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俺の親知らずを抜いていけ  作者: ぱじゃまくんくん夫
リンフォルツァンドの章
49/58

08:死闘

「全員、無線の送受信を開放しろっ!」


 峠大尉が圭吾の手を借りながらロケットランチャー発射器に擲弾を装填しつつ、激を飛ばす。


「田中っ! アタッカーを連れて1階の玄関に回って待ち伏せろ! それ以外は俺とともに銃を取れ!」


 ラットローグが、こぎつけてきた車に小銃を掃射する。窓枠に右足を乗せながら


「クソッタレの奇形がっ! 虫の湧いた脳味噌ぶちまけてやるっ!」


 銃声を響かせ、空薬莢を矢継ぎ早に跳ね出していた。


 洋瑛がわめく。


「キャプテンっ! 俺はどうすんだよっ!」


「貴様が死んだら終わりだっ! ここに残っていろっ! 救援を受けて高速運動だっ!」


 峠大尉はロケットランチャー発射器を肩に担ぐと、窓ガラスを蹴破る。片膝をついて構えた峠大尉の肩を圭吾が支える。


 弾頭が発射された。一直線に虚空を貫いていったそれは車両に飛び込んでいき、窓ガラスを響かせる衝撃音とともに、爆炎と黒煙を噴き上げた。数体の人影が吹き飛んだ。


「もう一発だ!」と峠大尉は圭吾に発射器を渡す。離した手で、背中に翻していた小銃を握り取ってくる。


「クソッタレどもの火力は貧弱だっ! クソどもは銃弾をすり抜けてくるだけだっ! アタッカーはそこを狙えっ!」


 峠大尉とラットローグが銃声を打ち鳴らして車両に弾丸を注ぎ込んでいく中、片岡がガラスを破っていく。雪村が狙撃銃の槓桿を引く。千鶴子が、杏奈が、二本柳が、銃口を階下に向ける。


「クソどもを入れるさせるなっ! 弾を雨にして注ぎ込めっ!」


 怒号と爆音が飛び交うのをよそに、田中中尉はアタッカーたちを目視していく。


 有島、菊田、由紀恵、ワイルドキャット――。


 来間山のワイルドキャットはなぜか兄の後ろ姿を恨めしそうに見つめていて、その心は戦闘にまったく入っていない。


「ワイルドキャットはいい! 付いてこい!」


 田中中尉はアタッカー3人を連れて食堂を出た。階段を足早に降りていく。空の下駄箱が置かれた薄暗い玄関までやって来ると、有島と菊田を反対側の袖に走らせて、敵が侵入してくるのを両袖から待ち伏せる。


 ロケット弾の爆発音と熱風が届いてきて、建物がわずかに揺れる。


「隊長! 玄関に到着! 侵入者があり次第、報せてください!」


 スマートデバイスに呼びかけると、イヤホンからは激しい銃声とともに峠大尉の声が飛び込んでくる。


<報せるには報せるがなっ、相手はDトランセンデンスだっ! 何があるかわからねえぞっ!>


「了解!」


 田中中尉の背後、壁に張り付いている由紀恵が、戦闘用刀子ファイティングナイフを手に取る。


 反対側では菊田が前に、有島が菊田の影にいる。


「敵が来たらまず俺が出る。お前たちは俺と相手がやり合っている隙を見て一気に畳み掛けろ」


 菊田と有島はうなずいた。


<撃てっ! クソの害虫の1匹も通すなっ!>


(もう誰も死なせん)


 田中中尉はある程度ながら気づいていた。ブラッディレイ作戦が具体化されていくとともに、作戦本部が部隊の壊滅を想定していると。


(犬死にさせてたまるか)


 22期生を荒砂山に初めて迎えた日、早速、洋瑛と菊田が喧嘩沙汰を起こして、田中中尉は頭を抱えた。たった3年で育て上げ、天進橋に送り届けられるだろうか、と。


 彼らは気がつけばそこかしこでいつでも騒動を起こしていた。洋瑛や菊田に限らず、葛原コンビは少女のくせして番長ヅラ、食堂で何かしら揉めていると思って覗いてみたら、片岡をけしかけただのなんだのと男子どもは女子どもに糾弾されていて、罵倒罵声の飛ばし合い、昼休みは博打に興じており、体育授業ではせっかく楽しませてやろうとしているのに仲間割れ。


