二十一話 VSガルグレン・スカイディア
場が収まった時に、突如現れた筋翼人の王。
立派な髭を生やした良い体格のその男、ガルグレンから発せられた言葉にブレイバスとリールは驚愕する。
「レアフレアのねーちゃん、筋翼人の王女かよッ!」
「レアフレアさんのお父さん、病気なんじゃないの~っ!?」
しかしそんな二人の意思になど全く関心を向けず、王はその場で飛び上がった。
先日シュンツが見せた【隕石殺法】の如き速度で行う急上昇。その上昇の際に発生したエネルギーにより地上のブレイバス達には、風圧による砂埃が襲いかかる。
空いた手を使い、目に砂が入ることを防ぎながらブレイバスとリールは上空を見上げた。
「覚悟はいいか貴様らッ!!」
シュンツの【隕石殺法】は上昇したあと下降の勢いで回避困難な剣撃を行う技である。
それに対しガルグレンのこの一撃も、動作自体はほぼ変わらない。
しかし違うのはその破壊力。武器を持たないガルグレンであったが、その2メートルはありそうな身長と岩のような筋肉の塊による重さ、そして急降下による圧倒的加速でそのまま真下のブレイバスに体当たりを仕掛けた。
「うおおッ!?」
先程他の筋翼人たちが行った飛び道具と違い、とても受けきれる威力でないと判断したブレイバスは咄嗟に後方に跳んで回避をする。
その一瞬後ブレイバスがいた地面から、爆発のような轟音と共にすさまじい土煙が舞い上がった。
「ブレイバスっ!」
ブレイバスの隣にいたはずなのに余裕を持って既に回避行動を終えているリールから声が上がる。
「問題ねえよッ!」
凄まじい破壊力と瞬発力ではあるが、軌道が読めるのであればかわせない攻撃ではない。
ブレイバスは大剣を振りかぶり土煙の中心に向かい走り出した。
この速度で一撃離脱を繰り返されてはたまったものではないが、今現在地面に激突したことによりその動きを止めている。ここが数少ない反撃のチャンスだと判断したのだ。
────が、その考えが甘かったとその一瞬後に思い知らされる事となる。
突如ブレイバスの眼前に屈強な剛腕が現れる。
土煙の勢いが衰えないまま、ガルグレンは再びブレイバスに体当たりをかましたのだ。
「うぐッ!」
土煙により見えない位置からの攻撃であったためやや反応は遅れるが、先程の急降下攻撃ほどの加速のないソレに、ブレイバスは間一髪大剣による防御に成功する。
────しかし、それで終わりではなかった。
「ぬおおおおおおおおおッ!!」
ガルグレンは攻撃を大剣で受け止められたかと思うと、ブレイバスの横腹を両手で鷲掴みにし、突進の勢いのまま持ち上げ飛翔した!
「うおおおおぉッ!?」
自身の身体が宙を飛ぶ事になるとは思っていなかったブレイバスは驚愕の声を上げる。
そしてすぐさま自身を襲うだろう出来事を予想した。
(このまま上空まで行かれて投げ捨てられるか、それとも────)
ガルグレンの飛翔方向にはあるモノがあった。
荒れ地が大半を占めるこの大空勇翼鉱山においてどこにでもある地形、『崖』。
その天然の大壁にブレイバスのみを激突させ、更にそのタイミングで飛翔の角度を大きく変える事で垂直に轢き回す事がガルグレンの狙い。
ブレイバスは完全にそれを読み切ったわけではないが、考えられる事態に備え行動を選択した。
「【破壊思考】!!」
叫びと共にブレイバスは思考を停止し、身体全身にいかなる衝撃がくる事も覚悟した。
────例えば、うつ伏せに寝そべっている人間の背中を冗談半分にそこそこの強さで踏みつけたとしよう。
踏みつけられた相手がそれを予想し腹に力を込めていれば大した衝撃ではない。
しかし逆に、その出来事を全く予想していなかった場合、そのダメージは内臓にまで響くこともある!────
ブレイバスが高らかに叫びながら行った事は、言ってみれば『我慢』である。
しかしそれは実際に効果を発揮した。
その一瞬後、天然の壁に頭から叩きつけられる事となったにも関わらず、その意識は保っていたのだ。
「【天空殺法】ッ!」
別の角度からシュンツが空を飛び、ガルグレンに斬りかかっていた。
ガルグレンはその攻撃を避けるために、ブレイバスを斜め下に投げ捨てながら身を翻す。
結果、ブレイバスが崖で轢き回される事はなくなった。が、代わりに今度は地面への激突が待ち受ける事となる!
ブレイバスの落下地点へ、既にリールが走りだしていた。
おおよそ落下の位置だろう場所で足を止め、上空のブレイバスに目を向け手を広げる。
「リール殿ッ!?」
ここまでの攻防に入ろうにも手が出せないジークアッドが声を上げる。
リールの姿勢は、明らかに自身の場所に迫るブレイバスを受け止めようとするものだった。
しかし、リールの体重で高速落下するブレイバスを受け止めようものならよくて大ケガ、最悪二人共死んでしまう可能性だってある。
「はあああぁっ!!」
そこでリールは開いた両手に魔力を込め、手を光らせる。
それはリールが得意とする癒しの光。しかし、その力を使って尚、事態が解決するとは思えない。
【愛の鉄拳】では高速落下するブレイバスを正面から打ち返す事となるが、それはブレイバスを受けとめる事よりも訳が悪い。まず間違いなくリールの細腕がへし折れ、かつ衝撃を防ぐ事が叶わず二人共無事では済まないだろう。
【愛の弾丸】は手から光の玉を捻出するのに時間がかかる。とてもではないがもう間に合わない。
【愛の癒し手】は元々待機している相手をじっくり治療する魔法。この場では論外である。
ジークアッドの思考が疑問と焦りで溢れる中、ついにはブレイバスがリールの頭上まで来た。
リールはそのブレイバスのわき腹を光る手で見事キャッチし、
「【愛の落投】ッ!!」
ゴシャアッ!
自らの背中を大きく反る事でキャッチしたブレイバスを更に加速させながら頭から地面に叩きつけた!
「……」
「……」
「……」
近くでそれをみていたジークアッドも、上空で再び火花を散らそうとしていたシュンツとガルグレンも、遠巻きで見ている事しか出来なかったユニバール兵も筋翼人達も、その出来事に誰もが手を止め沈黙した。
再び巻き上がった土煙から、額の汗をぬぐいながら「ふぅ」と息をついているリールが姿を現す。
一方ブレイバスは上半身を完全に地面に埋まらせ、その地面から生える事となった下半身だけがピクピク揺れている。
しかし、よく見るとブレイバスの頭があるであろう地面の中からリールの手から放たれていた光が漏れていた。
つまりは、ブレイバスの回復に成功したという事なのだろう。多分。きっと。おそらく。
背後で痙攣している奇妙なオブジェにはそれ以上目を向けず、リールは上空のガルグレンに顔を向け口を開いた。
「お止めください、筋翼人の国王様。レアフレアさんのためにも、どうか私たちの話をお聞きください」




