十七話 門番説得大作戦
クレイとレアフレアが崖から落下してから数時間、ブレイバス達はユニバール国の一軍、【忠真騎士】の称号を持つジークアッド・フリージアル将軍の隊と同行し、この大空勇翼鉱山の中央、筋翼人が住む拠点に辿り着いた。
その都市のような拠点の入り口は10メートルは超えるであろう大きな門で閉ざされており、その周りは鉱山の地形による天然の壁が要塞のように続いている。
門の上あたりに人が立てそうな見晴台が設置されており、そこには大きな鐘も取り付けられていた。
「であるから! ユニバール王からの正式な文面も持ってきている! とにかく話を聞いてもらおう!」
「ならん! 人間は我らが同胞の推薦がない限り何人たりともこの門をくぐることは許されん! 早急に立ち去っていただこう!」
「我らはユニバールからの正式な使者であるぞ!? それを門前払いするのがこの国の対応だというのか!?」
「人間の考えなど我らには関係のない事だ! ましてや我が国は現在非常に忙しい! いつまでもゴネると言うのならばこちらにも考えがあるぞ!」
その門の前で怒声の応酬を繰り広げているのが、隊の代表であるジークアッドと門番である筋翼人の男、動きやすそうな布と皮の服を纏い、その服の下からは屈強でかつしなやかな筋肉が見える。
背中には茶色をベースとした猛禽類を彷彿させる巨大な翼を一対二本生やし、頑なにジークアッドの要求を拒んでいた。
「リール、やっぱり筋翼人ってのは強そうだな。あの筋肉で空を飛ぶんだよな? 地形をうまく使えば無敵じゃねえか?」
「うーん、だからこそこの鉱山を拠点にしてるのかもね。私としてはレアフレアさんしか見たことなかったから茶色の羽が新鮮に感じるね。多分コッチが一般的なんだろーけど」
「俺も見たのは初めてだ……相手方らは自由に飛べるだろうから、この国境の門はまさに『外部からの侵入を防ぐことのみ』を目的としてるよな」
「内側からは自由に出れるもんねー、国として機能してる以上は取り決まりなんかもあるとは思うけど」
任務が思いの外上手くいかず苛立っているジークアッドを余所に、ブレイバスとリールは気楽な口調で初めて見る周囲を話し合っていた。
その二人の後ろから、口の裏に手を当て小声のような大声でシュンツが割って入る。
「ブレイバスさん、リールさん、呑気に話していますけど、このままじゃ俺たち国に入れないッスよ!」
「ンなこと言ったってそれをするのはジークアッド将軍の役目だろ? 筋翼人側も事情があんだろうから仕方ねーだろ」
「入れてくれないどころかなんか一触即発な空気なんスけど大丈夫ッスかね~!?」
「そんときゃそん時だ、仕方ねーよ。それに入れないなら入れないで俺たちもクレイを探しにいくって手もある。ちょっと喧嘩した後でもレアフレアのねーちゃんが一緒なら入れてくれるかもしれねーし」
ブレイバスがやれやれと手を上げながらシュンツに反論する。
その言葉を聞き、リールが何かを思いついたように開いた左手をポンとグーにした右手で叩いた。
「あ、それなら私たちから話したほうがいいかもしれないよっ」
「あん?」
「ほらっ! 今ジークアッド将軍と話してる筋翼人さんがついさっき言ってたじゃん? 『人は鳥さんの紹介がないと誰も入れてあげないよ』って! 私たち、レアフレアさんの依頼で来たんだからその名前出せば入れてくれるかもよっ! クレイ探すにしても羽のある筋翼人さん達の協力があったほうが絶対早いしさっ!」
「お! 流石リールさんッス! 名案ッス!」
「んなこと言っても本人いねーのに信じてくれっかな」
リールの提案に、ブレイバスは頭を掻きながら考える。しかしブレイバス本人も方法を考えてから行動するよりも、行動してから対策を考えるタイプであるためすぐに「とりあえず言ってみるか」という結論に落ち着いた。
そこで三人はいまだ口論をしているジークアッド達の方向へ歩いていき、やや大げさに手を広げながら門番とジークアッドの間に割って入った。
「あーあー、門番殿お仕事ご苦労さん、実に熱心で何よりだ」
「ブレイバス殿……?」
ブレイバスの気楽な言い方に、ジークアッドは不安そうにこちらを見つめ、門番の筋翼人も眉をひそめて睨みつけてくる。
「たださ! さっきアンタ言ったよな? 『この国に入るには同胞の推薦が必要だ』ってよ。実は俺たち三人はな、その推薦をもらってここまで来たんだ」
「なに?」
尚も疑わしげに睨んでくる門番に、ブレイバスはニカッと笑って見せ、リールと共に話を続けた。
「ああ、レアフレアってねーちゃんからだ! 知ってる? 真っ白な羽が目立つから大空勇翼鉱山でも結構有名なんじゃねーの? わかんねーけど」
「綺麗なウェーブがかかった金色の髪でー、ちょっと色黒でー、『ますです~』って口癖の子っ!」
「……き、貴様ら、今なんと言った?」
「あん? だからレアフレアってねーちゃんだよ? 一個人まではわかんねーか? 今この場にはいねーんだけど……リール、あとなんかわかりやすい特徴あったか?」
「えー、ん~っと……」
ブレイバス達が更に説明を続けようとした瞬間──相手は翼をはためかせ、上空に飛び上がったかと思うと高台に降り立ち、巨大な丸太を鐘に打ち付け、大きな音を鳴らす。
大空勇翼鉱山中に響きそうなけたたましい音が鳴り響く中、門番の男は声を張り上げた。
「敵襲----ッ! 人間共が攻めてきたぞッ!! 総員戦闘準備ッ!!」
「な……」
「え?」
「はぁ??」
突然の敵認定を受け、絶句する一同。
そんなこちらを、明らかな敵意がこもった鋭い目で見降ろしながら、門番は更に叫ぶ。
「貴様らか人間どもがッ!! 一体なんのつもりだッ!? レアフレア様をどこにやったか、すぐに吐いてもらうぞッ!!」
「ええ~~っ!??」
「ナニィーーッ!!?」
絶叫するブレイバス達の心境など無視するかのように、鐘の音を合図にあらゆる方向から猛禽類の翼が次々と集まっていき、殺意の瞳に様々な武器を携えながら、あっという間にジークアッド隊を包囲した。