 ところが憎めない。叱りつけたらしゅんとして猫のように丸くなり、ときにシチューを作りたいと言い出す。


(バカだな)


 と、田中中尉は思った。


 兵学生としての卒業式を与えられなかったことが心残りだ。ブラッディレイが終われば、もう一度集まって簡素な卒業式でもやりたいと考えてもいた。


 だが、2人、教え子がいなくなった。


(藤中。真奈――)


<クソ奇形のボンクラどもは回りこんだぞ! アタッカー警戒しろ! ラットローグはここを離れて廊下をおさえろ!>


 緊迫に吐息を紛れ紛れにさせながら、田中中尉は薄暗い廊下を見回す。この建物、侵入経路は玄関しかない。だが、塀を登って入り込んできた敵が部屋のガラス戸を破って突入してくるのは容易に考えられる。


「正面よりも側面だ」


 もしも瞬発力が敵方トランセンデンスにいたら、銃弾をすり抜けてこられるだろうが、依然として雨弾の中を突破してこないこの様子であると、敵に瞬発力はいない。峠大尉たちが2階から連射を続けている以上、正面からやって来ない。


「葛原――」


 と、田中中尉は背後に目を向ける。親指を立てて指し示す。


「有島と菊田と3人で向こう側に回れ。敵は側面から挟みこんでくるはずだ。もしも俺のほうに敵が来ても気を取られるな。お前たちは向こう側に注視しているんだ」


「でも、教官。1人じゃ無理だよ」


 由紀恵の瞳には教官に対する畏怖はない。仲間を思う心細さが揺らいで表れている。


 田中中尉は微笑みながら、革手袋の右手で由紀恵の頭を撫でた。


「心配するな。何かあったら近田大先生だ」


 行け、と、田中は由紀恵の腕を取り、有島や菊田がいるほうへ押し飛ばす。


 その瞬間、薄暗い廊下に人影が現れた。


 2体――。人外生物ではない。人影・・である。


 作戦隊員たちのような軍服ではなく、ニット帽子を被ったジャンパーにジーンズであったり、黒いダウンジャケットであったりした。


「敵、侵入!」


 田中中尉はスマートデバイスに呼びかけた。と、同時に、2体の人影に向かって駆け出す。


<雪村っ! カピコっ! 1階に回ってやれっ!>


 HMDのレンズモニターがステータス表示する。




 judgement in……

 ……

 ……


 Destruction:C(打撃力C)

 Legerity:S(俊敏力S)

 Instantaneous:C(瞬発力C)

 Grip:B(握力B)

 Arm:B(腕力B)

 Leg:A(脚力A)

 Defensive:B(防御力B)

 Endurance:A(持久力A)




 田中中尉が駆け寄っていくとともに、ニット帽子もこちらに駆け込んできた。田中中尉はすかさず腰に吊っていた刀子を抜き取る。水平に投げ込む。ニット帽子は空を切り裂いていったナイフを蹴り上げる。


(動体視力もか)


<近田あっ! 貴様はまだいろっ! 焦るなっ!>


 ニット帽子が右足を振り上げて無防備になったところへ田中中尉は跳躍して飛び込んでいき、そのままニット帽子の頭部へ、腰をひねって回し蹴りを払った。


 ニット帽子は目玉を血走らせながら、上体を仰け反らせる。田中中尉のブーツはニット帽子の鼻先をかすめただけで空を切る。


 右足を着地させた田中中尉、左拳を握りこむ。


 上体が仰け反ったニット帽子と目が合う。


 おそらく、相手は20代後半。一重まぶたの平たい顔面に向けて左拳を伸ばしていく。


 ニット帽子は頭をかたむけた。田中中尉の左ストレートはニット帽子の頬だけを切った。


 口許をひしゃげて笑みを見せてきたニット帽。


(このクソッタレ。相当の訓練を積んでやがる)


 田中中尉の伸びきった左腕に交錯しつつ、ニット帽は右拳を繰り出してきた。カウンターパンチに鼻頭を潰される。さらにニット帽子の左拳が田中中尉の右脇腹をえぐりあげ、くの字に折れた田中中尉の右頬に左拳、ついで顎に右拳、俊敏力トランセンデンスが繰り出してくる矢継ぎ早の攻撃にされるがまま、田中中尉はサンドバッグと化してしまう。


