一回?」


「ああ、いえ。地上に戻るので一回使用でございます。この階層にお戻りになりましたら、それで二回目です」


「どうせなら、もっと深い階層に転移してもいいんだけど」


「いえ。攻略者のあなた様がお使いになる場合、ご自身で攻略した階層までが転移できる場所となります」


「ふーーーーーん」


 所持アイテムになったことで、鍵の使用説明が視界に表示される。

 〈グ〉派のパーンの説明に嘘はないようだ。


「じゃ取引成立でいいよ」


「感謝いたします」


 そうして〈グ〉派パーンは、そそくさと上層に向かっていった。

 一方のわたしは鍵を使用し、転移ゲートを開く。


「我が家のトイレへ!!!」



 ──最下層にて、赤鬼の視点──


 最下層へと赤鬼が戻ると。

 ちょうど側近の一人が声をあげたところだった。


 監視モンスターが全員逃げ出したため、赤鬼は自身の直轄部下たちに、〈ローリング鬼畜〉を監視させていたのだが。


「赤鬼さま! 〈ローリング鬼畜〉が、消えました!」


「消えたとはなんだ? まさか自滅したのか?」


「あ、いえ。そうではありません。鬼畜は、どうやら転移ゲートを使い、地上に戻ったようです!」


「なんと、そんなことが──だが、われわれは救われたぞ!! 芦ノ湖ダンジョンは、救われた!!」


 その場にいたモンスターたちが歓声をあげた。

 なかには涙を流して喜んでいるものもいる。


 しかしすぐに、先ほどの報告をした側近が、


「あ、すみません。すぐに戻ってきました。どうやら一時的に地上に戻っただけのようです」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



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