 しかし、めった打ちにされながらも、


「うおおっ!」


 吼え上げながら、ニット帽子の腹を右足のブーツの裏で蹴り飛ばした。


 田中中尉も俊敏力のトランセンデンス、さらに破壊力もある。彼を打ち込んでいたニット帽子は前蹴りに吹っ飛び、後ろに控えていたダウンジャケットの男もろとも、廊下の奥の突き当りの壁に叩きつけた。


 ニット帽子は膝から崩れ落ちる。血の塊を口から吐き出す。ものの、虫の息ながら、ニット帽子は自らの腹に掌を当てる。


 治癒トランセンデンス。


「させるかっ!」


 黒いダウンジャケットの男が覆いかぶさっていたニット帽子を投げ捨てた。


 田中中尉は薄暗い廊下を一直線になって駆ける。


 ダウンジャケット男は仁王立ちしている。30代半ば、背丈が180cm前後、肩幅が広い。




 judgement in……

 ……

 ……


 Destruction:S(打撃力S)

 Legerity:C(俊敏力C)

 Instantaneous:D(瞬発力D)

 Grip:S(握力S)

 Arm:S(腕力S)

 Leg:S(脚力S)

 Defensive:S(防御力S)

 Endurance:D(持久力D)




(マジか――っ)


 3つも4つも超越能力を有していそうなこのようなステータス、SGでは表示されない。


 HMDの誤差――、壊れていることを祈りながら、田中中尉は跳躍する。右足を伸ばす。


 ダウンジャケット男は両腕を交錯させて、顔をうずめる。


 飛び蹴りの衝撃にダウンジャケット男は二本の足をぴくりともぐらつかせることなく防御した。


(クソッタレ!)


 岩をも砕く打撃を受け止めたダウンジャケット男は、そのまま両腕で田中中尉を弾き返す。田中中尉は飛ばされながらも手と膝を廊下の床につけて着地する。


 ダウンジャケットが眉間に皺を刻み込んだまま、憤怒の眼差しで叫ぶ。


「身の程知らずのSGが!」


 駆け込んでくるダウンジャケット、田中中尉は屈んだままにダウンジャケットの左脛目掛けて蹴りを入れる。が、びくともしない。


(クソッタレ! 片岡以上だっ!)


 ダウンジャケット男は左脛で蹴りを受け止めつつ、右足で田中中尉を蹴りこんできた。


 田中中尉は吹っ飛んだ。廊下の側面の壁に全身で叩きつけられ、激痛が蹴りこまれた太ももを走る。力が入らない。立てない。粉砕されている。


 うずくまる彼のもとへダウンジャケット男の左拳が入る。首から上が吹っ飛んでいかんばかりの勢いで、田中中尉は再度全身を飛ばされる。ゴム毬のようにして2回、3回と床に跳ね跳び、思考のほとんども飛ぶ。ただただ絶望が脳裏をかすめる。


 田中良太郎中尉には――。


 生まれて4ヶ月の息子がいる。1歳半の長男もいる。


 ブラッディレイ作戦部隊の隊員となってから、彼らにも妻にも会っていない。


(死んでたまるか)


 田中中尉は右手をついて起き上がろうとする。が、まったく力が入らない。


「教官っ!」


 届いてきたのは雪村の声だった。


 途端、ダウンジャケット男の首から上が銃弾によって破裂した。さらに雪村が放った弾丸はダウンジャケット男の胸も貫く。


 隣には杏奈もいた。彼女の撃ちかける掃射が黒いダウンジャケットに無数の貫穴を作り出し、血しぶきとともに白い羽をまき散らす。


「カピちゃんっ! 教官を担いで2階に連れていくんだっ!」


 だが、杏奈が引き金から手を離し、小銃を背中に翻そうとしたとき――、ダウンジャケット男の肉体が舞い散る白い羽に包まれながら倒れ伏していったとき、小銃を持つ男が部屋から廊下に飛び出してきた。


「撃てえっ!」


 と、背中を壁に預けたままのニット帽子が叫ぶ。雪村が杏奈を抱え込みながら階段口の死角へと避難する。


「死ねえっ! クソSGいっ!」


 小銃が唸りを上げて銃声を響かせた。無数の弾丸が倒れ伏している田中中尉に浴びせられ、田中中尉のジャケットから噴血が上がり、彼はただただ銃弾の衝撃で人形が揺れ動いているようになった。





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